もどる
山家集の研究 (佐左木信綱校訂・岩波文庫・山家集から)
吉野 の歌 (前数字は番数、次数字はページ)
1 14
何となく春になりぬと聞く日より心にかかるみ吉野の山
2 19
霞まずは何をか春と思はましまだ雪消えぬみ吉野の山
3 25
春といへば誰も吉野の花をおもふ心にふかきゆゑやあるらむ
4 25
空晴るる雲なりけりな吉野山花もてわたる風と見たれば
5 26
誰かまた花を尋ねてよしの山苔ふみわくる岩つたふらむ
6 28
よしの山ほき路づたひに尋ね入りて花みし春は一むかしかも
7 30
花をみし昔の心あらためて吉野の里にすまむとぞ思ふ
8 30
よしの山雲をはかりに尋ね入りて心にかけし花を見るかな
9 30
おもひやる心や花にゆかざらむ霞こめたるみよしのの山
10 30
まがふ色に花咲きぬればよしの山春は晴れせぬ嶺の白雲
11 30
吉野山梢の花を見し日より心は身にも添はずなりにき
12 30
白河の梢を見てぞなぐさむる吉野の山にかよふ心を
13 32
すそ野やく烟ぞ春は吉野山花をへだつるかすみなりける
14 32
吉野山やがて出でじと思ふ身を花ちりなばと人や待つらむ
15 32
よしの山人に心をつけがほに花よりさきにかかる白雲
16 33
吉野山さくらが枝に雪ちりて花おそげなる年にもあるかな
17 33
吉野山こぞのしをりの道かへてまだ見ぬかたの花を尋ねむ
(258ページと重複)
18 34
ちらぬまはさかりに人もかよひつつ花に春あるみよしのの山
19 34
よしの山花をのどかに見ましやはうきがうれしき我が身なりけり
20 35
吉野山花の散りにし木のもとにとめし心は我を待つらむ
21 35
よしの山高嶺の櫻さきそめばかからんものか花の薄雲
22 35
人はみな吉野の山へ入りぬめり都の花にわれはとまらむ
23 35
吉野山ふもとの瀧にながす花や嶺につもりし雪の下水
24 35
ねにかへる花をおくりて吉野山夏のさかひに入りて出でぬる
25 35
吉野山一むらみゆる白雲は咲きおくれたる櫻なるべし
26 36
吉野山谷へたなびく白雲は嶺の櫻の散るにやあるらむ
27 36
よしの山花ふき具して峯こゆる嵐は雲とよそに見ゆらむ
28 37
このもとの旅寝をすれば吉野山花のふすまを着する春風
29 37
よしの山櫻にまがふ白雲の散りなん後は晴れずもあらなむ
30 41
春くれて人ちりぬめり芳野山花のわかれを思ふのみかは
31 97
山ざくら初雪ふれば咲きにけり吉野はさとに冬ごもれども
32 102
よしの山麓にふらぬ雪ならば花かと見てや尋ね入らまし
33 132
聞きもせずたはしね山の櫻ばな吉野の外にかかるべしとは
34 133
をりびつに花のくだ物つみてけり吉野の人のみやだてにして
35 172
瀧おつる吉野の奥のみや川の昔をみけむ跡したはばや
36 189
山人よ吉野の奥にしるべせよ花も尋ねむ又思ひあり
37 192
深く入るは月ゆゑとしもなきものをうき世忍ばむみよしのの山
38 226
吉野山うれしかりけるしるべかなさらでは奥の花を見ましや
39 234
雲にまがふ花のさかりを思はせてかつがつかすむみよし野の山
40 235
花のいろの雪のみ山にかよへばや深きよし野の奥へいらるる
41 239
吉野山こずゑのそらのかすむにて櫻のえだも春知りぬらむ
42 243
かすみしく吉野の里にすむ人はみねの花にやこころかくらむ
43 244
吉野山雲と見えつる花なればちるも雪にはまがふなりけり
44 244
よしのやま雲もかからぬ高嶺かなさこそは花のねにかへりなめ
45 244
水上に花のゆふだちふりにけり吉野の川のなみのまされる
46 247
誰ならむ吉野の山のはつ花をわがものがほに折りてかへれる
47 249
とき花や人よりさきにたづぬると吉野にゆきて山まつりせむ
48 249
山ざくら吉野まうでの花しねをたづねむ人のかてにつつまむ
49 249
谷のまも峯のつづきも吉野山はなゆゑ踏まぬ岩根あらじを
50 249
いまもなしむかしも聞かずしきしまや吉野の花を雪のうづめる
51 249
ときはなる花もやあると吉野山おくなく入りてなほたづねみむ
52 250
吉野山おくをもわれぞ知りぬべき花ゆゑふかく入りならひつつ
53 258
吉野山こぞのしをりの道かへてまだ見ぬかたの花をたづねむ ▲
54 258
花ちりて雲はれぬれば吉野山こずゑのそらはみどりにぞなる
55 258
花ちりぬやがてたづねむほととぎす春をかぎらじみ吉野の山
56 272
待たれつる吉野のさくらさきにけりこころを散らす春の山かぜ
57 272
なべてならぬ四方の山べの花はみな吉野よりこそ種は散りけめ
58 272
吉野山かぜこすくきにさく花はいつさかりともなくや散るらむ
59 282
世をうしと思ひけるにぞなりぬべき吉野の奥へ深く入りなば
60 284
花さきし鶴の林のそのかみを吉野の山の雲に見しかな
61 新潮版山家集
吉野山峯なる花はいづかたの谷にか分きて散りつもるらん
62 松屋本山家集
春は猶よし野のおくへ入りにけりちりそめる花そ根にはかへれる
63 松屋本山家集
いさ心花をたつぬといひなしてよし野のおくへふかくいりなむ
(注) ▲のついている歌は重出歌です。
「吉野」の西行歌は62首です(1首重複)。
【詞書】
30 國々めぐりまはりて、春歸りて吉野の方へまゐらむとしけるに、人の、
このほどはいづくにか跡とむべきと申しければ
133 みやだてと申しけるはしたものの、年たかくなりて、さまかへなどして、
ゆかりにつきて吉野に住み侍りけり。思ひかけぬやうなれども、供養を
のべむ料にとて、くだ物を高野の御山へつかはしたりけるに、花と申す
くだ物侍りけるを見て、申しつかはしける
■ 入力 2002年01月15日
■ 入力者 阿部和雄
■ 校正 2005年1月15日校正・2013年05月09日
ページの先頭