山家集の研究 (佐佐木信綱校訂・岩波文庫・山家集から)
梅の歌
(梅・むめ)
1 19
香にぞまづ心しめ置く梅の花色はあだにも散りぬべければ
2 19
梅をのみわが垣ねには植ゑ置きて見に來む人に跡しのばれむ
3 20
とめこかし梅さかりなるわが宿をうときも人は折にこそよれ
4 20
香をとめむ人をこそまて山里の垣根の梅のちらぬかぎりは
5 20
心せむ賎が垣ほの梅はあやなよしなく過ぐる人とどめける
6 20
この春はしずが垣ほにふれわびて梅が香とめむ人したしまむ
7 20
ひとりぬる草の枕のうつり香は垣根の梅のにほひなりけり
8 20
何となく軒なつかしき梅ゆゑに住みけむ人の心をぞ知る
9 20
ぬしいかに風渡るとていとふらむよそにうれしき梅の匂を
10 20
梅が香を山ふところに吹きためて入りこん人にしめよ春風
11 21
柴の庵によるよる梅の匂ひ來てやさしき方もあるすまひかな
12 22
梅が香にたぐへて聞けばうぐひすの聲なつかしき春の山ざと
13 22
つくり置きし梅のふすまに鶯は身にしむ梅の香やうつすらむ
14 22
すぎて行く羽風なつかし鶯のなづさひけりな梅の立枝を
15 46
ほととぎす花橘になりにけり梅にかおりし鶯のこゑ
16 112
まがふ色は梅とのみ見て過ぎ行くに雪の花には香ぞなかりける
17 146
折らばやと何思はまし梅の花めづらしからぬ匂ひなりせば
18 146
行きずりに一枝折りし梅が香の深くも袖にしみにけるかな
19 157
心にはふかくしめども梅の花折らぬ匂ひはかひなかりけり
20 157
折る人の手にはたまらで梅の花誰がうつり香にならむとすらむ
21 172
紅の色こきむめを折る人の袖にはふかき香やとまるらむ
22 233
匂ひくる梅の香むかふこち風におしてまた出づる舟とももがな
23 233
とめこかし梅さかりなるわが宿をうときも人はをりにこそよれ
24 243
いろよりは香はこきものを梅の花かくれむものかうづむしら雪
25 243
雪の下の梅がさねなる衣の色をやどのつまにもぬはせてぞみる
26 271
色にしみ香もなつかしき梅が枝に折しもあれやうぐひすの聲
27 272
とめ行きて主なき宿の梅ならば勅ならずとも折りてかへらむ
梅にかかる花の歌
53 風をのみ花なきやどは待ちまちて泉のすゑを又むすぶかな
詞書
1 222
やう梅の春の匂ひはへんきちの功コなり、紫蘭の秋の色は
普賢菩薩のしんさうなり
野邊の色も春の匂ひもおしなべて心そめたる悟りにぞなる
「(やう梅)は(楊梅)でヤマモモのこと。」
以上
■ 入力 2002年03月24日
■ 入力者 阿部和雄
■ 校正 未校正