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山家集の研究 (佐左木信綱校訂・岩波文庫・山家集から)
吉野 の歌
「山家集=32首・聞書集18首ほか」
01 霞まずは何をか春と思はましまだ雪消えぬみ吉野の山
(岩波文庫山家集19P春歌・新潮11番・
西行上人集追而加書・続後撰集)
ひとり山の花を尋ぬといふことを
02 誰かまた花を尋ねてよしの山苔ふみわくる岩つたふらむ
(岩波文庫山家集26P春歌・新潮57番・西行上人集・
山家心中集・西行物語)
03 よしの山雲をはかりに尋ね入りて心にかけし花を見るかな
(岩波文庫山家集30P春歌・新潮62番・西行上人集・
山家心中集・夫木抄)
04 おもひやる心や花にゆかざらむ霞こめたるみよしのの山
(岩波文庫山家集30P春歌・新潮63番)
05 まがふ色に花咲きぬればよしの山春は晴れせぬ嶺の白雲
(岩波文庫山家集30P春歌・新潮65番)
06 吉野山梢の花を見し日より心は身にも添はずなりにき
(岩波文庫山家集30P春歌・新潮66番・西行上人集・
山家心中集・続後拾遺集・玄玉集)
07 白河の梢を見てぞなぐさむる吉野の山にかよふ心を
(岩波文庫山家集30P春歌・新潮69番・
西行上人集・山家心中集)
08 すそ野やく烟ぞ春は吉野山花をへだつるかすみなりける
(岩波文庫山家集32P春歌・新潮85番)
山寺の花さかりなりけるに、昔を思ひ出でて
09 よしの山ほき路づたひに尋ね入りて花みし春は一むかしかも
(岩波文庫山家集28P春歌・新潮96番)
10 吉野山谷へたなびく白雲は嶺の櫻の散るにやあるらむ
(岩波文庫山家集36P春歌・新潮110番・
西行上人集・山家心中集)
11 吉野山峯なる花はいづかたの谷にか分きて散りつもるらん
(岩波文庫山家集欠歌・新潮111番)
12 よしの山花ふき具して峰こゆる嵐は雲とよそに見ゆらむ
(岩波文庫山家集36P春歌・新潮115番・夫木抄)
13 このもとの旅寝をすれば吉野山花のふすまを着する春風
(岩波文庫山家集37P春歌・新潮125番・西行上人集・
山家心中集・夫木抄)
14 よしの山櫻にまがふ白雲の散りなん後は晴れずもあらなむ
(岩波文庫山家集37P春歌・新潮132番)
15 吉野山一むらみゆる白雲は咲きおくれたる櫻なるべし
(岩波文庫山家集35P春歌・新潮142番・
西行上人集・山家心中集)
16 よしの山人に心をつけがほに花よりさきにかかる白雲
(岩波文庫山家集32P春歌・新潮143番・西行上人集・
山家心中集・新後撰集)
17 山ざくら初雪ふれば咲きにけり吉野はさとに冬ごもれども
(岩波文庫山家集97P冬歌・新潮512番・
西行上人集・山家心中集)
18 よしの山麓にふらぬ雪ならば花かと見てや尋ね入らまし
(岩波文庫山家集102P冬歌・新潮565番・西行上人集・
山家心中集・宮河歌合・続千載集)
19 空晴るる雲なりけりな吉野山花もてわたる風と見たれば
(岩波文庫山家集25P春歌・新潮987番・西行上人集・
山家心中集・万代集)
20 山人よ吉野の奧にしるべせよ花も尋ねむ又おもひあり
(岩波文庫山家集189P雑歌・新潮1034番・西行上人集)
21 吉野山やがて出でじと思ふ身を花ちりなばと人や待つらむ
(岩波文庫山家集32P春歌・新潮1036番・西行上人集・山家心中集・
御裳濯河歌合・新古今集・玄玉集・御裳濯集・自賛歌・西行物語)▲
22 何となく春になりぬと聞く日より心にかかるみ吉野の山
(岩波文庫山家集14P春歌・新潮1062番・西行上人集・山家心中集)
國々めぐりまはりて、春歸りて吉野の方へ
まゐらむとしけるに、 人の、このほどは
いづくにか跡とむべきと申しければ
23 花をみし昔の心あらためて吉野の里にすまむとぞ思ふ
(岩波文庫山家集30P春歌・新潮1070番)
みやだてと申しけるはしたものの、年たかくなりて、さまかへなどして、
ゆかりにつきて吉野に住み侍りけり。思ひかけぬやうなれども、供養を
のべむ料にとて、くだ物を高野の御山へつかはしたりけるに、
花と申すくだ物侍りけるを見て、申しつかはしける
24 をりびつに花のくだ物つみてけり吉野の人のみやだてにして
「新潮」
24 思ひつつ花のくだものつみてけり吉野の人のみやたてにして
(岩波文庫山家集133P羇旅歌・新潮1071番・夫木抄)
25 深く入るは月ゆゑとしもなきものをうき世忍ばむみよしのの山
(岩波文庫山家集192P雑歌・新潮1422番)
26 聞きもせずたはしね山の櫻ばな吉野の外にかかるべしとは
(岩波文庫山家集132P羇旅歌・新潮1442番)
27 吉野山花の散りにし木のもとにとめし心は我を待つらむ
(岩波文庫山家集35P春歌・新潮1453番)
28 よしの山高嶺の櫻さきそめばかからんものか花の薄雲
(岩波文庫山家集35P春歌・新潮1454番)
29 人はみな吉野の山へ入りぬめり都の花にわれはとまらむ
(岩波文庫山家集35P春歌・新潮1455番)
30 吉野山ふもとの瀧にながす花や嶺につもりし雪の下水
(岩波文庫山家集35P春歌・新潮1461番)
31 ねにかへる花をおくりて吉野山夏のさかひに入りて出でぬる
(岩波文庫山家集35P春歌・新潮1462番)
32 瀧おつる吉野の奧のみや川の昔をみけむ跡したはばや
(岩波文庫山家集172P雑歌・新潮1545番)
「聞書集=18首」
33 吉野山うれしかりけるしるべかなさらでは奧の花を見ましや
(岩波文庫山家集226P聞書集04番・夫木抄)
34 雲にまがふ花のさかりを思はせてかつがつかすむみよし野の山
(岩波文庫山家集234P聞書集51番・西行上人集・宮川歌合)
35 花のいろの雪のみ山にかよへばや深きよし野の奧へいらるる
(岩波文庫山家集235P聞書集63番)
36 吉野山こずゑのそらのかすむにて櫻のえだも春知りぬらむ
(岩波文庫山家集239P聞書集102番)
37 かすみしく吉野の里にすむ人はみねの花にやこころかくらむ
(岩波文庫山家集243P聞書集130番)
38 吉野山雲と見えつる花なればちるも雪にはまがふなりけり
(岩波文庫山家集244P聞書集135番)
39 よしのやま雲もかからぬ高嶺かなさこそは花のねにかへりなめ
(岩波文庫山家集244P聞書集136番)
40 水上に花のゆふだちふりにけり吉野の川のなみのまされる
(岩波文庫山家集244P聞書集137番・夫木抄)
41 誰ならむ吉野の山のはつ花をわがものがほに折りてかへれる
(岩波文庫山家集247P聞書集156番)
42 とき花や人よりさきにたづぬると吉野にゆきて山まつりせむ
(岩波文庫山家集249P聞書集178番・夫木抄)
43 山ざくら吉野まうでの花しねをたづねむ人のかてにつつまむ
(岩波文庫山家集249P聞書集179番・夫木抄)
44 谷のまも峯のつづきも吉野山はなゆゑ踏まぬ岩根あらじを
(岩波文庫山家集249P聞書集180番)
45 いまもなしむかしも聞かずしきしまや吉野の花を雪のうづめる
(岩波文庫山家集249P聞書集182番・夫木抄)
46 ときはなる花もやあると吉野山おくなく入りてなほたづねみむ
(岩波文庫山家集249P聞書集186番・西行上人集追而加書・夫木抄)
47 吉野山おくをもわれぞ知りぬべき花ゆゑふかく入りならひつつ
(岩波文庫山家集250P聞書集187番)
48 吉野山こぞのしをりの道かへてまだ見ぬかたの花をたづねむ
(岩波文庫山家集33P春歌・258P聞書集240番・新潮欠番・
御裳濯歌合・新古今集・玄玉集・御裳濯集・西行物語) ▲
49 花ちりて雲はれぬれば吉野山こずゑのそらはみどりにぞなる
(岩波文庫山家集258P聞書集242番)
50 花ちりぬやがてたづねむほととぎす春をかぎらじみ吉野の山
(岩波文庫山家集258P聞書集243番)
「御裳濯河歌合=6首の内3首」
51 なべてならぬ四方の山べの花はみな吉野よりこそ種は散りけめ
(岩波文庫山家集272P補遺・御裳濯河歌合・夫木抄)
52 花さきし鶴の林のそのかみを吉野の山の雲に見しかな
(岩波文庫山家集284P補遺・御裳濯河歌合)
53 世をうしと思ひけるにぞなりぬべき吉野の奧へ深く入りなば
(岩波文庫山家集282P補遺・御裳濯河歌合)
「西行上人集=7首」
54 吉野山さくらが枝に雪ちりて花おそげなる年にもあるかな
(岩波文庫山家集33P春歌・新潮欠番・西行上人集・
新古今集・御裳濯集・自賛歌・西行物語)
55 春くれて人ちりぬめり芳野山花のわかれを思ふのみかは
(岩波文庫山家集41P春歌・新潮欠番・西行上人集)
56 春といへば誰も吉野の花をおもふ心にふかきゆゑやあるらむ
(岩波文庫山家集25P春歌・新潮欠番・西行上人集)
57 待たれつる吉野のさくらさきにけりこころを散らす春の山かぜ
(岩波文庫山家集272P補遺・西行上人集)
58 吉野山かぜこすくきにさく花はいつさかりともなくや散るらむ
(岩波文庫山家集272P補遺・西行上人集・山家心中集)
59 ちらぬまはさかりに人もかよひつつ花に春あるみよしのの山
(岩波文庫山家集34P春歌・新潮欠番・西行上人集)
60 よしの山花をのどかに見ましやはうきがうれしき我が身なりけり
(岩波文庫山家集34P春歌・新潮欠番・西行上人集・御裳濯集)
「その他=3首(歌は2首)」
61 春は猶吉野の奥へ入にけり散るめる花ぞ根には帰れる
(松屋本山家集)
62 いざ心花をたづぬといひなして吉野の奥へ深く入りなん
(松屋本山家集)
忍西入道、西山の麓に住みけるに、秋の花いかに
おもしろからんとゆかしうと申し遣しける返亊に、
いろいろの花を折りあつめて
63 鹿の音や心ならねばとまるらんさらでは野辺をみな見するかな
(忍西入道「静忍法師か?」歌)
(岩波文庫山家集60P秋歌・新潮1159番・西行上人集・
続詞花集・西行物語)
58 272
吉野山かぜこすくきにさく花はいつさかりともなくや散るらむ
59 282
世をうしと思ひけるにぞなりぬべき吉野の奥へ深く入りなば
60 284
花さきし鶴の林のそのかみを吉野の山の雲に見しかな
61 新潮版山家集
吉野山峯なる花はいづかたの谷にか分きて散りつもるらん
62 松屋本山家集
春は猶よし野のおくへ入りにけりちりそめる花そ根にはかへれる
63 松屋本山家集
いさ心花をたつぬといひなしてよし野のおくへふかくいりなむ
(注) ▲のついている歌は重出歌です。
「吉野」の西行歌は62首です(1首重複)。
【詞書】
30 國々めぐりまはりて、春歸りて吉野の方へまゐらむとしけるに、人の、
このほどはいづくにか跡とむべきと申しければ
133 みやだてと申しけるはしたものの、年たかくなりて、さまかへなどして、
ゆかりにつきて吉野に住み侍りけり。思ひかけぬやうなれども、供養を
のべむ料にとて、くだ物を高野の御山へつかはしたりけるに、花と申す
くだ物侍りけるを見て、申しつかはしける
■ 入力 2002年01月15日
■ 入力者 阿部和雄
■ 校正 2005年1月15日校正・2013年05月09日
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