虫の歌 (虫、蛬 松虫、鈴虫、くつわ虫、ささがに、蝉、蛍、蝶、われから)
虫
64
あき風のふけ行く野邊の虫の音のはしたなきまでぬるる袖かな
64
虫の音をよそに思ひてあかさねば袂も露は野邊にかはらじ
64
野邊になく虫もや物は悲しきとこたへましかば問ひて聞かまし
64
あきの夜に聲も惜しまず鳴く虫を露まどろまず聞きあかすかな
64
よもすがら袂に虫の音をかけてはらひわづらふ袖の白露
64
虫の音を弱り行くかと聞くからに心に秋の日數をぞふる
64
秋深みよわるは虫の聲のみか聞く我とてもたのみやはある
64
虫のねにさのみぬるべき袂かはあやしや心物思ふらし
65
こ萩咲く山田のくろの虫の音に庵もる人や袖ぬらすらむ
66
その折の蓬がもとの枕にもかくこそ虫の音にはむつれめ
66
分けて入る袖にあはれをかけよとて露けき庭に虫さへぞ鳴く
66
限あればかれ行く野邊はいかがせむ虫の音のこせ秋の山ざと
275
かくれなく藻にすむ蟲は見ゆれども我からくもる秋の夜の月
蛬 (きりぎりす)
63
夕されや玉うごく露の小ざさ生に聲まづならす蛬かな
63
蛬なくなる野邊はよそなるを思はぬ袖に露ぞこぼるる
64
ひとりねの寢ざめの床のさむしろに涙催すきりぎりすかな
64
きりぎりす夜寒になるを告げがほに枕のもとに來つつ鳴くなり
64
きりぎりす夜寒に秋のなるままによわるか聲の遠ざかり行く
64
物思ふねざめとぶらふきりぎりす人よりもけに露けかるらむ
65
ひとりねの友にはならで蛬なく音をきけば物思ひそふ
65
我が世とやふけ行く月を思ふらむ聲もやすめぬ蛬かな
65
かべに生ふる小草にわぶる蛬しぐるる庭の露いとふらし
66
霜うづむ葎が下のきりぎりすあるかなきかに聲きこゆなり
74
月のすむ淺茅にすだくきりぎりす露のおくにや秋を知るらむ
松虫
64
あきの野の尾花が袖にまねかせていかなる人をまつ虫の聲
66
さらぬだに聲よわりにし松虫の秋のすゑには聞きもわかれず
74
露ながらこぼさで折らむ月影に萩がえだの松虫のこゑ
鈴むし
65
草ふかみ分け入りて訪ふ人もあれやふり行く宿の鈴むしの聲
186
おもひおきし浅茅が露を分けいればただわづかなる鈴虫の聲
くつわ虫
65
うち具する人なき道の夕されば聲立ておくるくつわ虫かな
ささがに (蜘蛛)
57
ささがにのくもでにかけて引く糸やけふ棚機にかささぎの橋
172
ささがにのいと世をかくて過ぎにけり人の人なる手にもかからで
213
ささがにの糸に貫く露の玉をかけてかざれる世にこそありけれ
283
天の川流れてくだる雨をうけて玉のあみはるささがにのいと
せみ
53
水の音にあつさ忘るるまとゐかな梢のせみの聲もまぎれて
54
柳はら河風ふかぬかげならばあつくやせみの聲にならまし
63
山里の外面の岡の高き木にそぞろがましき秋の蝉かな
163
むなしくてやみぬべきかな空蝉の此身からにて思ふなげきは
170
松風の音あはれなる山里にさびしさそふる日ぐらしの聲
274
あしひきの山陰なればと思ふまに梢につぐるひぐらしの聲
蛍
250
澤水にほたるのかげのかずぞそふ我がたましひやゆきて具すらむ
250
おぼえぬをたがたましひの來たるらむと思へばのきに蛍とびかう
蝶
24
ませにさく花にむつれて飛ぶ蝶の羨しきもはかなかりけり
われから「海草などに付着している甲殻類の一種」
127
波もなし伊良胡が崎にこぎいでてわれからつけるわかめかれ海士
以上
2006/08/03 「われから」追加。