もどる
            山家集の研究


 植物関連歌     
        (鶴の林、ほた、ときは木、杣木、老木、もと木、千木、
        爪木、水茎、七草、苫、くれ舟、卯杖、藻汐木、藻塩草、籬)

  「 鶴の林 」 
  (沙羅双樹の林のこと)

 1 240  かすみにし
鶴の林はなごりまでかつらのかげもくもるとを知れ
                 (かつらのかげ=月光のこと)  

 2 284  花さきし
鶴の林のそのかみを吉野の山の雲に見しかな

  「 ほた 」 
  (薪用に木材を切断したもの。木の切れ端)

 1 138  山ふかみ
ほた切るなりときこえつつ所にぎはふ斧の音かな 
 
  「 ときは木 」 
  (常に緑の木ということ。常緑樹のこと。主に松を指す)

 1 176  色かへで獨のこれる
ときは木はいつをまつとか人の見るらむ(為なり)
   
  「 杣木 」
  (材木にするために植えた木。または山から切り出された木)

 1 181  一すぢにいかで
杣木のそろひけむいつよりつくる心だくみに

 2 251  つみ人は死出の山邊の
杣木かな斧のつるぎに身をわられつつ
 

  「 老木 」
  (古い木のこと。)

 1  26  わきて見む
老木は花もあはれなり今いくたびか春にあふべき

 2 117  昔みし松は
老木になりにけり我がとしへたる程も知られて

 3 235  花の色にかしらの髪しさきぬれば身は
老木にぞなりはてにける

 4 272  いにしへの人の心のなさけをば
老木の花のこずゑにぞ知る

  「 もと木 」
  (木の幹、または根の方。末木の対語。)

 1 261  千木たかく神ろぎの宮ふきてけり杉の
もと木をいけはぎにして

  「 千木 」
  (千本の木。たくさんの木ということのたとえ。)

 1 261  
千木たかく神ろぎの宮ふきてけり杉のもと木をいけはぎにして

  「 爪木=つまき 」
  (薪用にする小さな枝。)

 1 139  ますらをが
爪木に通草さしそへて暮るれば歸る大原の里(寂然) 

  「 水茎 」
  (瑞々しい茎の意味。筆跡にかかることば。)

 1 184  
水茎のかき流すべきかたぞなき心のうちは汲みて知らなむ(新院)

 2 184  程とほみ通ふ心のゆくばかり猶かきながせ
水ぐきのあと

 3 206  涙をやしのばん人は流すべきあはれにみゆる
水ぐきの跡

  「 七草 」
  (春の七草と秋の七草がある。ここでは春の七草。)

 1  18  卯杖つき
七くさにこそ出でにけれ年をかさねて摘める若菜に

 2 242  
ななくさに芹ありけりとみるからにぬれけむ袖のつまれぬるかな
 
  「 苫 」 (菅、カヤなどを筵のように編んだもの。小屋の屋根や和船の覆いなどに
          利用する。雨、梅雨などを防ぐ覆い。)
 
 1 100  みなと川
に雪ふく友舟はむやひつつこそ夜をあかしけれ

 2 117  波のおとを心にかけてあかすかな
もる月の影を友にて

 3 168  磯による浪に心のあらはれてねざめがちなる
やかたかな
  
 4 178  
のやに波立ちよらぬけしきにてあまり住みうき程は見えけり
  
  178  しほなれし屋もあれてうき波に寄るかたもなきあまと知らずや(堀川)

  「 くれ舟 」 
  (皮付きの材木のこと。それを運んだ舟)

 1 169  
くれ舟よあさづまわたり今朝なせそ伊吹のたけに雪しまくなり

  「 卯杖 」 
  (新年初の卯の日に、一年の邪気退散のために地面を叩くための杖。
   材質は梅、桃、柳などの木で作る。)

 1  18  卯杖つき七くさにこそ出でにけれ年をかさねて摘める若菜に

  「 汐木・藻汐木 」
  (製塩のために、海水を煮詰めるのに用いた薪のこと。)

 1 281  ちぎりおきし契りの上にそへおかむ和歌の浦わのあまの
藻汐木(俊成)

 2 281  和歌の浦に
汐木かさぬる契りをばかけるたくもの跡にてぞみる

  「 藻汐草 」
  (製塩のために用いる藻。海水を含ませた藻を煮詰めて塩を作る。)

 1  49  さみだれにほすひまなくて
もしほぐさ烟もたてぬ浦の海士人

   「 籬・まがき・ませ 」
   (竹、粗朶などで目を荒く作った粗末な垣根)

 1  15  春あさみ篠(すず)の
まがきに風さえてまだ雪消えぬしがらきの里

 2  24  
ませにさく花にむつれて飛ぶ蝶の羨しきもはかなかりけり 

 3  43  立田川きしの
まがきを見渡せばゐせぎの波にまがふ卯花

 4  52  撫子の
ませにぞはへるあこだ瓜おなじつらなる名を慕ひつつ

 5  60  穂に出づるみ山が裾のむら薄
まがきにこめてかこふ秋霧

 6  61  
あれて薄ならねどかるかやも繁き野邊とはなりけるものを

 7  86  
ませなくば何をしるしに思はまし月もまがよふ白菊の花

    「 まさき 」(不明。庭木用の柾木とは別物か?)

 1 166  
まさきわる飛騨のたくみや出でぬらむ村雨過ぎぬかさどりの山

           以上。2004年6月30日入力。