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 もみの木エッセイ集 26 

 ◎ 
感染性胃腸炎と登所基準について

 4月中頃、各0、1歳児クラスで感染性胃腸炎が1〜2件発生した。
ロタウィルスと診断されて、脱水症状で入院をする児童もあった。
 保育所では、普段から下痢便の取り扱いのマニュアル等を作って、
感染防止対策をしている。
 昨年の流行期には、下痢便の後始末としては、洗浄時に飛び散って、
周りに汚染が拡大するという懸念から、シャワーを止めて、使い捨ての
タオルで清拭するようにとの指導も保健所から出された。
 先日、ある0歳児が下痢で1日お休みした後、近くの医療機関で処方
された内服薬と、簡易な診断書を持って登所された。
 「感染性胃腸炎で下痢と咳がありますが、本人は機嫌もよく、登所可能です。」
と、主治医から保育所宛てに書かれてあった。
 感染性胃腸炎と診断され、症状(下痢)があるにもかかわらず、「登所可」と
診断されたことには、納得できなかったが、直接に問い合わせることも出来ず、
当日は、様子を看ることになった。
 やはり当日は、保育所で2回下痢便があり、その内の1回は、水様便で
衣服を汚してしまった。
 休日前でもあり、脱水症の心配や他への感染の恐れもあるので、
保護者へ連絡させていただいた。すると、
 「昨日、受診して、登所許可と主治医に言われているのに、また、今日も
受診をするように言うのですか?」
と保護者は不満を述べられた。
 そして、2日後、その児童を保育した保育士が同じ症状になり、
ノロウィルスと診断された。
 ノロウィルスの検査料金が高く、通常は症状からでしか診断されないが、
保育所で経過を観ている範囲でも、驚くほど感染力が強く、家族内や
保育所内で感染が広がる。
 仕事を持っている保育所の保護者の場合、子どもの病気で仕事を休むことは、
直接、経済に影響してくる。 
 「"仕事へ行けなかったら、生活が出来なくなるのに、先生は、保育所を
お休みしなさいと言われるんですか"と云われることもあります。」と、嘱託医
からもお話を伺ったことがある。保護者の生活を考えると、厳しい措置である。
 しかし、乳幼児を預かる保育所としては、感染症を拡大させるわけにはいかない。
 感染症の場合、登所可とするには、二つの条件があると言われている。
「本人の体調が集団保育可であこと」、もうひとつは「他の者に感染させないこと」である。
 ほとんどの保護者は、病気の重症度を、発熱の程度で判断することが多く、
少しくらいしんどいと言っても、目やにが出たり、咽頭痛があったり、嘔吐下痢が
あっても、熱がなければ安心する。
 そして、「嘔吐下痢」も、熱がなければ少しくらい症状があっても、まだ大丈夫だと
判断することによって、治療が遅れたり、集団感染に及ぶ場合が多いと思う。
 保育所の「下痢嘔吐の登所基準」は、現在確立していないが、どちらかと言えば、
保護者は登所許可を書いてくださる医療機関を選んで受診をするだろう。
 保育所の乳幼児の体力や密着した集団生活を考えると、学校保健法に準じて、
ということでは対応できないと実感する。 
 保育所の子どもたちの生活実態を理解していただき、「下痢嘔吐の登所基準」を
早期に検討していただきたいと思っている。
                 (2007年5月20日)


◎  
自分の居場所を確保すること

 娘の話によれば、最近、2歳半になる孫が、親の言うことを、わざと聞かない
そうで、毎日親の方が振り回されているとのことであった。
 私は、勤務している保育所でも同じようなことに出くわしたことを思いだした。
 3歳の女の子が、友だちが遊んでいる園庭には行かないで、誰もいない
保育室へわざと走って行ってしまうのだ。その子どもを追いかけて階段を
登ってきた保育士さんが、教室に向かいながら、
「Yちゃんは、1対1で関わって欲しいから、いつもこうなんですよ。」
と、困った表情で話していた。娘にその話をすると、
「ああ、わかったわ。」
と思い当たるところがあるようであった。
「いつも、お母さんが赤ちゃんにお乳を飲ませたり、どこへ行くにも
抱っこしていたら、時には、自分の方に向いて欲しいものねえ。怒られると
いうのも、1対1で関わってもらっているということやから。」
と、私がいうと、
「そうやねえ。」
と、頷いていた。
「一人で、静かに遊んでいるから、手がかからなくて助かるというのではなくて、
出来るだけ抱っこして本を読んで上げたり、いっぱい関わってあげなさいよ。」
と話した。
 先日聞かせていただいた府立大学教授の早川勝廣先生のお話も思い出した。
 「自分の居場所を確保する」という印象に残るお話であった。
 年齢が低いほど、家庭では親との関係、保育所では先生との関係が
居場所になるが、学校や社会においても、自分の居場所を確保するということの
重大さを再認識した。確保できなければ、学校の不登校にも、老人の生きがい
問題にも関わってくる。 それは、家庭や社会のいろいろな立場においても
いえることである。
 子どもの居場所確保は、親の居場所確保にもつながり、介護をする側の
人もまた、居場所を確保しているのだ。私自身も、日々努力している。
 孫も、幼いながら頑張っているのだと思う。 
                     (2007年06月09日)