もみの木エッセイ集 27
◎ 腸重積に直面
6月のある日の13時頃、0歳児クラスの保育士さんが、私を呼びに来られた。
部屋に行くと、いつもなら、ぐっすりとお昼寝をするO君が今日は機嫌が悪くて
眠らないと言う。O君は、先月、満1歳を迎えた。日ごろは、食欲旺盛で元気な
子どもである。今日の給食も、いつもと同じように喫食したとのことであった。
抱っこをすると、少しは泣き止んで、うとうとと眠るが、しばらくすると、また体を
のけぞらせて泣く。その繰り返しである。眠たいのだけれど、眠ることが出来ない
様子である。やはり、普段とは様子が違う。
耳が痛いのだろうかと思って、耳をそっと押さえてみるが、耳ではなさそうである。
「間歇的に体をのけ反らして泣く」という症状から考えれば、もしかすれば、あの
「腸重積」かな、と思った。お腹を軽く、押さえてみたが、しこりはわからなかった。
保護者に連絡して、早急にかかりつけの病院へ連れて行ってもらうことにした。
母親の職場に連絡をすると、すぐに迎えに行きますとのことであった。
次に、午後の診察を行っている近くの診療所に連絡し、母親の希望があれば、
すぐに診ていただけるようにお願いした。
しかし、母親の来られる時間が長く感じられ、もう一度、母親に電話をして、
診療所受診の許可をもらい、先に保育所からO君を連れて行くことにした。
母親には、診療所へ直行してもらうことになった。
緊急時に必要であるO君の連絡票(住所・保護者や児童の名前・電話番号・
保険書番号など記載)のコピーをとってもらい、O君を抱っこして、保育士さんと
二人で、近くの診療所へ走った。母親も到着された。
小児科のS先生が診察をしてくださった。
やはり腸重積だった。浣腸をしてもらうと、おむつには血便が出た。
しかし、診療所では、これ以上の処置は出来ず、小児外科医のいる病院へ搬送
されることになり、大阪府立母子保健総合医療センターへ紹介していただいた。
遠いなどとは言っておられなかった。
その後、O君は、高圧浣腸などで腸は整復され、幸運にも手術までには
至らなかった。そして、検査の結果、経過を診るために、3日間の入院となり、
5日目には、O君は元気に登所された。
腸重積については、緊急を要する疾患ということで、看護師も保育士も、授業
では習っているが、私が直面したのは初めてであった。
大昔のことであるが、私が通っていた高校の先生の子どもさんが、腸重積で
亡くなったと聞いたことがある。
現在でも、緊急を要する疾患であるには違いないが、このたびは、保育士さん
の観察力や、手際よく診察、処置をしてくださった医療機関の皆様に、心より
感謝したい。
(20007.07.11)
◎ 川上村の龍神様
6月の上旬、奥吉野にある川上村の温泉へ出かけた。蛍が見えるかも
しれないという期待もあった。
川上村は、持統天皇が存命中に31回も行幸された宮滝の上流にある村
である。宮滝へは、精気を得に行かれたという。
川上村には、丹生川上神社上社が鎮座しており、タカオカミノカミ
(高と雨冠に口3つ、その下に龍という字を書く)が奉られていた。
この神社は、「天武天皇の白鳳四年(676年)に『人声聞えざる深山に宮柱を
立て祭祀せば、天下のために甘雨を降らし霖雨を止めむ』との御神誨に
因り創立された」と伝えられている。
宮滝上流には雨を司る龍神様が奉られていたのだ。
このことから考えると、持統天皇は、宮滝へは精気を貰いに行っただけではなく、
水を治める龍神様に、豊作祈願をするためにも行かれたのではないだろうか。
社の由緒によれば、元は崖下の吉野川畔に鎮座していたが、「大滝ダム」の
建設にともない、平成10年に山の中腹に遷座したということであった。
鳥居をくぐると、狛犬の代わりに左右に馬が立っていた。昔は祈雨(あまごい)
に黒馬、止雨(あまどめ)に白馬を奉り、平安遷都後も皇室から馬が奉られた
ということである。
神社へ歩いていく途中、遥か下に見える大きな河川敷には、銀色に光る大きな
龍のモニュメントがあった。龍は、上流に向かって建っていた。豪雨になっても
龍の居る河川敷までは水が来ないかもしれないが、上流に向かって泳ぐ龍の
姿を想像してみると楽しかった。
龍神伝説は、全国各地にある。
高野山の近くにも龍神という村がある。以前訪れたことがある天川村洞川にも
龍王をお奉りしている龍泉寺という名のお寺もあった。
以前、テレビでも放映されていたが、平安京も、大地の旺盛なエネルギーである
「気」を考えて創られた都だそうである。龍を生かすための「水のみ場」である
神泉苑を作り、そこで、雨乞いをしばしば行って龍を呼んだという。
詳しくはわからないが、川上村の龍神様も、平安京の龍も、古い中国の四神と
関連があるのではないかと思われる。
今夜も「明日朝近畿へ上陸か」という台風4号が迫ってきている。現在も
同じであるが、大昔の人にとっては尚更、天変地異が発生する大自然の中では、
雨を司る神様は、大きな存在であったと思う。
大雨による土砂崩れや洪水などが起こらないように、また、水不足で悩む
地域の水源地には、たくさん雨が降るようにと、今夜も龍神様に祈りたい
気持ちである。
(2007.07.15)