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もみの木エッセイ集  31

◎ 
秋の風

  くる秋は風ばかりでもなかりけり
             立花北枝

 九月に入って、通勤途上にある小さなお寺の掲示板に、この句が
貼りだされた。
 朝からまだまだ蒸し暑い日々が続いているが、この句を見たとき、
「くる秋」に希望が持てそうな気持ちになった。
 先日まで、掲示板に書かれてあった句は、

  肉体は死してびっしり書庫に夏  寺山修司

であった。この歌に比べれば、大分涼しくなった句である。
 これらの句をいつも毛筆で掲示されているご住職も「ただ者ではない」と感じる。
 それにしても、作者の立花北枝という人は、どんな人なのだろうか。 
 夕方、仕事から帰宅して早速調べてみた。
 すると、北枝という人は、芭蕉が『奥の細道』の旅で金沢を通過したおりに
芭蕉の門に入った刀研ぎ商の人であった。
 そして、「くる秋は〜」の句も、私が思っていた意味とは少し違っていた。
 私は、風といえば人生途上に吹く逆風のことと思っていたので、
「風ばかりではなく、楽しいこともあるよ。」という意味なのかと感じていたが、
藤原敏行の歌のパロディとのことであった。本(もと)の歌は、

秋きぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞおどろかれぬる
            (古今169)藤原敏行

<通釈>
秋が来たと目にははっきりと見えないけれども、風の音にはっと気づいた。
 
 有名なこの歌を本(もと)とした句であった。秋の一陣のさわやかな風の
ことであった。
 しかし、北枝の句を鑑賞してみると、やはり俳句特有の滑稽、ユーモア、
皮肉などがあり、意味が深いと思う。

 風の歌といえば、昔歌った、このような歌があった。

 「風」
誰が風を 見たでしょう
ぼくもあなたも 見やしない
けれど木(こ)の葉を ふるわせて
風は通り抜けてゆく

 口ずさんでみると、いい詩、いいメロディである。今回知ったことであるが、
この歌は、西条八十訳詞とのことであった。

 そして秋の風といえば、万葉集のこの歌がある。

君待つと我が恋ひをれば我が宿の簾(すだれ)動かし秋の風吹く 
            額田王 巻4−488

<通釈>
あなたを恋しく待っていますと、家の簾を動かして秋の風がふいてきます。

 天智天皇を思って詠んだ歌である。
 簾が少し動くごとに、「もしや」と何度も、振り返ったのかもしれない。
 暑い中にも、今夜も虫の声が聞こえてくる。
 くる秋は風ばかりでもなかりけり
 やはり、希望の感じる俳句である。
                           (2007.09.07)

◎  
群馬の前橋へ

 2007年9月19日から、群馬県の前橋市に出かけた。
小学校の頃に群馬県は前橋市と、苦労して覚えた県庁所在市である。
 小児保健研究会に出席するためと、30分間の会議に出席するためである。
 今年は群馬大学の教授が会頭になられたので、前橋で行われることになった。
前橋については予備知識がほとんどなかったので、私は前もって少し下調べをした。
 研修場所に近いホテルを予約し、半日で散策できるコースを調べ、
前橋駅から80mのところにある温泉(源泉)の営業時間も調べた。
 食べ物は、「とんとん(豚)の町」ということで、豚肉の産地のようであった。
 自己研鑽とはいえ、予算も考えて、交通は、往復とも高速バスにした。
毎年一緒に参加している兵庫県の友人に計画を話すと、
「一人では行く気持ちにはならないが、連れて行ってくれるのなら行きます。」
と言われる。
私も一人では行く気持ちにはなれなかった。
 彼女は、来年1月に神戸で行われる研究大会の実行委員長になって
いるため、今回の研究会の懇親会には積極的に参加しておくことが、
必要なのである。
 19日の夜、大阪難波にあるOCATで、待ち合わせ、21時出発した。
翌朝の6時前には、中央前橋駅に着いた。
 宿泊予定のホテルに直行して、荷物を預かってもらい、鬱蒼と茂る
ケヤキ並木の道を歩いてJR前橋駅に行った。朝食をとった後、駅の近くに
ある明治時代に建てられた生糸のレンガ造りの倉庫を見学した。
群馬は生糸の町であったのだ。
 県庁の高層館は33階、150mの高さがあるという。展望台からは、
遥か遠くに赤城山、榛名山、そして一段と高い2542mの浅間山が見えた。

 今回の学会テーマは、
「社会が子どもに、もっとできること−子どもを社会の太陽に−
子どものための大作戦−」である。
 中でも私自身の関心事は、「保育園と幼稚園の一元化」のシンポジウムであった。
職員の配置基準や調理施設のこと等など、課題も多く残されている。
 「子どもの虐待予防のための保健・医療の連携強化」のシンポジウムでは、
 今回の学会のテーマである「社会がこどもに、もっとできること」を皆で考え
なければならないと、また痛感した。
 懇親会では、来年の研究大会開催の挨拶をして回らなければいけない彼女は、
肝心の名刺を忘れてきたと言われる。関東の同僚たちに、
「肝心な今、配らないと、いつ配るの?」と言われながら、それでも、
皆に引っ張られて挨拶に回っていた。
 雷の多い群馬のお米は「ゴロピカリ米」というのだそうである。懇親会の
料理の中では、その場でシェフが作ってくださった「ゴロピカリ米のリゾット」が
一番美味しかった。
                         (2007年09月22日)