山家集の研究 (佐佐木信綱校訂・岩波文庫・山家集から)
心の歌 (心・こころ・心地・ここち) 前数字は番号、次数字はページ
心
001 13
春としもなほおもはれぬ心かな雨ふる年のここちのみして
002 14
何となく春になりぬと聞く日より心にかかるみ吉野の山
003 17
わか菜つむ今日に初子のあひぬれば松にや人の心ひくらむ
004 19
なき人を霞める空にまがふるは道をへだつる心なるべし
005 19
そらになる心は春の霞にてよにあらじとも思ひたつかな
006 19
香にぞまづ心しめ置く梅の花色はあだにも散りぬべければ
007 20
心せむ賎が垣ほの梅はあやなよしなく過ぐる人とどめける
008 20
何となく軒なつかしき梅ゆゑに住みけむ人の心をぞ知る
009 25
春といへば誰も吉野の花をおもふ心にふかきゆゑやあるらむ
010 25
まつによりちらぬ心を山ざくら咲きなば花の思ひ知らなむ
011 28
ちるを見て歸る心や櫻花むかしにかはるしるしなるらむ
012 30
花をみし昔の心あらためて吉野の里にすまむとぞ思ふ
013 30
よしの山雲をはかりに尋ね入りて心にかけし花を見るかな
014 30
おもひやる心や花にゆかざらむ霞こめたるみよしのの山
015 30
吉野山梢の花を見し日より心は身にも添はずなりにき
016 30
あくがるる心はさても山櫻ちりなむ後や身にかへるべき
017 30
花みればそのいはれとはなけれども心のうちぞ苦しかりける
018 30
白河の梢を見てぞなぐさむる吉野の山にかよふ心を
019 31
花にそむ心のいかで殘りけむ捨てはててきと思ふ我が身に
020 31
のどかなる心をきへに過しつつ花ゆゑにこそ春を待ちしか
021 32
人もこず心もちらで山里は花をみるにもたよりありけり
022 32
よしの山人に心をつけがほに花よりさきにかかる白雲
023 32
かたばかりつぼむと花を思ふよりそらまた心ものになるらむ
024 32
花ときくは誰もさこそは嬉しけれ思ひしづめぬわが心かな
025 33
おぼつかな春は心の花にのみいづれの年かうかれそめけむ
026 33
なにとなくあだなる花の色をしも心にふかく染めはじめけむ
027 34
さきやらぬものゆゑかねて物ぞ思ふ花に心の絶えぬならひに
028 34
花を待つ心こそなほ昔なれ春にはうとくなりにしものを
029 34
あはれわれおほくの春の花を見てそめおく心誰にゆづらむ
030 34
今の我も昔の人も花見てん心の色はかはらじものを
031 35
吉野山花の散りにし木のもとにとめし心は我を待つらむ
032 35
山櫻さきぬと聞きて見にゆかむ人をあらそふ心とどめて
033 36
年を經て待つと惜しむと山櫻心を春はつくすなりけり
034 36
惜しまれぬ身だにも世にはあるものをあなあやにくの花の心や
035 36
もろともに我をも具してちりね花うき世をいとふ心ある身ぞ
036 36
惜しめばと思ひげもなくあだにちる花は心ぞかしこかりける
037 37
梢ふく風の心はいかがせんしたがふ花のうらめしきかな
038 37
ちる花を惜しむ心やとどまりて又こむ春の誰になるべき
039 37
あながちに庭をさえ吹く嵐かなさこそ心に花をまかせめ
040 37
心えつただ一すぢに今よりは花を惜しまで風をいとはむ
041 37
風さそふ花の行方は知らねども惜しむ心は身にとまりけり
042 38
風にちる花の行方は知らねども惜しむ心は身にとまりけり(重複掲載)
043 38
梢うつ雨にしをれてちる花の惜しき心を何にたとへむ
044 39
青葉さへみれば心のとまるかな散りにし花の名殘と思へば
045 40
誰ならむあら田のくろに菫つむ人は心のわりなかりけり
046 40
つばなぬく北野の茅原あせ行けば心ずみれ生ひかはりける
047 42
限あれば衣ばかりをぬぎかへて心は花をしたふなりけり
048 42
草しげる道かりあけて山ざとに花みし人の心をぞみる
049 43
時鳥まつ心のみつくさせて聲をば惜しむ五月なりけり
050 44
まつ人の心を知らば郭公たのもしくてや夜をあかさまし
051 45
ほととぎすいかばかりなる契にて心つくさで人の聞くらむ
052 45
聞きおくる心を具して時鳥たかまの山の嶺こえぬなり
053 46
初聲を聞きての後は時鳥待つも心のたのもしきかな
054 46
ならべける心はわれか郭公君まちえたる宵のまくらに
055 47
世のうきにひかるる人はあやめ草心のねなき心地こそすれ
056 48
西にのみ心ぞかかるあやめ草この世はかりの宿と思えば
057 48
みな人の心のうきはあやめ草西に思ひのひかぬなりけり
058 50
舟とめしみなとのあし間さをたえて心ゆくみむ五月雨のころ
059 56
おしなべてものを思はぬ人にさへ心をつくる秋のはつ風
060 56
待ちつけて嬉しかるらむたなばたの心のうちぞ空に知らるる
061 60
鹿の音や心ならねばとまるらんさらでは野邊をみな見するかな
062 61
花すすき心あてにぞ分けて行くほの見し道のあとしなければ
063 62
萩の葉を吹き過ぎて行く風の音に心みだるる秋の夕ぐれ
064 62
何とかく心をさへはつくすらむ我がなげきにて暮るる秋かは
065 64
虫の音を弱り行くかと聞くからに心に秋の日數をぞふる
066 64
虫のねにさのみぬるべき袂かはあやしや心物思ふらし
067 67
心なき身にもあはれは知られけり鴫たつ澤の秋の夕ぐれ
068 68
鹿の音を聞くにつけても住む人の心しらるる小野の山里
069 68
をじか鳴く小倉の山の裾ちかみただひとりすむ我が心かな
070 69
立ちこむる霧の下にも埋もれて心はれせぬみ山べの里
071 70
かげうすみ松の絶間をもり來つつ心ぼそくや三日月の空
072 75
汲みてこそ心すむらめ賎の女がいただく水にやどる月影
073 75
くまもなき月の光にさそはれて幾雲井まで行く心ぞも
074 76
嬉しきは君にあうふべき契ありて月に心の誘はれにけり
075 76
月のみやうはの空なるかたみにて思ひも出でば心通はむ
076 76
ふりさけし人の心ぞ知られける今宵三笠の山をながめて
077 77
さらぬだにうかれて物を思ふ身の心をさそふ秋の夜の月
078 77
捨てていにし憂世に月のすまであれなさらば心のとまらざらまし
079 77
あながちに山にのみすむ心かな誰かは月の入るを惜しまぬ
080 78
なかなかに心つくすもくるしきにくもらば入りね秋の夜の月
081 78
したはるる心や行くと山の端にしばしな入りそ秋の夜の月
082 79
待ち出でてくまなき宵の月みれば雲ぞ心にまづかかりける
083 80
月を見て心うかれしいにしへの秋にも更にめぐりあひぬる
084 80
ゆくへなく月に心のすみすみて果はいかにかならむとすらむ
085 81
かげさへてまことに月のあかきには心も空にうかれてぞすむ
086 81
ながむればいなや心の苦しきにいたくなすみそ秋の夜の月
087 83
山かげにすまぬ心のいかなれやをしまれて入る月もある世に
088 83
月のため心やすきは雲なれやうき世にすめる影をかくせば
089 83
世のうさに一かたならずうかれゆく心さだめよ秋の夜の月
090 84
いかにわれ清く曇らぬ身となりて心の月の影を見るべき
091 84
月の色に心をふかくそめましや都を出でぬ我が身なりせば
092 84
來む世には心のうちにあらはさむあかでやみぬる月の光を
093 84
あらはさむ我が心をぞうらむべき月やはうときをばすての山
094 86
月みれば秋くははれる年はまたあかぬ心もそふにぞありける
095 87
汲みてなど心かよはばとはざらむ出でたるものを菊の下水
096 89
秋暮るる月なみわかぬ山がつの心うらやむ今日の夕暮
097 90
初時雨あはれ知らせて過ぎぬなり音に心の色を染めにし
098 90
月をまつ高嶺の雲は晴れにけり心ありけるはつ時雨かな
099 90
立田やま時雨しぬべく曇る空に心の色をそめはじめつる
100 91
ねざめする人の心をわびしめてしぐるる音は悲しかりけり
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101 92
木葉ちれば月に心ぞあくがるるみ山がくれにすまむと思ふに
102 92
神無月木葉の落つるたびごとに心うかるるみ山べの里
103 93
霜かづく枯野の草は寂しきにいづくは人の心とむらむ
104 94
さゆれども心やすくぞ聞きあかす河瀬のちどり友ぐしてけり
105 105
心をば深きもみじの色にそめて別れて行くやちるになるらむ
106 109
かへり行く人の心を思ふにもはなれがたきは都なりけり
107 110
いかで我心の雲にちりすべき見るかひありて月を詠めむ
108 110
さのみやは袂に影を宿すべきよわし心に月な眺めそ
109 110
月にはぢてさし出でられぬ心かな詠むる袖に影のやどれば
110 110
心をば見る人ごとにくるしめて何かは月のとりどころなる
111 112
岩にせくあか井の水のわりなきは心すめともやどる月影
112 117
波のおとを心にかけてあかすかな苫もる月の影を友にて
113 118
はらか釣るおほわたさきのうけ縄に心かけつつ過ぎむとぞ思ふ
114 118
瀬をはやみ宮瀧河を渡り行けば心の底のすむ心地する
115 119
古への松のしづえをあらひけむ波を心にかけてこそ見れ
116 123
分けて行く色のみならず梢さへちくさのたけは心そみけり
117 123
屏風にや心を立てて思ひけむ行者はかへりちごはとまりぬ
118 123
身につもることばの罪もあらはれて心すみぬるみかさねの瀧
119 125
~風に心やすくぞまかせつる櫻の宮の花のさかりを
120 131
とりわきて心もしみてさえぞ渡る衣川見にきたる今日しも
121 131
常よりも心ぼそくぞおもほゆる旅の空にて年の暮れぬる
122 133
あらし吹く峯の木葉にともなひていづちうかるる心なるらむ
123 134
あくがれし心を道のしるべにて雲にともなふ身とぞ成りける
124 138
山ふかみ苔の筵の上にゐてなに心なく啼くましらかな
125 143
たてそめる歸る心はにしき木の千づか待つべき心地こそすれ
126 143
あふことを夢なりけりと思ひわく心のけさは恨めしきかな
127 144
今朝よりぞ人の心はつらからで明けはなれ行く空むる
128 145
長月のあまりにつらき心にていむとは人のいふにやあるらむ
129 145
ことづくるみあれのほどをすぐしても猶やう月の心なるべき
130 146
かけひにも君がつららや結ぶらむ心細くもたえぬなるかな
131 146
つれもなき人に見せばや櫻花風にしたがふ心よわさを
132 146
花をみる心はよそにへだたりて身につきたるは君がおもかげ
133 147
つれもなく絶えにし人を雁がねの歸る心とおもはましかば
134 148
朝ごとに聲ををさむる風の音はよをへてかるる人の心か
135 148
月待つといひなされつる宵のまの心の色の袖に見えぬる
136 148
あはれとも見る人あらば思はなむ月のおもてにやどす心を
137 148
月見ればいでやと世のみおもほえてもたりにくくもなる心かな
138 149
物思ふ心のたけぞ知られぬる夜な夜な月を眺めあかして
139 149
月を見る心のふしをとがにしてたより得がほにぬるる袖かな
140 149
おもひ出づることはいつもといひながら月にはたへぬ心なりけり
141 149
よしさらば涙の池に身をなして心のままに月をやどさむ
142 150
よもすがら月を見がほにもてなして心のやみにまよふ頃かな
143 150
くまもなき折しも人を思ひ出でて心と月をやつしつるかな
144 150
もの思ふ心の隈をのごひすててくもらぬ月を見るよしもがな
145 150
戀しさや思ひよわると眺むればいとど心をくだく月かな
146 150
ともすれば月澄む空にあくがるる心のはてを知るよしもがな
147 151
數ならぬ心のとがになしはてじ知らせてこそは身をも恨みめ
148 152
日をふれば袂の雨のあしそひて晴るべくもなき我が心かな
149 152
いはしろの松風きけば物を思ふ人も心はむすぼほれけり
150 152
なにとこはかずまへられぬ身の程に人を恨むる心ありけむ
151 152
さまざまに思ひみだるる心をば君がもとにぞつかねあつむる
152 152
もの思えばちぢに心ぞくだけぬるしのだの森の枝ならねども
153 153
おぼつかな何のむくいのかへりきて心せたむるあたとなるらむ
154 153
かきみだる心やすめのことぐさはあはれあはれとなげくばかりぞ
155 153
人はうし歎はつゆもなぐさまずこはさはいかにすべき心ぞ
156 153
さることのあるなりけりと思ひ出でて忍ぶ心を忍べとぞ思ふ
157 153
心ざしのありてのみやは人をとふなさけはなどと思ふばかりぞ
158 153
汲みてしる人もあらなむおのづからほりかねの井の底の心を
159 154
東路やあひの中山ほどせばみ心のおくの見えばこそあらめ
160 154
播磨路や心のすまに關すゑていかで我が身の戀をとどめむ
161 155
さらに又むすぼほれ行く心かなとけなばとこせ思ひしかども
162 155
昔よりもの思ふ人やなからまし心にかなふ歎なりせば
163 155
うき身知る心にも似ぬ涙かな恨みんとしもおもはぬものを
164 156
思ひあまりいひ出でてこそ池水の深き心のほどは知られめ
165 156
わりなしや我も人目をつつむまにしひてもいはぬ心づくしは
166 156
心にはしのぶと思ふかひもなくしるきは戀の涙なりけり
167 157
わが歎く心のうちのくるしさを何にたとへて君に知られむ
168 157
今はただ忍ぶ心ぞつつまれぬなげかば人や思ひしるとて
169 157
さるほどの契はなににありながらゆかぬ心のくるしきやなぞ
170 157
ひきかへて嬉しかるらむ心にもうかりしことを忘れざらなむ
171 158
あやにくに人めもしらぬ涙かなたえぬ心にしのぶかひなく
172 158
草しげみ澤にぬはれてふす鴫のいかによそだつ人の心ぞ
173 158
あはれとて人の心のなさけあれな數ならぬにはよらぬなさけを
174 158
いかにせむうき名を世々にたて果てて思ひもしらぬ人の心を
175 159
とはれぬもとはぬ心のつれなさもうきはかはらぬ心地こそすれ
176 159
わりなしな袖に歎きのみつままに命をのみもいとふ心は
177 159
色ふかき涙の河の水上は人をわすれぬ心なりけり
178 159
とへかしななさけは人の身のためをうきものとても心やはある
179 160
我つらきことをやなさむおのづから人めを思ふ心ありやと
180 160
こととへばもてはなれたるけしきかなうららかなれや人の心の
181 160
我のみぞ我が心をばいとほしむあはれむ人のなきにつけても
182 161
うらみじと思ふ我さへつらきかなとはで過ぎぬる心づよさを
183 162
いとほしやさらに心のをさなびてたまぎれらるる戀もするかな
184 162
君したふ心のうちはちごめきて涙もろにもなる我が身かな
185 162
なつかしき君が心の色をいかで露もちらさで袖につつまむ
186 162
うきによりつひに朽ちぬる我が袖を心づくしに何忍びけむ
187 162
心からこころに物をおもはせて身をくるしむる我が身なりけり
188 162
なげかるる心のうちのくるしさを人の知らばや君にかたらむ
189 163
我が涙うたがはれぬる心かな故なく袖のしをるべきかは
190 163
さることのあるべきかはとしのばれて心いつまでみさをなるらむ
191 163
とりのくし思ひもかけぬ露はらひあなくしたかの我が心かな
192 163
君にそむ心の色の深さには匂ひもさらに見えぬなりけり
193 164
我がためにつらき心をみな月のてづからやがてはらへすてなむ
194 165
こひすともみさをに人にいはればや身にしたがはぬ心やはある
195 165
うとくなる人は心のかはるとも我とは人に心おかれじ
196 168
磯菜つむあまのさをとめ心せよ沖ふく風に浪高くなる
197 168
磯による浪に心のあらはれてねざめがちなる苫やかたかな
198 168
汐路行くかこみのともろ心せよまたうず早きせと渡るなり
199 168
とほくさすひたのおもてにひく汐はしづむ心ぞ悲しかりける
200 170
暁の嵐にたぐふ鐘の音を心の底にこたへてぞきく
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201 170
入日さす山のあなたは知らねども心をぞかねておくり置きつる
202 170
何となく汲むたびにすむ心から岩井の水に影うつしつつ
203 171
かひありな君が御袖におほわれて心にあはぬことしなき世は
204 172
山ざとの心の夢にまどひおれば吹きしらまかす風の音かな
205 172
月をこそながめば心うかれ出でめやみなる空にただよふやなぞ
206 174
さし入らで雲路をよきし月影はまたぬ心や空に見えけむ
207 175
おどろかぬ心なりせば世の中を夢ぞとかたるかひなからまし
208 176
すむとみし心の月しあらはれば此世も闇は晴れざらめやは
209 176
山里に心はふかくすみながら柴の烟の立ち歸りにし
210 177
世を捨てぬ心のうちに闇こめて迷はむことは君ひとりかは
211 177
世の中に心あり明けの人はみなかくて闇にはまよはぬものを
212 181
一すぢにいかで杣木のそろひけむいつよりつくる心だくみに
213 181
いとどいかに山を出でじとおもふらむ心の月を獨すまして
214 183
波の立つ心の水をしづめつつ咲かん蓮を今は待つかな(女房)
215 184
程とほみ通ふ心のゆくばかり猶かきながせ水ぐきのあと
216 184
頼むらんしるべもいさやひとつ世の別にだにもまよふ心は
217 187
折りにつけて人の心もかはりつつ世にあるかひもなぎさなりけり
218 187
何ごとにとまる心のありければ更にしも又世のいとはしき
219 187
濁りたる心の水のすくなきに何かは月の影やどるべき
220 188
いかでわれ清く曇らぬ身となりて心の月の影をみがかむ
221 188
愚なる心にのみやまかすべき師となることもあるなるものを
222 188
野にたてる枝なき木にもおとりけり後の世知らぬ人の心は
223 188
身のうさの隠家にせむ山里は心ありてぞすむべかりける
224 188
うかれ出づる心は身にもかなはねばいかなりとてもいかにかはせむ
225 188
西を待つ心に藤をかけてこそそのむらさきの雲をおもはめ
226 189
我なれや風を煩らふしの竹はおきふし物の心ぼそくて
227 189
山深み杖にすがりて入る人の心の底のはづかしきかな
228 189
時雨かは山めぐりする心かないつまでとのみうちしほれつつ
229 189
何となくせりと聞くこそあはれなれつみけむ人の心しられて
230 191
山深く心はかねておくりてき身こそうきみを出でやらねども
231 191
雲につきてうかれのみ行く心をば山にかけてをとめむとぞ思ふ
232 191
捨てて後はまぎれしかたは覺えぬを心のみをば世にあらせける
233 191
ふりにける心こそ猶あはれなれおよばぬ身にも世は思はする
234 191
我が宿は山のあなたにあるものを何とうき世を知らぬ心ぞ
235 191
ながらへむと思ふ心ぞつゆもなきいとふにだにも足らぬうき身は
236 192
捨てし折の心をさらにあらためてみるよの人にわかれ果てなむ
237 192
思へ心人のあらばや世にもはぢむさりとてやはといさむばかりぞ
238 192
鳥邊野を心のうちに分け行けばいまきの露に袖ぞそぼつる
239 192
世の中を夢と見る見るはかなくも猶おどろかぬ我が心かな
240 193
そのすぢに入りなば心なにしかも人目おもひて世につつむらむ
241 193
すむ人の心くまるる泉かな昔をいかに思ひいづらむ
242 194
今よりは昔がたりは心せむあやしきまでに袖しをれけり
243 196
うき世をばあらればあるにまかせつつ心よいたくものな思ひそ
244 196
たのもしな君君にます折にあひて心の色を筆にそめつる
245 196
見ればげに心もそれになりぞ行く枯野の薄有明の月
246 196
數ならぬ身をも心のもりがほにうかれては又歸り來にけり
247 196
おろかなる心のひくにまかせてもさてさはいかにつひの住かは
248 197
山深くさこそ心はかよふとも住まであはれは知らむ物かは
249 198
かしこまるしでに涙のかかるかな又いつかはとおもふ心に
250 200
さまざまに哀おほかる別かな心を君が宿にとどめて
251 201
歸れども人のなさけにしたはれて心は身にもそはずなりぬる
252 203
かさねきる藤の衣をたよりにて心の色を染めよとぞ思ふ
253 204
かぎりなく悲しかりけりとりべ山なきを送りて歸る心は
254 204
なき跡をそとばかりみて歸るらむ人の心を思ひこそやれ
255 205
哀とも心に思ふ程ばかりいはれぬべくはとひもこそせめ
256 206
此世にて又あふまじき悲しさにすすめし人ぞ心みだれし
257 207
ふしつづむ身には心のあらばこそ更に歎もそふ心地せめ(不明)
258 209
哀しる空も心もありければなみだに雨をそふるなりけり
259 211
雲晴るるわしの御山の月かげを心すみてや君ながむらむ
260 212
おどろかむと思ふ心のあらばやは長きねぶりの夢も覺むべく
261 212
露と消えば蓮薹野にを送りおけ願ふ心を名にあらはさむ
262 213
うらうらとしなんずるなと思ひとけば心のやがてさぞとこたふる
263 214
ありがたき法にあふぎの風ならば心の塵をはらへとぞ思ふ(崇徳院)
264 214
ちりばかりうたがふ心なからなむ法をあふぎて頼むとならば
265 214
淺く出でし心の水やたたふらむすみ行くままにふかくなるかな
266 215
いにしへにもれけむことの悲しさは昨日の庭に心ゆきにき
267 216
雲雀たつあら野におふる姫ゆりのなににつくともなき心かな
268 217
山のはにかくるる月をながむれば我も心の西に入るかな
269 217
西へ行く月をやよそに思ふらむ心にいらぬ人のためには
270 217
まどひきてさとりうべくもなかりつる心を知るは心なりけり
271 217
闇晴れて心の空にすむ月は西の山べやちかくなるらむ
272 218
こりもせずうき世の闇にまよふかな身を思はぬは心なりけり
273 218
おのづから清き心にみがかれて玉ときかくる法を知るかな
274 218
いさぎよき玉を心にみがき出でていはけなき身に悟をぞえし
275 219
わしの山月を入りぬと見る人はくらきにまよふ心なりけり
276 219
さとりえし心の月のあらはれて鷲の高嶺にすむにぞありける
277 219
鷲の山くもる心のなかりせば誰も見るべき有明の月
278 219
鷲の山誰かは月を見ざるべき心にかかる雲しなければ
279 219
何ごとも空しき法の心にて罪ある身とはつゆも思はず
280 220
ありがたき人になりけるかひありて悟りもとむる心あらなむ
281 221
まどひてし心を誰も忘れつつひかへらるなることのうきかな
282 221
ひきひきにわがたてつると思ひける人の心やせばまくのきぬ
283 221
末の世の人の心をみがくべき玉をも塵にまぜてけるかな
284 221
さまざまにたな心なる誓をばなもの言葉にふさねたるかな
285 222
野邊の色も春の匂ひもおしなべて心そめたる悟りにぞなる
286 228
いまぞ知るたぶさの珠を得しことは心をみがくたとへなりけり
287 228
深き山に心の月しすみぬればかがみに四方のさとりをぞ見る
288 229
たちゐにもあゆぐ草葉のつゆばかり心をほかにちらさずもがな
289 229
くらぶ山かこふしば屋のうちまでに心をさめぬところやはある
290 230
わが心さやけきかげにすむものをある夜の月をひとつみるだに
291 231
花にのるさとりを四方に散らしてや人の心に香をばしむらむ
292 231
花の色に心をそめぬこの春やまことの法の果はむすぶべき
293 231
はちす咲くみぎはの波のうちいでて説くらむ法を心にぞ聴く
294 232
ひとつ根に心のたねの生ひいでて花さきみをばむすぶなりけり
295 232
知られけり罪を心のつくるにて思ひかへさばさとるべしとは
296 238
あはれなる心のおくをとめゆけば月ぞおもひのねにはなりける
297 240
をりにあへば人も心ぞかはりけるかるるは庭のむぐらのみかは
298 244
さかりなるこの山ざくら思ひおきていづち心のまたうかるらむ
299 245
雪おほふふたかみ山の月かげは心にすむや見るにはあるらむ
300 245
うれしさのなほや心にのこらまし程なく花のひらけざりせば
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301 245
雪おほふふたかみ山の月かげは心にすむや見るにはあるらむ
302 245
うれしさのなほや心にのこらまし程なく花のひらけざりせば
303 246
花の香をさとりのまへに散らすかなわが心しる風もありけり
304 247
いろそむる花のえだにもすすまれてこずゑまでさくわが心かな
305 252
知れよ心思はれねばとおもふべきことはことにてあるべきものを
306 253
おろかなる心のひくにまかせてもさてさはいかにつひのおもひは
307 254
ほのほわけてとふあはれみの嬉しさをおもひしらるる心ともがな
308 259
心をぞやがてはちすにさかせつるいまみる花の散るにたぐへて
309 263
誰がかたに心ざすらむ杜鵑さかひの松のうれに啼くなり
310 264
こよひこそ心のくまは知られぬれ入らで明けぬる月をながめて
311 271
色つつむ野邊のかすみの下もえぎ心をそむるうぐひすのこゑ
312 271
枯野うづむ雪に心をまかすればあたりの原にきぎす鳴くなり
313 272
いにしへの人の心のなさけをば老木の花のこずゑにぞ知る
314 274
おもひそむる心の色もかはりけりけふ秋になる夕ぐれの空
315 275
月のゆく山に心をおくり入れてやみなるあとの身をいかにせむ
316 276
かねてより心ぞいとどすみのぼる月待つ峯のさを鹿のこゑ
317 276
名におひて紅葉の色の深き山を心にそむる秋にもあるかな
318 277
もらさでや心の底をくまれまし袖にせかるるなみだなりせば
319 278
花を惜しむ心のいろのにほひをば子をおもふ親の袖にかさね
320 278
たのもしな君きみにます時にあひて心のいろを筆にそめつる
321 280
頼めおかむ君も心やなぐさむと歸らむことはいつとなくとも
322 280
思ひおく人の心にしたはれて露わくる袖のかへりぬるかな
323 281
さとり得て心の花しひらけなばたづねぬさきに色ぞそむべき
324 282
わが心さこそ都にうとくならめ里のあまりにながゐしてけり
325 283
はかなくぞ明日の命をたのみける昨日をすぎし心ならひに
326 283
あばれゆく柴のふたては山里の心すむべきすまひなりけり
327 283
わしの山くもる心のなかりせば誰もみるべき有明の月
328 283
鷲の山思ひやるこそ遠けれど心にすむはありあけの月
こころ
329 43
尋ぬれば聞きがたきかと時鳥こよひばかりはまちこころみむ
330 83
ながめつつ月にこころぞ老いにける今いくたびか世をもすさめむ
331 129
白川の關屋を月のもる影は人のこころをとむるなりけり
332 150
隔てたる人のこころのくまにより月をさやかに見ぬが悲しさ
333 154
涙川さかまくみをの底ふかみみなぎりあへぬ我がこころかな
334 158
あふまでの命もがなと思ひしは悔しかりける我がこころかな
335 162
いひ立てて恨みばいかにつらからむ思へばうしや人のこころは
336 162
心からこころに物をおもはせて身をくるしむる我が身なりけり
337 231
この法のこころは杣の斧なれやかたきさとりのふしわられけり
338 232
西の池にこころの花をさきだててわすれず法のをしへをぞ待つ
339 240
なきあとを誰とふべしと思ひてか人のこころのかはりゆくらむ
340 242
こがれけむ松浦の舟のこころをばそでにかかれる泪にぞしる
341 243
かすみしく吉野の里にすむ人はみねの花にやこころかくらむ
342 244
春ごとの花にこころをなぐさめて六十あまりのとしをへにける
343 245
ひとすぢにこころのいろを染むるかなたなびきわたる紫の雲
344 249
戀しきはたはぶれられしそのかみのいはけなかりし折のこころは
345 251
見るも憂しいかにかすべき我がこころかかる報いの罪やありける
346 251
わきてなほ銅の湯のまうけこそこころに入りて身をあらふらめ
347 252
ひまもなきほむらのなかのくるしみもこころおこせばさとりにぞなる
348 257
みつせ川みつなき人はこころかな沈む瀬にまたわたりかかれる
349 259
我ぞまづ初音きかまし時鳥まつこころをも思ひしられば
350 261
いかばかり涼しかるらむつかへきて御裳濯河をわたるこころは
351 270
山の端にいづるも入るも秋の月うれしくつらき人のこころか
352 272
待たれつる吉野のさくらさきにけりこころを散らす春の山かぜ
353 273
惜しむ人のこころをさへにちらすかな花をさそへる春の山かぜ
354 273
つくづくとものおもひおれば時鳥こころにあまる聲きこゆなり
355 276
萩が枝の露にこころのむすぼれて袖にうらある秋の夕ぐれ
356 276
月すみてふくる千鳥のこゑすなりこころくだくや須磨の關守
357 277
山川にひとりはなれて澄む鴛鴦のこころしらるる波の上かな
358 279
この春は花を惜しまでよそならむこころを風の宮にまかせて
359 281
結び流す末をこころにたたふれば深く見ゆるを山がはの水
360 282
かみぢ山君がこころの色を見む下葉の藤の花しひらけば
心地
361 31
櫻さくよもの山邊をかぬる間にのどかに花を見ぬ心地する
362 42
今日のみと思へばながき春の日も程なく暮るる心地こそすれ
363 50
杣人の暮にやどかる心地していほりをたたく水鶏なりけり
364 56
つねよりも秋になるをの松風はわきて身にしむ心地こそすれ
365 57
小笹原葉ずゑの露の玉に似てはしなき山を行く心地する
366 61
鹿の立つ野邊の錦のきりはしは殘り多かる心地こそすれ
367 74
たぐひなき心地こそすれ秋の夜の月すむ嶺のさを鹿の聲
368 77
世の中のうきをも知らですむ月のかげは我が身の心地こそすれ
369 80
ながむるもまことしからむ心地してよにあまりたる月の影かな
370 80
有明の月のころにしなりぬれば秋は夜ながき心地こそすれ
371 99
あおね山苔のむしろの上にして雪はしとねの心地こそすれ
372 99
うの花の心地こそすれ山ざとの垣ねの柴をうづむ白雪
373 112
花とみる梢の雪に風さえてたとへむ方もなき心地する
374 134
今宵こそあはれみあつき心地して嵐の音をよそに聞きつれ
375 157
さりとよとほのかに人を見つれども覺めぬは夢の心地こそすれ
376 161
なげかじとつつみし頃は涙だに打ちまかせたる心地やはせし
377 174
すみ捨てしその古郷をあらためて昔にかへる心地もやする
378 192
世の中を捨てて捨てえぬ心地して都はなれぬ我が身なりけり
379 192
きしかたの見しよの夢にかはらねば今もうつつの心地やはする
380 206
いかでとも思ひわかでぞ過ぎにける夢に山路を行く心地して
381 212
風あらき磯にかかれるあま人はつながぬ舟の心地こそすれ
382 212
大浪にひかれ出でたる心地してたすけ船なき沖にゆらるる
383 224
ふけて出づるみ山も嶺のあか星は月待ち得たる心地こそすれ
384 270
さらにまたそり橋わたす心地してをぶさかかれるかつらぎの嶺
ここち
385 25
月みれば風に櫻の枝なべて花かとつぐるここちこそすれ
386 31
白河の春の梢のうぐひすは花の言葉を聞くここちする
387 38
鶯の聲に櫻ぞちりまがふ花のこと葉を聞くここちして
388 67
からす羽にかく玉づさのここちして雁なき渡る夕やみの空
389 83
いかにぞや殘りおほかるここちして雲にかくるる秋の夜の月
390 95
秋すぎて庭のよもぎの末見れば月もむかしになるここちする
391 142
君が代は天つ空なる星なれや數も知られぬここちのみして
392 154
くれなゐの色に袂のしぐれつつ袖に秋あるここちこそすれ
393 147
葉がくれに散りとどまれる花のみぞ忍びし人にあふここちする
394 167
桃ぞのの花にまがへるてりうそのむれ立つ折はちるここちする
395 185
露しげく浅茅しげれる野になりてありし都は見しここちせぬ
396 207
行きちらむ今日の別を思ふにもさらに歎はそふここちする
397 236
雪わけて外山をいでしここちして卯の花しげき小野のほそみち
398 238
月やどる波のかひにはよるぞなきあけて二見をみるここちして
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「心・こころ+心地・ここち の複合歌」
13 春としもなほおもはれぬ心かな雨ふる年のここちのみして
47 世のうきにひかるる人はあやめ草心のねなき心地こそすれ(重複掲載)
118 瀬をはやみ宮瀧河を渡り行けば心の底のすむ心地する
143 たてそめる歸る心はにしき木の千づか待つべき心地こそすれ
159 とはれぬもとはぬ心のつれなさもうきはかはらぬ心地こそすれ
207 ふしつづむ身には心のあらばこそ更に歎もそふ心地せめ(不明)
「他者詠歌」
107 家を出づる人とし聞けばかりの宿に心とむなと思ふばかりぞ(江口の君)
134 心ざし深くはこべるみやだてを悟りひらけむ花にたぐへて(みやだて)
135 山の端に月すむまじと知られにき心の空になると見しより(宮の法印)
138 思ひやる心は見えで橋の上にあらそひけりな月の影のみ(西住)
177 世をそむく心ばかりは有明のつきせぬ闇は君にはるけむ(作者不明)
181 うき身こそなほ山陰にしづめども心にうかぶ月を見せばや(慈鎭)
184 水莖のかき流すべきかたぞなき心のうちは汲みて知らなむ(新院の女房)
203 藤衣かさぬる色はふかけれどあさき心のしまぬばかりぞ(右大将きんよし)
210 とへかしな別の袖に露しげき蓮がもとの心ぼそさを(寂然)
210 別れにし人のふたたび跡をみば恨みやせましとはぬ心を(寂然)
210 中々にとはぬは深きかたもあらむ心淺くも恨みつるかな(寂然)
215 山くづす其力ねはかたくとも心だくみを添へこそはせめ(観音寺入道生光)
258 さぞな君こころの月をみがくにはかつがつ四方に雪ぞしきける(西住)
278 ほのぼのと近江のうみをこぐ舟のあとなきかたにゆく心かな(慈鎭)
「連歌」
256 いくさを照らすゆみはりの月
こころきるてなる氷のかげのみか
264 思ふにもうしろあわせになりにけり
265 うらがへりつる人の心は
266 歸る身にそはで心のとまるかな
おくる思ひにかふるなるべし
268 大井川舟にのりえてわたるかな
流にさをさすここちして
以上
■ 入力 2002年01月23日
■ 入力者 阿部和雄
■ 校正 未校正
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