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君は朝に扉を開けて

蛍光灯の豆電球だけをともした
十一階の病室の窓際の椅子に座って
ガラス越しに外を見る
ずっと 見続けている
大都会 名古屋の地には夜がない
近くの幹線道路を
煌煌として車が飛んでいく
さまざまなイルミネーションが
夜の領域を奪っている

夜は奪われて久しいけれども
人工の光が届かないところでは
やはり 暖かく忍び寄り
人を眠らせる
明日のために



病んでいた君は
一年ほどを病の蹂躙にまかせていた君は
暗い電灯の下で
いくつものチューブをまといつかせて
目覚める事のない眠りを眠っている
弱い脈動が
寝具をかすかに動かせている

意識もなくなって
寝たままの五日

私には睡魔も寄り付かない
夕 夜中 そして白じらの朝に
病室で内と外を見る
内では君が規則的な脈動をみせ
外では道路を車が飛んでいく
人生を象徴するように

さまざまなことが去来する
思い出の中の時間は
勝手にさかのぼるのだ
思い出の淵がある
そこは生のうちのいくつかの断片を凝縮した淵だ
さまざまな断片が脈絡もなく見える
可もなく不可もなくという
ただ懐かしいことだけが思い出なのだろうか?
別天地の都会だった八幡浜に二人で行って
十円を惜しんだという・・・・・・
そんなことさえも

君は六文銭を用意したかい
眠っている間に用意できたかい?
十円ではないよ

いつものように
変わりない名古屋の夜明けだ
空が明るさを取り戻している


一日一文
多分そうなのだろう

君はこの朝 扉を開けて
六文の銭を払って 
川の渡しの船にのり
しずしずと
向こうの岸に渡った
見送られることが照れくさいように
少し眼を離しているうちに

清らかな白い闇
薄い霧が出ている



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