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山家集の研究 植物の歌
草・小草
(草・小草・若草・夏草・下草・草葉・草の葉・草木・木草・草ぐき・くさ)
(浮草・あやめ草・七草・露草・みまくさ・もしほぐさ)
1 18 澤もとけずつめど籠(かたみ)にとどまらでめにもたまらぬゑぐの草ぐき
2 20 ひとりぬる草の枕のうつり香は垣根の梅のにほひなりけり
3 24 生ひかはる春の若草まちわびて原の枯野にきぎす鳴くなり
4 42 草しげる道かりあけて山ざとに花みし人の心をぞみる
5 52 たび人の分くる夏野の草しげみ葉末にすげの小笠はづれて
6 54 よられつる野もせの草のかげろひて凉しくくもる夕立の空
7 56 いそぎ起きて庭の小草の露ふまむやさしき數に人や思ふと
8 58 おしなべて木草の末の原までもなびきて秋のあはれ見えける
9 58 あはれいかに草葉の露のこぼるらむ秋風立ちぬ宮城野の原
10 61 しげり行く芝の下草おはれ出て招くや誰をしたふなるらむ
11 61 玉にぬく露はこぼれてむさし野の草の葉むすぶ秋の初風
12 62 わづかなる庭の小草の白露をもとめて宿る秋の夜の月
13 65 草ふかみ分け入りて訪ふ人もあれやふり行く宿の鈴むしの聲
14 65 かべに生ふる小草にわぶる蟲しぐるる庭の露いとふらし
15 75 月は猶よなよな毎にやどるべし我がむすび置く草のいほりに
16 79 虫の音もかれ行く野邊の草の原にあはれをそへてすめる月影
17 79 荒れわたる草のいほりにもる月を袖にうつしてながめつるかな
18 93 霜かづく枯野の草は寂しきにいづくは人の心とむらむ
19 103 旅寝する草のまくらに霜さへて有明の月の影ぞまたるる
20 109 くさまくら旅なる袖におく露を都の人や夢に見るらむ
21 117 山城のみづのみくさにつながれてこまものうげに見ゆるたびかな (註1)
22 122 いほりさす草のまくらにともなひてささの露にも宿る月かな
23 154 夏草のしげりのみ行く思ひかな待たるる秋のあはれ知られて
24 155 秋ふかき野べの草葉にくらべばやもの思ふ頃の袖の白露
25 158 草しげみ澤にぬはれてふす鴫のいかによそだつ人の心ぞ
26 160 草の葉にあらぬ袂ももの思へば袖に露おく秋の夕ぐれ
27 166 わけ入りて誰かは人の尋ぬべき岩かげ草のしげる山路を
28 169 いかでかは音に心のすまざらむ草木もなびく嵐なりける
29 188 あはれ知る涙の露ぞこぼれける草のいほりをむすぶちぎりは
30 197 あはれただ草のいほりのさびしさは風より外にとふ人ぞなき
31 213 誰とてもとまるべきかはあだし野の草の葉ごとにすがる白露
32 220 かぐら歌に草とりかふはいたけれど猶其駒になることはうし
33 227 秋の野のくさの葉ごとにおく露をあつめば蓮の池たたふべし
34 228 夏草の一葉にすがるしら露も花のうへにはたまらざりなり
35 229 たちゐにもあゆぐ草葉のつゆばかり心をほかにちらさずもがな
36 241 いとへただつゆのことをも思ひおかで草の庵のかりそめの世ぞ
(うき草・うきくさ)
37 38 花さへに世をうき草になしにけりちるを惜しめばさそふ山水 ▲
38 235 花さへに世をうき草になりにけり散るを惜しめばさそふ山水 ▲
39 250 なかなかにうき草しける夏のいけは月すまねどもかげぞすずしき
40 270 さ夜ふけて月にかはづの聲きけばみぎはもすずし池のうきくさ
(あやめ草・あやめぐさ)
41 47 世のうきにひかるる人はあやめ草心のねなき心地こそすれ
42 48 西にのみ心ぞかかるあやめ草この世はかりの宿と思へば
43 48 みな人の心のうきはあやめ草西に思ひのひかぬなりけり
44 48 五月雨の軒の雫に玉かけて宿をかざれるあやめぐさかな
(七くさ・ななくさ)
45 18 卯杖つき七くさにこそ出でにけれ年をかさねて摘める若菜に
46 242 ななくさに芹ありけりとみるからにぬれけむ袖のつまれぬるかな
(露草)
47 61 うつり行く色をばしらず言の葉の名さへあだなる露草の花
(みまくさ)
48 52 みまくさに原の小薄しがふとてふしどあせぬとしか思ふらむ (註2)
(もしほぐさ)
49 49 さみだれにほすひまなくてもしほぐさ烟もたてぬ浦の海士人 (註3)
註1 (みくさ)の「み」は(くさ)の美称
註2 (みまくさ)は「み=美称」+「まくさ」
(まくさ)は馬の飼料となる草のこと。
註3 塩を製造するために焼く藻のこと。
▲ 重複歌
(地名)
69 鶉なく折にしなれば霧こめてあはれさびしき深草の里 (京都市)
123 分けて行く色のみならず梢さへちくさのたけは心そみけり (和歌山県)
(他者詠歌)
139 あだにふく草のいほりのあはれより袖に露おく大原の里 (寂然)
139 ますらをが爪木に通草さしそへて暮るれば歸る大原の里 (寂然)
通草=アケビのこと。
以上、2004年7月10日入力。