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もみの木エッセイ集  36

◎  手作りの研究大会

 2008年1月19、20日に神戸で、「第19回全国保育園保健研究大会」が行われた。
昨年は長崎地区、今年度は兵庫地区の保健担当者が中心になって開かれた。
 全国の保育所保健担当者が、もう20年以上前から自主的に集まって、
保育所保健向上について話し合ったり研究会を開催したりしている。

 兵庫県の芦屋市には、この会の創成期から参加されているMさんが居られ、
今回は、このMさんが実行委員長で行われた。
 私も数年間、大阪の役員であったので、年に2回ほど東京で行われる
会議に出席していた。早朝、新大阪から新幹線に乗り、東京大田区で
行われていた会議に昼前から出席し、夜11時過ぎに大阪の自宅へ帰る
という日帰りのスケジュールであった。
 当時、Mさんは、まだ就学前の男の子を連れて兵庫から東京の会議に
出席されていた。
 Mさんが今回の研究大会を引き受けた時、大阪の会員たちも手伝う
ことになった。関西の役員が中心になって準備が進められた。各方面に
挨拶に行き、兵庫県、神戸市、医師会、看護協会等々の後援も引き受けて
いただいた。当日には、特別講演として「保育行政の動向」について、
厚生労働省児童家庭局保育課長にも来ていただくことになった。
 年末には、開催会場で、打ち合わせが行われた。各自、休暇をとっての
準備、研究大会開催である。打ち合わせ時間も少ない中、開催時の
マニュアルにそって準備を行ってきた。

 そして、大会の日はやってきた。私も神戸に1泊した。今年は、淡路・神戸震災
から13年目、震災記念日の2日後の開催であった。
 今回の研究大会テーマは「災害における保育園の対応」−災害や犯罪の
危機から子どもを守るには−である。
 シンポジウムでは、元兵庫県芦屋市の保育所所長や新潟県の東川口保育園の
園長のお話もあった。災害発生時の危機感が伝わり、普段から危機管理をして
おくことの大切さを学ばせていただいた。
 会場では、忙しくしているMさんの横には、Mさんとよく似た顔立ちの二十歳を
過ぎた青年がいた。Mさんの息子さんだと、すぐわかった。「人と防災未来センター」
の見学案内や連絡係などを手伝っている様子であった。
 「大きくなったねえ。お母さんと一緒に東京まで来ていた頃は、まだ小さかったもんねえ」
 と私が言うと、同じく一緒に参加していたNさんが、
 「あんたも、小さい時からこの会に出席していたんやから、そら手伝わなあかんわ」
 と言われた。彼は笑って頷いていた。
 
 来年度の国家予算では、保育所に看護師・保健師配置予算が計上されるのでは
という期待感もあったが、最終的には、財政難で今回も見送られることになった。
現在、全国の保育所の保健担当者配置はまだ2割程度である。
 私たちの手作りの研究大会も、まだしばらくは続きそうである。
                          (2008年2月1日)

◎  
私の余興

 2008年1月に神戸にて保育所保健研究大会が土日の二日間で開催された。
土曜日の夜には全国から参加された講師や研修参加者と共に会場近くの
ホテルで懇親会が開かれた。
 研修参加者は約300名、懇親会参加者は100余名であった。来賓者や
講師の挨拶から始まり、親しい者同士が同じテーブルにつき、楽しい
会食が始まった。
 同じ市に勤める同僚のIさんが司会を担当された。慎重に丁寧に言葉を
選びながら、挨拶をし、来賓の方々を紹介されていたが、打ち合わせが
上手くできていなかったせいか、来賓者のお名前を間違うハプニングもあり、
何かと大変な様子であった。
 皆で歓談しながら、しばらく食事を楽しんでいたが、予定されているフルート
奏者の方がまだ到着されていないらしく、埼玉県の保育所保健連絡協議会の
人達が4、5名で舞台に上がり、応急処置のコントをされていた。
 ナースの白いパンティストッキングを使っての応急処置法である。一人の
施術者が、白いパンティストッキングを両手に持ち、
「皆さん、これは何ですか?」
と尋ねる。
「パンティストッキング!」
と会場の皆が大きな声で答える。
「これは、どこに着けますか?」
「足!」
「そうですね。でも、今日は、手に履きます」
と言って、手をストッキングに入れて、椅子に座った人の手にストッキングを
履かせ、肩に回して固定する。三角巾が無いときの代用である。同じく
ストッキングを使っての頭部負傷時の応急手当等を、ユーモアを交えて
紹介されていた。
 その催しが行われている最中に、司会のIさんが、突然私たちのテーブルに
やって来て、
「フルート奏者がまだ来られないんです。打ち合わせが上手くいかなくて、
時間がめちゃくちゃなんです。もし時間が余るようでしたら、各市の活動報告
などをして欲しいんですけど、時間があったら、当てますからお願いしますね」
と言って、慌しく去って行かれた。
「突然に言われてもね。20数年継続してきた私たちの市の保育所保健統計が、
国立感染症センターでの資料になって、現在活かされていることでも、自慢しようかな」
等と同僚と話していると、Nさんが、
「この間、保健担当者の交流会で、Yさんが紹介してくれた、ゴミ袋で作る
手作りエプロン。あれがいいわ。あのエプロンを皆に紹介してあげたらいいのに」
と、私に勧められた。ノロウィルスを疑う嘔吐・下痢などの汚物処理をする時の
使い捨てエプロンである。販売もされているが、高価であるので、私が
インターネットなどで形を調べて、家庭用のポリ袋を利用して作り、
S市の保健担当者に紹介した物である。
 同僚に強く勧められると、私もだんだんとそのつもりになってきた。携帯の
小さなハサミと用意周到な友人が持っていたポリ袋もあり、準備ができた。
 そして、時間があれば当てますと言われていた司会のIさんの所へ行き、
時間の都合も聞かずに、
「手作りエプロンの紹介をしますから時間をとってください」
と伝えた。
そして、当てていただき、手伝ってもらう同僚と一緒に舞台に上がった。
「皆様、こんばんは。ノロウィルスのシーズンですが、汚物処理の時に使う
ポリ袋で作るエプロンを紹介します。皆様、お土産に覚えて帰ってくださいね」
と言いながら、ポリ袋の底と片方の側面を切り開いて1枚のシートにし、
エプロンのヒモになる部分を切り、頭の入る部分を切り、首の後ろには使用後、
前に引っ張ると破れて外せるように、少しスリットを入れた。そして、着用して
見せ、使い終わった時のガウンテクニックを行った。汚れた面が内側になって
処理する方法である。
 事前に、同僚から励まされて、自信を持って行ったせいか、私の余興は
思ったより好評であった。
 次の日の研修会場でも、川崎市の嘱託医の先生に、
「診療所で使おうと思っているので、この紙に作り方の絵を書いて下さい」
と言われた。
 そして、研修が終わって1カ月後のある日、
保育所保健雑誌の編集者より、手作りエプロンについて載せたいので、
原稿を書いてくださいとの連絡があった。
 早速、原稿を書き、保育士さんにモデルになってもらって、着用した時の
写真も入れて送らせていただいた。
 まだまだ、ノロウィルスの季節が続き、その対策には、関心を持っている
人が多いからなのであろう。
 私の余興は、重たくないお土産になったようで、よかったと思っている。
                         (2008年2月3日)