山家集の研究 (佐佐木信綱校訂・岩波文庫・山家集から)
夕暮歌
「夕暮・夕ぐれ」
1 35
ながめつるあしたの雨の庭の面に花の雪しく春の夕暮
2 38
花もちり涙ももろき春なれや又やはとおもふ夕暮の空
3 42
行く春をとどめかねぬる夕暮はあけぼのよりもあわれなりけり
4 56
ふねよする天の川べの夕ぐれは涼しき風や吹きわたるらむ
5 62
萩の葉を吹き過ぎて行く風の音に心みだるる秋の夕ぐれ
6 62
吹きわたる風も哀をひとしめていづくも凄き秋の夕ぐれ
7 62
何ごとをいかに思ふとなけれども袂かわかぬ秋の夕ぐれ
8 62
なにとなくものがなしくぞ見え渡る鳥羽田の面の秋の夕暮
9 63
ながむれば袖にも露ぞこぼれける外面の小田の秋の夕暮
10 63
吹き過ぐる風さへことに身にぞしむ山田の庵の秋の夕ぐれ
11 63
風の音に物思ふ我が色そめて身にしみわたる秋の夕暮
12 67
心なき身にもあはれは知られけり鴫たつ澤の秋の夕ぐれ
13 68
篠原や霧にまがひて鳴く鹿の聲かすかなる秋の夕ぐれ
14 69
山おろしに鹿の音たぐふ夕暮を物がなしとはいふにやあるらむ
15 94
あはぢ潟せとの汐干の夕ぐれに須磨よりかよふ千鳥なくなり
16 99
とへな君夕ぐれになる庭の雪を跡なきよりはあはれならまし
17 100
あはれしりて誰か分けこむ山里の雪降り埋む庭の夕ぐれ
18 105
君いなば月待つとてもながめやらむあづまのかたの夕暮の空
19 154
物思ひはまだ夕ぐれのままなるに明けぬとつぐるには鳥の聲
20 160
草の葉にあらぬ袂ももの思へば袖に露おく秋の夕ぐれ
21 161
ながめこそうき身のくせとなり果てて夕暮ならぬ折もわかれぬ
22 162
人しれぬ涙にむせぶ夕ぐれはひきかづきてぞうちふされける
23 167
ふる畑のそばのたつ木にをる鳩の友よぶ聲の凄き夕暮
24 170
松風はいつもときはに身にしめどわきて寂しき夕ぐれの空
25 196
誰すみてあはれ知るらむ山ざとの雨降りすさむ夕暮の空
26 212
なき跡を誰と知らねど鳥部山おのおのすごき塚の夕ぐれ
27 274
おもひそむる心の色もかはりけりけふ秋になる夕ぐれの空
28 276
萩が枝の露にこころのむすぼれて袖にうらある秋の夕ぐれ
(他者詠歌)
279
霞さへあはれかさぬるみ熊野の濱ゆふぐれをおもひこそやれ(寂蓮)
以上