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山家集の研究
植物の歌
(蓬、芹・蕨・えぐ・なずな・瓜・くらら・蓼)
(葎・葛・正木・つらら・蔦・アケビ)
(蘆・芦・葦・菰・かつみ・浮草・ぬなは)
「 蓬・よもぎ 」
1 53 蓬生のさることなれや庭の面にからすあふぎのなぞしげるらむ
2 66 その折の蓬がもとの枕にもかくこそ虫の音にはむつれめ
3 79 蓬分けて荒れたる宿の月みればむかし住みけむ人ぞこひしき
4 95 秋すぎて庭のよもぎの末見れば月も昔になるここちする
5 96 音もせで岩間たばしる霞こそ蓬の宿の友になりけれ
6 185 これや見し昔住みけむ跡ならむよもぎが露に月のやどれる
7 195 故郷の蓬は宿のなになれば荒れ行く庭にまづしげるらむ
8 210 分けいりて蓬が露をこぼさじと思ふ人をとふにあらずや
210 とへかしな別の袖に露しげき蓬がもとの心ぼそさを (寂然)
「 こ芹・芹・せり 」
1 16 小せりつむ澤の氷のひまたえて春めきそむる櫻井のさと
2 163 かつすすぐ澤のこ芹のねを白み清げにものを思はするかな
3 189 何となくせりと聞くこそあはれなれつみけむ人の心しられて
4 242 ななくさに芹ありけりとみるからにぬれけむ袖のつまれぬるかな
「 さ蕨 」
1 23 なほざりに焼き捨てし野のさ蕨は折る人なくてほどろとやなる
2 282 萌えいづる峯のさ蕨なき人のかたみにつみてみるもはかなし
「 ゑぐ 」 (黒クワイのこと)
1 18 年ははや月なみかけて越えにけりうべつみけらしゑぐの若だち
2 18 澤もとけずつめど籠にとどまらでめにもたまらぬゑぐの草ぐき
「 からなずな 」
1 164 古き妹がそのに植ゑたるからなづな誰なづさへとおほし立つらむ
「 あこだ瓜 」
1 52 撫子のませにぞはへるあこだ瓜おなじつらなる名を慕ひつつ
「 くらら 」 (マメ科の多年草)
1 55 荒にける澤田のあぜにくらら生ひて秋待つべくもなきわたりかな
「 蓼 」
1 53 くれなゐの色なりながら蓼の穂のからしや人のめにもたてぬは
「 葎・むぐら 」
1 66 霜うづむ葎が下のきりぎりすあるかなきかに聲きこゆなり
2 139 むぐらはふ門は木の葉に埋もれて人もさしこぬ大原の里
3 190 立ちよりて隣とふべき垣にそひて隙なくはへる八重葎かな
4 236 山里は雪ふかかりしをりよりはしげるむぐらぞ道はとめける
5 238 むぐらしくいほりの庭の夕露をたまにもてなす秋の夜の月
6 239 ふるさとを誰か尋ねてわけも来む八重のみしげるむぐらならねば
7 239 都うとくなりにけりとも見ゆるかなむぐらしげれる道のけしきに
8 240 をりにあへば人も心ぞかはりけるかるるは庭のむぐらのみかは
9 247 むぐら枯れて竹の戸あくる山里にまた径とづる雪つもるめり
「 葛・正木・くず・かづら 」
1 55 山里はそとものまくず葉をしげみうら吹きかへす秋を待つかな
2 56 すがるふすこぐれが下の葛まきを吹きうらがへす秋の初風
3 89 松にはふまさきのかづらちりぬなり外山の秋は風すさぶらむ
4 103 玉まきし垣ねのまくず霜がれてさびしくみゆるふゆの山里
5 119 かつらぎや正木の色は秋に似てよその梢のみどりなるかな
6 163 吹く風に露もたまらぬ葛の葉のうらがへれとは君をこそ思へ
7 279 神人が燎火すすむるみかげにはまさきのかづらくりかえせとや
「 つらら 」(新潮版は葛=つづら)
1 166 つららはふ端山は下もしげければ住む人いかにこぐらかるらむ
「 蔦 」
1 88 思はずよよしある賤のすみかかな蔦のもみぢを軒にははせて
「 通草 」(アケビのこと)
139 ますらをが爪木に通草さしそへて暮るれば歸る大原の里 (寂然)
「あし・ 蘆・芦 」
1 50 舟とめしみなとのあし間さをたえて心ゆくみむ五月雨のころ
2 51 露のぼる蘆の若葉に月さえて秋をあらそふ難波江の浦
3 92 難波江の入江の蘆に霜さえて浦風寒きあさぼらけかな
4 93 津の國の難波の春は夢なれや蘆の枯葉に風わたるなり
5 93 霜にあひて色あらたむる蘆の穗の寂しくみゆる難波江の浦
6 95 氷しく沼の蘆原かぜ冴えて月も光ぞさびしかりける
7 102 津の國の芦の丸屋のさびしさは冬こそわきて訪ふべかりけれ
8 264 芦の家のひまもる月のかげまてばあやなく袖に時雨もりけり
9 172 波たかき芦やの沖をかへる舟のことなくて世を過ぎんとぞ思ふ (地名)
10 261 いまもされなむかしのことを問ひてまし豐葦原の岩根このたち (国名)
「 菰・こも・かつみ 」
1 40 かり殘すみづの眞菰にかくろひてかけもちがほに鳴く蛙かな
2 41 沼水にしげる眞菰のわかれぬを咲き隔てたるかきつばたかな
3 48 かつみふく熊野まうでのとまりをばこもくろめとやいふべかるらむ
4 49 水たたふ入江の眞菰かりかねてむな手にすつる五月雨の頃
5 50 みな底にしかれにけりなさみだれて水の眞菰をかりにきたれば
6 50 五月雨のをやむ晴間のなからめや水のかさほせまこもかり舟
7 50 五月雨の晴れぬ日數のふるままに沼の眞菰はみがくれにけり
「 うき草・うきくさ 」
1 38 花さへに世をうき草になしにけりちるを惜しめばさそふ山水 ▲
2 235 花さへに世をうき草になりにけり散るを惜しめばさそふ山水 ▲
3 250 なかなかにうき草しける夏のいけは月すまねどもかげぞすずしき
4 270 さ夜ふけて月にかはづの聲きけばみぎはもすずし池のうきくさ
「 ぬなは 」(ジュンサイの古名)
1 249 ぬなははふ池にしづめるたて石のたてたることもなきみぎはかな
2004年6月30日入力