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もみの木エッセイ集 44

◎  ワインを開けた日

 1948年物のフランス製の赤ワインを開く日が決まった。
 いくら貴重なワインだからといっても、例え、このワインのためにワインセラーを
買ったとしても、何時かは開けて飲まなければ意味がないのである。
 そういう風に自分なりに納得したので、よりたくさんの人達が飲める日を
選んで「ワインを開ける日」が決まった。2008年7月18日である。
 その日は、1949年生まれの名古屋に住む妹が、わが家にやってくる日である。
まず、わが家の家族と妹が一緒に味わい、そして、その一部を置いておき、
1週間後にわが家にやってくる予定の東京に住んでいる1952生まれの妹夫婦にも
味わってもらう。そして、私が19日朝から訪れる予定の松江に住む娘夫婦にも、
小さな小瓶に入れて持って行くことができる日、なのである。
 結局はその3日後、名古屋の妹も自宅まで持って帰ったので、合計約12人で
味あうことになる。「味あうことになる」というのは、今日は22日なので、まだ東京の
妹夫婦がやって来ていないからである。
 18日の夕方、ワインの贈り主から、予め聞かせていただいていたご助言通りに、
開く前の準備として、まずはワインの澱(おり)を底に沈めるために、しばらく直立
不動に1週間直立させて置いておいた。古いワインには澱が底に溜まるのだそうで
ある。次は、コルクの問題である。60年も経ったワインのコルクが、果たして途中で
割れないで抜けるかどうかである。まずは、コルクの周りの古くなった木屑のような
汚れをふき取り、コルク抜きをコルクの中心部に刺してから垂直に立てて回し入れる。
真っ直ぐにコルクの底まで入り、5ミリ、7ミリ、10ミリと順調に栓が持ち上がってきた。
しかし、そこまでだった。コルクの下3分の1くらいのところで、コルクが割れて、
そのまま残ってしまった。
 上にも下にも動かない。しかし、よく見ると、コルクの真ん中に穴が開いている。
一緒に開けていた妹と相談し、このコルクの穴から注ぐことにした。順調にその
穴から新しいビンに注ぐことができた。念のために、新しい茶漉しも使った。
 色は、思ったより淡いワイン色だと思った。
 ワイングラスに少し注ぎ、まずは香りをかぐ。そして一口飲んでみる。
「感想は?」
と、言いながらお互いの顔を見合わせながら飲む。
「香りはいいと思うわ。味も単純ではない味と思うわ」
「でも、普段から、ワインを飲んでないから、比べられへんわ」
「もっと、他のワインを飲んでおいたらよかったなあ」
「なんだか、もったいないね。でも、私たちと同じ歳のワインだと思うと感慨深いね」
「これって、猫に小判って言うんやね」
と、感想を述べ合った。
 今回よくわかったのは、私たちは、ワインを知らないということであった。ワインを
知るには、まずワインに親しまなければならないということである。
 今後は、もうこんなに貴重なワインには出会うことは出来ないかもしれないが、
これを機会に、ワインの門を叩いてみようかと思った。
 「ワインを開けた日」は、ワイン入門の日だったかもしれない。
                       (2008年7月22日)