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       もみの木歌集    
                  2000年度


0001
2000年1月、鎌倉へ行ってきました。行く前に図書館で鎌倉の本を3冊
借りてきて隅から隅まで探し、やっと1冊の本に、2行程、頼朝が西行に
名前を尋ねた場所という「裁許橋」がありました。橋の真ん中に立って
写真を撮ると、橋の全景が写るような小さな橋でした。

   西行の縁訪ぬる裁許橋
         八百年間川は流るる

0002
駅前で買い物をして、バスの待つ間に

   夏の日の ジーンズショップの服揺れて
          赤・青・黄の夢売られおり


0003
三国が丘の駅で、電車を待っている時、急行の高野山行きの電車が通り過ぎました。

   ゴゥーという電車の響き根こそぎに
           我も運べよ聖地高野へ

0004
和歌山の片男波海岸へ海水浴の付き添いで行きました。片男波海岸は、

    若の浦に 潮満ち来れば 潟を無み 葦辺をさして 鶴鳴き渡る

山部赤人の片男波です。海で遊ぶ子を見守りながら

   
炎天の空青きゆえ海碧く
          磯に遊ぶ子見守る我ら


0005
海に一度入ったのに、恐いとすぐに出てきた幼い児を見ながら

   砂払い海が恐いと泣く稚児は
          辛い潮(
うしお)も波もはじめて

0006    
最寄のJRの駅までは徒歩で約25分。通勤途中には六地蔵があります。
桑原という地名は、雷がなった時に「くわばら、くわばら」という、あの桑原です。
お花を栽培しているハウスがたくさんあります。

  
 桑原の地蔵仏は花の中
          キクやリンドウキンギョソウ笑む


0007
   通勤の途上におはす地蔵仏
          手を合わすごと人追い越していく


0008
冷房のよくきいた電車から降りて外の空気に触れると少しほっとします。
しかししばらくするとまたジワッと暑くなってきます。(その心をよめる

   冷房の電車を出れば外気和み
          解凍せらるここちなりけり


0009
岸和田のだんじりの試験曳きへ行きました。職場に岸和田春木のだんじり命の
男の子がいて、だんじりの話をよく聞かせてもらいました。

   だんじりの遠心力と重心と
          加速と摩擦整す人の輪


皆で調整し合うという事で、「整す」にしました。

0010
室生寺の五重塔へ、行ってきました。落慶法要は(2000年)10月21日とのことでしたが、
今、五重塔の中から見つかった秘仏五智如来が、本堂の中に安置されて公開されて
いますが、もう10日位後には、五重塔の中にしまわれて見ることが出来なくなるそうです。
江戸時代に修理された時に外に出され、それ以来のことだそうです。

   見上げれば女人高野の五重塔
          平成落慶五智如来待つ


0011
奥の院には42歳の頃の弘法大師像があります。

   対岸にさるすべり咲く室生寺の
          弘法大師は42歳

0012
室生寺の塔は小さいので周りの杉に隠れてしまいそうです。

   室生村コスモスすすき稲穂ゆれ
         杉木立に五重塔隠る

0013
   一言で人は死にけむ一言で
         人は生きけむ六道の沙汰

0014
   この秋も刹那やさしく萩咲きぬ
         小さき紅は人や恋しき

0015
JR京都駅は来られた方も多いと思いますが、大きな建物というよりは、
一つの生活の場・町のようになっています。この建物については私の
知り合いの中でも好き嫌いがあるようです。
斜めに沢山の高い階段があり、空に向かって出口があります。いつもその
天窓のような出口を見ると、以前、銀河鉄道999のアニメを見た時の駅を
なぜか思い出すのです。そんな風に考えると楽しいからかもしれません。

   天窓に秋空見ゆる京都駅
         銀河を渡るや特急かささぎ

0016

   京都駅は好きではないと言うけれど
         晴れた空も曇り空も見える

0017
東寺へ行きました。東寺のパンフレットには、「身は高野 心は東寺におさめをく」
と見出しが書かれています。そして説明に、「(前略)東寺の伽藍は南大門を
入って金堂、講堂、少し隔てて食堂が一直線に置かれ、左右に五重塔と
灌頂院が配置されています。塀で区画された境内はそのままマンダラであり
浄土であります。」そこで、わけのわからない歌を作りました。

   マンダラの機能・構造図象せば
          無限大小千変万化


0018
   マンダラを訪ねて東寺に来てみれば
          聖なる総体その中にあり


0019
そして大きくそびえる千手観音は、壁に貼ってある写真を見るとそれぞれの
手にいろいろな道具を持っているのですが(元々は持っていたそうです)、
多分、時が経ってそれらが壊れかかって落ちそうなのか、今は手には
何にも持っていません。そこで一首作りました。

   千手ある観音菩薩は荷物置き
          手を伸ばさるる空間に座す


0020
有馬で宿泊して、朝、山を見上げると、山の端にあり明けの白い月がありました。
その山の頂上には妙見寺というお寺が見えているのですが、そこには昔、
有馬法印という人のお城があったそうです。

   寂然(
せきぜん)と山の端にある残月は
          今現在は平成と知るや

中世の月の歌ばかりを読んでいましたので

0021
  
   月出でし有馬法印城跡と
          満月城というホテルあり


今回泊まったホテルの前には、温泉寺というお寺があって、8世紀の頃に
行基がこのお寺を建てたのだそうですが、本堂の中には、大きな薬師如来と
それを守る十二神将があります。
この薬師如来は近畿地方ではもっとも大きな薬師如来とのことですが、
左の手には、お薬の器を持っています。確か、奈良の興福寺の薬師如来も
薬の入れ物を持っていたと思います。

0022
夕方の京都駅で、いい音楽が構内一杯に広がって聞こえてきますので、
急いではいたのですが、エスカレーターで登って行くと、催し場のステージで
エクアドルの人達がアルゼンチン民族音楽を奏でていました。あの笛の音
(何という名前の楽器でしたっけ)、コンドルは飛んで行く。聴いている人の
心も飛んで行きそうになりますね。楽器の音も身体に響いてきます。ついつい
道草をして帰りました。電車の中での長い時間、暇つぶしに歌を作りました。

   笛の音
に歩を止め見上げる古都の駅
           夕闇の空へコンドルは飛ぶ


0023
大阪―東京間の新幹線の中で作った歌2首です。

   風になびく富士山詠みし西行は
           新幹線なら如何にや詠むらむ

0024
 
   隣席
りんせきの新幹線の卓上で
           メール励む娘
窓ガラスに見ゆ

若いっていいですね。

0025
大台ケ原は奈良と三重の境の高原状の大地で最高峰の峯は1695mあります。
以前、Tさんも行かれたと書かれていました。朝、車で家を6時過ぎに出て、
吉野を通り過ぎ、10時前には大台ケ原の駐車場に着きましたが、すでに
駐車場は満車、皆、道の横に車を駐車していました。
車で山に入って行きますと、はじめは紅葉はまだ早いのかなと思うくらいでしたが、
中腹は紅葉の真っ盛り、奥深い大台ケ原の湿原は、もう落葉も朽ち、
立ち枯れの木や笹の草原、原生林でした。野生動物は、鹿、月の輪熊、
ウサギその他書かれていました。
   
    <百人一首の5番>
     奥山に紅葉ふみわけ鳴く鹿の声聞く時ぞ秋はかなしき
の歌が浮かんできて、ちょうど今のこの景色の頃だなと思いました。
そして、一首作りました。

  秋深し霧立ち込める奥山は
          落ち葉踏みしめ鹿も鳴くやも
 

しかし鹿は鳴きませんでした。

0026
   奥山に入りれば紅葉踏み分けて
          鹿も鳴くやと思えど鳴かず


このような歌を作った後、鹿に会いました。母子の鹿です。そして、キューとか
ヒューとかいう声で鳴きました。鳴いたのです。せっかく「鳴かず」と作ったのに、
どうしよう、と思ったのですが、事実は事実ですので、この時点での歌と
解釈しました。そして、また作りました。

0027
   立ち枯れの牛石ケ原の湿原は
         落ち葉も朽ちて鹿も鳴くなり

 
0028
それから、牛石ケ原には、どういうわけか神武天皇像がありました。先日、
1兆円の話で、例えで話した天皇です。(1兆円というお金の大きさの例えです。
紀元元年の神武天皇の頃から、神武天皇が毎晩大阪の北の新地で百万円づつ
飲んでつかったとしても今でもまだ無くならない金額ということ) 神武天皇が
左手に持つ弓の上に何か鳥が止まっています。先日、奈良の西行オフ会で
Aさんに尋ねましたら、神武東征の時に、三重の山中で、ヤタガラスが出てきて
案内すると言われていました。
  
   例えとは言えども毎晩酒盛りと
          噂流した神武像に拝す


0029
大台ケ原の上は本当に苔や笹や、高山植物で紅葉は中腹より下でした。
帰りは紅葉を楽しみました。

   鮮やかな秋の盛りを忘れじと
          木々に山並み入れてフォーカス


0030

   落葉(
らくよう)と緑葉樹とで織りなせる
          秋の匠の山肌を撮る

0031
   紅葉の一葉一葉の輝きは
          点描写なる印象派画像


0032
昨日家持の歌の講義を聞いて帰る途中、「家持も藤原氏の権力の下で、
大変だったのだな。」と思うとなんだか気持が憂鬱になって、帰って食べようと
思って、草餅のお団子を買って帰りました。そして一首詠んだ歌です。
 
   家持と藤原氏との確執を
          聞きて帰りに草餅を買う


気分直しに帰って草餅でも食べようと思ったのです。

0033
11月15日午前中、午後からの研修前に桂浜に行ってきましたが、
ちょうどその日は竜馬の誕生日でした。

   竜馬見し桂浜の水平線
          同視線上我立ちてみる

0034
高知城は土佐二十四万石の小さなお城ですが、往時そのままの天守閣が
残っており、緑豊かで歴史を感じさせるお城です。

   若き日の祖母登り来し古城かな
          深き緑が歴史をさやぐ

0035
   一豊の妻たくましくたたずめり
          われらあやかり記念撮影

0036
   苔むした古城の碧き石垣に
          紅き珊瑚のサンザシの実がある


0037
研修が終わり1泊して、最後の1日は観光をしてきました。四万十川の少し
上流から船に乗って遊覧した景色を詠みました。四万十川は支流が多く、
雨が多量に降れば川がすぐに増水します。船頭さんのお話によれば、
この春も沿岸に菜の花が咲いたすぐ後、増水し、菜の花の群生は2mも
下に沈んだそうです。そしてその上を船で通った時、水中を見ると、
菜の花が水中花のように見えたのだそうです。

   四万十の清き流れは水増せば
          菜の花沈み水中花となる

0038
日本で11番目に長い全長196kmの四万十川は、ダムもなく、工業用水が
排水されることもなく、きれいな水で、多量に雨が降ればすぐ増水し、
その水の99%は海に流れます。増水すると橋は水に浸かってしまいますが、
これらの橋は沈下橋と呼ばれています。鉄筋コンクリート造りの頑丈な構造で、
橋台には欄干もなく流線形で流れの抵抗を押さえています。沈下橋の数は
本流で22橋、支流の小さなものまであわせると40余りがあるそうです。
   
   水増せば いとも簡単沈下橋
          虚勢もはらず流れのままに

0039
四万十は、四季折々、いろいろな顔を見せてくれるそうです。

   四万十の四季は菜の花ホタル狩り
          蓼の花咲きイワツツジ咲く

0040
四万十川には野生の鵜が沢山いて、群れをなして水面を飛んでいました。
船頭さんとの会話で、鵜はアユを沢山食べるという話題になりました。
組合ではアユの解禁日など決めているのにということから

   鵜の鳥は四万十のアユ食べ放題
          組合員非ずと漁師嘆かむ

0041
四万十川からタクシーで1時間半、足摺岬で海と灯台を見、急いで第38番
金剛福寺をお参りして帰ってきました。

   足摺の海穏やかに見守れり
          三十八番金剛福寺


0042
高知から特急電車で約2時間の所にある中村市は、応仁の乱の時、京都から
一条教房という御公家さんが逃れてきたそうです。その方は、京を懐かしみ、
川や山に加茂川、東山という名前をつけ、大文字の送り火もされたそうです。
今もお盆には送り火をされているそうです。

   応仁の乱のがれ来し一条家
          京の山川中村にもあり


0043
高知市のすぐ近くの香北町という所(アンパンマンの作者、やなせたかしさんの
生まれた町)に、アンパンマンミュージアムがあります。ここは、世界で唯一、
本当にわかって喜んでいるのかどうかわからない赤ちゃんも訪れるミュージアム
とのことです。(一緒に行った保育所の現場にいる同僚は、アンパンマンの
音楽がかかると確かに赤ちゃんは喜ぶと言っています。)
やなせたかしさんが言われるには、お母さんが喜べば何故か赤ちゃんも喜ぶ
とのことで、乳幼児を連れてくる、また本を買ってくれる、父母、祖父母の気持を
まずつかむことが大切なのだそうです。子どもの漫画なのに、アンパンマンの
歌の歌詞には、「人はなぜ生まれ生きるのか〜」などの歌詞もあり、そういう
歌詞は、母親の心理をぐっとつかむのだそうです。JRでは岡山から高知、
中村までアンパンマン列車を走らせています。高知駅には、アンパンマンの
小さな旗がたくさんはためいています。

   赤ちゃんの世界唯一のミュージアム
          父母も喜ぶアンパンマン館(
やかた

0044
最後に申し訳のような研修会についての歌です。

   小児保健活用において柔軟性
          救急医療を熱し論じる


0045
秋の山の辺の道を歩いてきました。池の土手に上がって山の辺の道を
歩いて行く人を見ながらお弁当を食べました。そして一首作りました。

   かの人は 家持やもしれぬ今昔の
          時空を超えて大和路を行く

0046
福井県の芦原温泉へ職場の旅行で行ってきました。バスツアーでしたが、
昨日、行く途中、岐阜、滋賀の境にある伊吹山が見えました。伊吹山へは、
以前6月頃に行ったのですが、今回見た山は雲の中に積雪して白く光ってあり、
ほんとうに神々しい感じでした。特に高い山は、四季折々、いろいろな姿を
見せてくれますね。予定より遅れて、東尋坊へは、もう夕方近くの4時半頃に
着いたのですが、夕暮れの海に打ち寄せる(ぶつかって来る)岸壁の白い波は、
迫力がありました。東尋坊は、ご存知のように自殺の名所です。後でバスガイド
さんが、「もう一度考え直せ」という札を見てきましたか?と言われていましたが、
よくわかりませんでしたた。そういう札も立っているそうです。

   東尋坊白き波散る岸壁に
          考え直せと立て札がある


0047
   岸壁に体当たりする激情よ
          生きぬくことも自然の摂理

  

0048
最近は先日行った岸和田の温泉もそうですが、芦原温泉も芦原五七五
コンテストということで作品募集をしていました。入賞者は、お風呂の入浴券
など些細な品物ですが、その歌の中に温泉の名前や観光、特産物を入れないと
いけません。そうなると難しいのです。コンテストに関係なく作りました。

   心身を醒まし温もる露天風呂


外気は寒いので、頭は冴えるのですが、身体は温まるという歌です。

0049
   湯煙のガラス越し見ゆ女人(
ひと)の影

0050
でもこれでは募集要項の意図に添っていませんので、
芦原温泉を入れることにしました。

   月影の芦原温泉露天風呂



           以上、2000年度詠歌

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