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山家集の比較

岩波文庫山家集と新潮日本古典集成の比較をしてみます。

      岩波文庫「新訂山家集」     新潮日本古典集成「山家集」

 発行所    岩波書店             新潮社
 初版発行   1928年10月5日       1982年4月10日
 校訂者    佐々木信綱氏          後藤重朗氏
 底本     山家集類題            陽明文庫蔵「山家集」
 歌数     山家集  1727首         山家集 1552首 
         聞書集   261首
          残集    25首
          補遺   119首   
          連歌     8首 

 各山家集の歌数は新訂山家集の方が175首多く採録しています。これは佐々木信綱氏が
 異本山家集から追加補入したためです。

 新訂山家集の底本である「松本柳斎」編の「山家集類題」の歌数は1568首です。
 これに忠実であれば、新訂山家集の「山家集」の歌数も1568首となります。
 つまり、佐々木氏が追加補入した歌数は159首となります。

 佐々木氏が補入した歌には頭部に○印が付されています。山家集中155首に○印が
 あり、残り4首については○印のつけ忘れと思います。

 ○印のつけ忘れの歌は以下に記します。あと一首の発見がまだです。
 校合作業を続けます。
 
  93 津の国の難波の春は夢なれや蘆の枯葉に風わたるなり
 
 128 風になびく富士の煙の空にきえて行方も知らぬ我が思ひかな

 189 いづくにもすまれずばただ住まであらむ柴のいほりのしばしなる世に

日本古典集成の山家集と山家集類題の歌数の違いは16首になります。
それから互いに未掲載の25首から5首を引きかつ、○印の付されていない歌4首を
引くと16首になりますので、それで合うのではないかと思います。


新潮日本古典集成山家集にあって岩波文庫山家集にない歌、五首を抜粋します。
 (数字は歌番号)

○111  吉野山 峯なる花は いづかたの 谷にか分きて 散りつもるらん

○209  五月雨は いはせく沼の 水深み わけし石間の 通ひどもなし

○887  いかにして うらみし袖に 宿りけん 出で難く見し 有明の月

○1141 ながれ出づる 涙に今日は 沈むとも 浮かばん末を なほ思はなん

○1511 深き山は 苔むす岩を たたみあげて ふりにし方を 納めたるかな
           
            以上5首

  以下は岩波文庫山家集にあって、新潮古典集成山家集にない歌です。
  (数字はページ数)

○14   とけそむる初若水のけしきにて春立つことのくまれぬるかな

○15   かすめども春をばよその空に見て解けんともなき雪の下水

○19   香にぞまづ心しめ置く梅の花色はあだにも散りぬべければ

○43   山川の波にまがへるうの花を立かへりてや人は折るらむ

○44   時鳥きく折にこそ夏山の青葉は花におとらざりけれ  

○48   五月雨の軒の雫に玉かけて宿をかざれるあやめぐさかな

○49   五月雨はいささ小川の橋もなしいづくともなくみをに流れて

○64   ひとりねの寝ざめの床のさむしろに涙催すきりぎりすかな

○64   物思ふねざめとぶらふきりぎりす人よりもけに露けかるらむ

○75   汲みてこそ心すむらめ賤の女がいただく水にやどる月影

○76   嬉しきは君にあふべき契ありて月に心の誘はれにけり

○78   月すみてなぎたる海のおもてかな雲の波さへ立ちもかからで

○89   錦をばいくのへこゆるからびつに収めて秋は行くにかあるらむ

○92   神無月木葉の落つるたびごとに心うかるるみ山べの里

○93   津の国の難波の春は夢なれや蘆の枯葉に風わたるなり

○97   月出づる軒にもあらぬ山の端のしらむもしるし夜はの白雪

○99   あらち山さかしく下る谷もなくかじきの道をつくる白雪

○104  山里に家ゐをせずば見ましやは紅ふかき秋のこずゑを

○107  あくがれしあまのがはらと聞くからにむかしの波の袖にかかれる

○128  風になびく富士の煙の空にきえて行方も知らぬ我が思ひかな

○143  あふことを夢なりけりと思ひわく心のけさは恨めしきかな

○166  杣くたすまくにがおくの河上にたつきうつべしこけさ浪よる

○189  いづくにもすまれずばただ住まであらむ柴のいほりのしばしなる世に

○204  なき跡をそとばかりみて帰るらむ人の心を思ひこそやれ

○224  ふけて出づるみ山も嶺のあか星は月待ち得たる心地こそすれ     

          以上 25首

         以上、 2005年2月3日入力  2月4日校正


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  新潮版と岩波版で語句に異同のある歌を抜粋します。
  以下については取り上げません。

 ○ 同じ読みの漢字表記とひらがな表記の場合。
   「いくらの」と「幾らの」、「子日する」と「ねの日する」 など。
 
 ○ 大意に作用しない一文字違い。
   「しるらむ」「しるらん」「なるらん」「なるらむ」など。
 
 ○ 漢字の読みは同一であっても、文字違いのもの。

  新潮版は歌番号、岩波版はページ数。異同部分は新潮は赤、岩波は青です。

    1   
立つ春の朝よみける
   14   
立春の朝よみける 

   3   春立つと 思ひもあへぬ 
朝出でに いつしか霞む 音羽山かな
  14   春たつと思ひもあへぬ
朝とでにいつしか霞む音羽山かな

   5   
家々 翫 春といふこと
  15   
家々に春を翫ぶといふことを

   5   かどごとに 
立つる小松に 飾られて 宿てふ宿に 春は来にけり
  15   門ごとに
たつる小松にかざされて宿てふやどに春は来にけり

  10   春
知れと 谷の細水 洩りぞくる 岩間の氷 ひま絶えにけり
  16   春
しれと谷の下水もりぞくる岩間の氷ひま絶えにけり


   4 見せ顔に(見せがほに)・霞なりけり(霞なりける)
   6 立てたる松に(たてたる松に)・植ゑそへん(植ゑそへむ)・千代重ぬべき(千代かさぬべき)
   7 いふこと(いふことを)・そらにや春の(空にや春の)・立つを知るらん(立つをしるらむ)
   8 年越しに(年超えに)・春立つ心を(春立つこころを)・いつしかと(いつしかも)
   9 方違へに(方たがへに)・霞みけるを見て(霞みたりけるを見て)・逢坂山の(あふさか山の)・
     たち遅れたる(立ちおくれたる)・越ゆらん(越ゆらむ)
  11 なにをか春と(何をか春と)
  12 海辺の霞(海邊の霞)・藻塩焼く(もしほやく)・たちのかで(立ちのかで)・煙立ちそふ(烟あらそふ)