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もみの木エッセイ集 30
◎ 「あやとり」の伝授
私は、今でもあやとりで菊の花を作ることができる。あやとりの紐を
指にかけると、手がひとりで動いて、菊の花が出来る。
手の動きに任せないで、頭で考えてしまうと手が止まってしまう。
菊の花の作り方は、小学校高学年の頃に、担任の先生に教わった。
男の先生であったが、熱心に教えてくださった。クラスの皆で何回も
練習をして、覚えた記憶がある。
わが家の子ども達がまだ幼い頃は、一緒にあやとりをして遊んだが、
今ではもうめったにしなくなった。
勤務している保育所で、時々、子どもたちがあやとりをしている
ことがある。
その時は、ちょっと紐を借りて、菊の花を作ってみせる。菊の花が
出来上がる途中で、鬼の面も作ることが出来る。
「鬼の面!」と、顔を紐の輪の中に入れて見せた後、菊の花を仕上げて
見せると、子どもたちは、「わーっ」と喜ぶ。
私は、いつも、ちょっと得意な気分になる。
先日も、創って見せていると、5歳児クラスの保育士さんが、「教えてください」と
言われ、伝授することになった。
あやとりが得意な彼女は、すぐに習得し、今では5歳児クラスの女の子
たちも数人創れるようになった。
あやとりの語源は、詳しくはわからないが、「あや」と言えば、万葉集の
講義の時、中西進先生に聞かせていただいた「あや」のお話を思いだす。
『「あや」は「美しい」ということ。怪(あや)しいというのは、怪しいくらいに
美しいということです。』
「綾、絢、彩、怪しい、などなど」
「あやとり」とは、綾糸で美しい姿を創りだすからなのであろうか。
大阪阿倍野の近鉄電車の構内にあやとりをしている少女の像がある。
人々が往来する切符売り場の片隅で、「一人あやとり」をして立っている。
友人との待ち合わせに指定している場所でもあるが、喧騒の中、綾糸だけ
を見つめている少女の像には、いつも、周りとは違った静かな時が流れて
いるように思う。
先日、菊の花の伝授をした保育士さんが、
「最後の仕上げが上手く出来ないんです。」と言われたので、私は、
また手の動くままに菊を創ると、
「ああ、判りました。最後に手を前後にねじらせて、キュキュと締めるんですね。」
と、納得された。
「二人あやとり」はコミュニケーションにもなるし、「一人あやとり」は、
ボケ防止にもなるそうである。
小学校のときに、根気よく教えてくださった先生に感謝し、これからも、忘れて
しまったあやとりの形を思い出しながら、菊の花の伝授も機会があれば
続けたいと思っている。
(2007.08.21)
◎ かみえもんBOX
8月下旬、思いもかけないお電話をいただいた。幼稚園、小学校時代の
同級生のFさんからである。小学時代といえば、もう半世紀前のことである。
小学校2年生の頃の文集が見つかり、私の作文も載っているのでコピーを
送ってくださるとのことであった。
中学生になってしばらくして転校した私は、同窓会へも出席していないが、
仲のよかった懐かしい友人の近況についても教えていただいた。
数日後、文集のコピーと4年前に写した同窓会の写真を送っていただいた。
Fさんには、通信代やコピー代の負担をおかけしたので、礼状と少しばかりの
切手代を同封させていただいた。
すると、郷里の中心産業である紙製品のセットを送ってくださった。
四国中央市では、年に1度、「紙まつり」というイベントが行われており、製紙
関係の会社が協賛して商品を詰め合わせたBOXが作られているそうである。
「大きな箱ですからびっくりしないでください。」と言われたとおり、翌日、
大きな箱が届いた。
「かみえもんBOX」と書かれてあった。BOXを開けると、量のある
テッシュペーパーやトイレットペーパー以外にも、楽しいくらいに様々な
ものが入っていた。
まずは、冠婚葬祭の時に使う水引の袋、手紙の封筒、便箋、メモ用紙、
付箋、あぶらとり紙、紙凧、習字の半紙、お懐紙、カット絆、折り紙、掃除機の
ゴミ袋、紙製の手提げ袋等など、その他、たくさんのものが入っていた。
平成16年4月より川之江市と伊予三島市等が合併して四国中央市が発足した。
製紙の歴史を調べてみると、250年もの歴史があった。
祖母も昔は、手漉きの紙を作っていたと聞く。製紙を家業とする親戚も
多かったようである。
私が郷里を離れた後も、郷里を身近に感じたのは、この紙であった。
変な話ではあるが、その中でもトイレットペーパーが多かった。ほとんどと
いっていいほど包装紙には郷里の名前が書かれてあった。
小学校の低学年の頃、金生川の土手に座って、写生をしたとき、川の
向こうにある製紙会社の風景を描いたことがある。その頃は、高い煙突が
並んで立っていた。その風景画が学年で金賞に選ばれた。
高い煙突が上手く描けなくて、少し曲がって描いたところが反って
面白かったようである。
近所では水引を作っているお家もあった。結納の時に使う鶴や亀が
出来上がるのを、じっと眺めていたことがある。
友人のお家では、鯉幟が作られていた。
私には、郷里を離れても、紙と共に蘇ってくる思い出がたくさんあった。
今回も、「かみえもんBOX」のお陰で、幼い頃の思い出がたくさん蘇ってきた。
(2007.09.03)