山家集の研究 (佐佐木信綱校訂・岩波文庫・山家集から)
雁
1 24
玉づさのはしがきかとも見ゆる哉とびおくれつつ歸る雁がね
2 24
何となくおぼつかなきは天の原かすみに消えて歸る雁がね
3 24
かりがねは歸る道にやまどふらむ越の中山かすみへだてて
4 66
よこ雲の風にわかるる東明に山とびこゆる初雁のこゑ
5 66
沖かけて八重の潮路を行く船はほのかにぞ聞く初雁のこゑ
6 67
からす窒ノかく玉づさのここちして雁なき渡る夕やみの空
7 67
白雲を翅にかけて行く雁の門田のおもの友したふなり
8 67
玉づさのつづきは見えで雁がねの聲こそ霧にけたれざりけれ
9 67
空色のこなたをうらに立つ霧のおもてに雁のかくる玉章
10 67
つらなりて風に亂れて鳴く雁のしどろに聲のきこゆなるかな
11 81
くまもなき月のおもてに飛ぶ雁のかげを雲かと思ひけるかな
12 95
風さむみいせの濱萩分けゆけば衣かりがね浪に鳴くなり 註1
13 147
つれもなく絶えにし人を雁がねの歸る心とおもはましかば
14 156
人はこで風のけしきのふけぬるにあはれに雁のおとづれて行く
15 173
あさかへるかりゐうなこのむら鳥ははらのをかやに聲やしぬらむ
16 258
月はみやこ花のにほひは越の山とおもふよ雁のゆきかへりつつ
17 271
いかでわれ常世の花のさかり見てことわりしらむ歸るかりがね
18 271
歸る雁にちがふ雲路のつばくらめこまかにこれや書ける玉づさ