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          山家集の研究   植物の歌

  松の歌              (佐佐木信綱校訂・岩波文庫・山家集から)
   
  「 松 ・小松 」 

 1  15 
 門ごとにたつる小松にかざされて宿てふやどに春は來にけり
 
 2  16  子日してたてたる
に植ゑそへむ千代かさぬべき年のしるしに

 3  16  春ごとに野邊の
小松を引く人はいくらの千代をふべきなるらむ

 4  16  ねの日する人に霞はさき立ちて
小松が原をたなびきにけり

 5  17  わか菜つむ今日に初子のあひぬれば
にや人の心ひくらむ

 6  18  波こすとふたみの
の見えつるは梢にかかる霞なりけり

 7  34  谷風の花の波をし吹きこせばゐせぎにたてる嶺のむら


 8  46  山里の人もこずゑの
がうれにあはれにきゐる時鳥かな

 9  52  ともしするほぐしの
もかへなくにしかめあはせで明す夏の夜

10  54  けふもまた
の風ふく岡へゆかむ昨日すずみし友にあふやと

11  70  かげうすみ
の絶間をもり来つつ心ぼそくや三日月の空

12  80  雲はるる嵐の音は
にあれや月もみどりの色にはえつつ

13  89  
にはふまさきのかづらちりぬなり外山の秋は風すさぶらむ

14 100  緑なる
にかさなる白雪は柳のきぬを山におほえる 

15 108  庭よりも鷺居る
のこずゑにぞ雪はつもれる夏のよの月

16 111  久にへて我が後の世をとへよ
跡したふべき人もなき身ぞ

17 111  ここを又我が住みうくてうかれなば
はひとりにならむとすらむ

18 111  
の下は雪ふる折の色なれやみな白妙に見ゆる山路に 

19 112  雪つみて木も分かず咲く花なればときはの
も見えぬなりけり

20 117  昔みし
は老木になりにけり我がとしへたる程も知られて

21 119  古への
のしづえをあらひけむ波を心にかけてこそ見れ

22 119  
がねの岩田の岸の夕すずみ君があれなとおもほゆるかな

23 130  枯れにける
なき宿のたけくまはみきと云ひてもかひなからまし

24 130  ときはなる
の緑も神さびて紅葉ぞ秋はあけの玉垣

25 140  波ちかき磯の
がね枕にてうらがなしきは今宵のみかは

26 141  千代ふべき二葉の
のおひさきを見る人いかに嬉しかるらむ

27 142  澤べより巣立ちはじむる鶴の子は
の枝にやうつりそむらむ

28 142  君が代のためしに何を思はましかはらぬ
の色なかりせば

29 142  萬代のためしにひかむ亀山の裾野の原にしげる
小松

30 142  かずかくる波にしづ枝の色染めて神さびまさる住の江の


31 142  若葉さす平野の
はさらにまた枝にや千代の数をそふらむ

32 165  思ひ出でよみつの濱
よそだつるしかの浦波たたむ袂を

33 166  嶺おろす
のあらしの音に又ひびきをそふる入相の鐘

34 168  あら磯の波にそなれてはふ
はみさごのゐるぞ便なりける

35 168  浦ちかみかれたる
の梢には波の音をや風はかるらむ

36 170  谷のまにひとりぞ
はたてりける我のみ友はなきかと思へば

37 172  我がそのの岡べに立てる一つ
をともと見つつも老にけるかな

38 195  ながれみし岸の木立もあせはてて
のみこそは昔なるらめ

39 196  昔見し庭の
小松に年ふりてあらしの音をこずゑにぞ聞く

40 223  住よしの
が根あらふ浪のおとを梢にかくる沖つしら波

41 233  注連かけてたてたるやどの
に来て春の戸あくるうぐひすの聲

42 233  箱根山こずゑもまだや冬ならむ二見は
のゆきのむらぎえ

43 247  難波江の岸に磯馴れてはふ
をおとせであらふ月のしら波

44 260  衣川みぎはによりてたつ波はきしの
が根あらふなりけり

45 263  誰がかたに心ざすらむ杜鵑さかひの
のうれに啼くなり

46 267  瀧おちし水のながれもあとたへて昔かたるは
の風のみ

47 275  われなれや
のこずゑに月かけてみどりのいろに霜ふりにけり

48 280  藤浪をみもすそ川にせきいれて百枝の
にかかれとぞ思ふ

49 283  老いゆけば末なき身こそ悲しけれ片やまばたの
の風折れ


 「ごえふ」 (五葉の松のこと)

 1  17  君が爲
ごえふの子日しつるかなたびたび千代をふべきしるしに

 2  17  子日する野邊の我こそぬしなるを
ごえふなしとて引く人のなき
           
 「松風」

 1  54  
松風の昔のみなにか石ばしる水にも秋はありけるものを

 2  55  つねよりも秋になるをの
松風はわきて身にしむ心地こそすれ  

 3  79  木の間もる有明の月をながむればさびしさ添ふる嶺の
松風 

 4 124  ふかく入りて神路のおくを尋ぬれば又うへもなき峰の
松かぜ

 5 152  いはしろの
松風きけば物を思ふ人も心はむすぼほれけり

 6 170  
松風はいつもときはに身にしめどわきて寂しき夕ぐれの空

 7 170  
松風の音あはれなる山里にさびしさそふる日ぐらしの聲

 8 241  思ひいでし尾上の塚のみちたえて
松風かなし秋のゆふやみ

  「地名」

 1  73  
松島や雄島の磯も何ならずただきさがたの秋の夜の月(宮城県)

 2 110  
松山の波に流れてこし舟のやがてむなしくなりにけるかな (香川県)

 3 111  
まつ山の波のけしきはかはらじをかたなく君はなりましにけり (香川県)

 4 159  たのめおきし其いひごとやあだになりし波こえぬべき末の松山 (香川県)

 5 183  松山の涙は海に深くなりてはちすの池に入れよとぞ思ふ(香川県)(女房)

 6 233  春になればところどころはみどりにて雪の波こす末の松山(香川県)

 7 242  こがれけむ松浦の舟のこころをばそでにかかれる泪にぞしる(長崎県)

  「他者詠歌」「重複歌」

 1 176  色かへで獨のこれるときは木はいつを
まつとか人の見るらむ(為なり)

 2 281  ふぢ浪もみもすそ川のすゑなれば下枝もかけよ
の百枝に(俊成)

 3 282  ~路山
のこずゑにかかる藤の花のさかえを思ひこそやれ(定家)

 4 183  松山の涙は海に深くなりてはちすの池に入れよとぞ思ふ(香川県)(女房)

                       以上。  2004年6月21日入力。