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夢のような一年

 一年が過ぎた。夢のような一年だった。
 発端はこうだ。パソコンの話だ。メールマガシン
配信サービスのマグマグが送ってくる新着情報記
事の中で、私に合いそうなマガシンがないかと探し
ていた。偶然に「西行の生涯とその歌」というのを
見つけた。創刊号配信前のことで、こういうマガシ
ンを発行するという予告記事だった。当然、すぐに
購読の申し込み登録をした。なんたって無料だ。
 この頃には私のパソコン歴も一年ほどになってい
た。独学でなんとかメールソフトの使い方もマスター
して、これから本格的にパソコンを使い込みたいと
思っていた。その頃には、仕事に関係する宝飾関
係サイトのマガシンを三誌ほど、詩関係を二誌、
京都関係二誌、あと興味本位で五誌ほど購読して
いたと思う。その縁で仕事関係では「宝石学の世界」
というマガシン発行者のF氏には「阿部宝飾」という
私のホームページを無料で作っていただいた。一度
の面識もないのに一方ならぬお世話になっている。
氏の宝石学の博識にはただただ舌を巻くより他に
なく、職人歴が四十年近い私も教えられることばか
りだ。私よりはるかに若い方だが、ひそかに兄事して
いる。
 少しばかり話がずれた。戻る。
 マガシン「西行の生涯とその歌」は一週間に一度の
発行で五十四週、特集号もあわせて十三ヶ月余を要
して、今年五月末に終刊した。発行者のT氏ご夫妻には
感謝している。人間の可能性ということを示していただ
いたと思う。お二人共に職業を持っていて、いつも多
忙を極めておりながら、何冊もの資料に当たり、長文
をタイプして一週間に一度の頻度で発行するのは、
なまなかなことではない。なんと驚くべきことに、
T氏ご夫妻はもう一つマガシンを発行しているのだ。
私の感覚では、これは人間業ではない。他のマガシン
は一週間に一度の発行とうたってはいても、いずれ
反故になって発行そのものが途絶えてしまうのが多い
のだが、「西行の生涯とその歌」はきっちりとやり遂げ
た。
 責任感の強いご夫婦であると思う。常に勉強しょうと
する姿勢があり、時間を怠惰に流すことなく最大限に
有効に使い、しかも、そのことを楽しんでおられる方
であると思う。我が身に置き換えてみる。とても無理だ。
そんなことはできるはずがない。五十の大台も過ぎて、
もうこの世との関わりも残り少しとなってみれば、いく
ら鈍感でも自分というものが少しは見えてくるものだ。
突拍子もない妄想をもったり、過大に評価したりはし
ないという年齢だ。
  「西行の生涯とその歌」から派生したメーリングリス
トが補完的に機能した。会員は自由にメッセージを投
稿して、それを全ての会員が読めるというシステムは
驚異的だ。私に新しい世界をもたらせた。職業も年齢
も生い立ちも住所も違うさまざまな方々がメールを発
信する。感情的、感覚的な短い文章ではなく、知性
的、論理的なメールが殆どだ。誰彼となく、発信する
メールを読んでみて、「世の中にはすごい方たちがい
る」ということを改めて思う。
 パソコンは今でも安い機械ではないが、私の知らな
いことをたくさん教えてくれる。ことに聴覚に障害のあ
る私は、情報に飢えている面があることは事実であっ
て、パソコンでさまざまな情報に接することができるの
はうれしいことだ。
 かくして、私の夢のような一年が終わり、そしてまた、
確実に夢のような一年がくる。人生、捨てたものでは
なく、かつ、長生きはしてみるものだと実感している。
            
            (2001.06)
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