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山家集の研究 (佐佐木信綱校訂・岩波文庫・山家集から)
櫻の歌 (前数字は番号、次数字はページ)
櫻・さくら (櫻、花の複合歌は櫻の部のみに編入)
1 25
月みれば風に櫻の枝なべて花かとつぐるここちこそすれ
2 25
まつによりちらぬ心を山ざくら咲きなば花の思ひ知らなむ
3 25
春になる櫻の枝は何となく花なけれどもむつましきかな
4 28
ちるを見て歸る心や櫻花むかしにかはるしるしなるらむ
5 29
木のもとは見る人しげし櫻花よそにながめて我は惜しまむ
6 29
花見にとむれつつ人のくるのみぞあたら櫻のとがにはありける
7 30
あくがるる心はさても山櫻ちりなむ後や身にかへるべき
8 31
たぐひなき花をし枝にさかすれば櫻にならぶ木ぞなかりける
9 31
櫻さくよもの山邊をかぬる間にのどかに花を見ぬ心地する
10 31
佛には櫻の花をたてまつれわが後の世を人とぶらはば
11 31
何とかや世にありがたき名をしたる花に櫻にまさりしもせじ
12 31
山ざくら霞の衣あつくきてこの春だにも風つつまなむ
13 32
ならひありて風さそふとも山櫻たづぬる我を待ちつけてちれ
14 32
わび人の涙に似たる櫻かな風身にしめばまづこぼれつつ
15 32
おなじくは月の折さけ山櫻花みるをりのたえまあらせじ
16 32
おぼつかな谷は櫻のいかならむ嶺にはいまだかけぬ白雲
17 33
いざ今年ちれと櫻をかたはらむ中々さらば風や惜しむと
18 33
吹く風のなべて梢にあたるかなかばかり人の惜しむ櫻を
19 33
吉野山さくらが枝に雪ちりて花おそげなる年にもあるかな
20 34
ちらばまたなげきやそはむ山櫻さかりになるはうれしけれども
21 34
山櫻かざしの花に折そへてかぎりの春のいへづとにせむ
22 35
よしの山高嶺の櫻さきそめばかからんものか花の薄雲
23 35
尋ね入る人には見せじ山櫻われとを花にあはむと思へば
24 35
山櫻さきぬと聞きて見にゆかむ人をあらそふ心とどめて
25 35
山ざくらほどなくみゆる匂ひかな盛を人にまたれまたれて
26 35
吉野山一むらみゆる白雲は咲きおくれたる櫻なるべし
27 36
年を經て待つと惜しむと山櫻心を春はつくすなりけり
28 36
吉野山谷へたなびく白雲は嶺の櫻の散るにやあるらむ
29 37
雪と見てかげに櫻の亂るれば花のかさ着る春の夜の月
30 37
よしの山櫻にまがふ白雲の散りなん後は晴れずもあらなむ
31 38
鶯の聲に櫻ぞちりまがふ花のこと葉を聞くここちして
32 38
山ざくら枝きる風の名殘なく花をさながらわが物にする
33 48
櫻ちるやどにかさなるあやめをば花あやめとやいふべかるらむ
34 97
山ざくら初雪ふれば咲きにけり芳のはさとに冬ごもれども
35 97
山櫻おもひよそへてながむれば木ごとの花は雪まさりけり
36 119
待ちきつるやかみの櫻咲きにけりあらくおろすなみすの山風
37 125
~風に心やすくぞまかせつる櫻の宮の花のさかりを
38 132
聞きもせずたはしね山の櫻ばな吉野の外にかかるべしとは
39 132
たぐひなき思ひいではの櫻かな薄紅の花のにほひは
40 146
つれもなき人にみせばや櫻花風にしたがふ心よわさを
41 172
春風の吹きおこせんに櫻花となりくるしくぬしや思はむ
42 209
櫻花ちりぢりになるこのもとに名殘を惜しむ鶯のこゑ
43 221
山櫻つぼみはじむる花の枝に春をばこめて霞むなりけり
44 227
遅ざくら見るべかりける契あれや花のさかりは過ぎにけれども
45 234
待たでただ尋ねを入らむ山ざくらさてこそ花に思ひしられめ
46 234
春は來て遅くさくらのこずゑかな雨の脚まつ花にやあるらむ
47 235
山ざくらかしらの花にをりそへてかぎりの春のいへづとにせむ
48 235
瀧にまがふ峯のさくらの花ざかりふもとは風になみたたみけり
49 236
花の火をさくらの枝にたきつけてけぶりになれるあさがすみかな
50 236
山ざくらさけばこそちるものは思へ花なき世にてなどなかりけむ
51 239
吉野山こずゑのそらのかすむにて櫻のえだも春知りぬらむ
52 243
鶯のなくねに春をつげられてさくらのえだやめぐみそむらむ
53 244
さかりなるこの山ざくら思ひおきていづち心のまたうかるらむ
54 247
山ざくらちらぬまでこそ惜しみつれふもとへ流せたにがはの水
55 249
山ざくら吉野まうでの花しねをたづねむ人のかてにつつまむ
56 249
山ざくらまた來むとしの春のため枝をることはたれもあなかむ
57 272
待たれつる吉野のさくらさきにけりこころを散らす春の山かぜ
58 272
白河の關路の櫻さきにけりあづまより來る人のまれなる
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花 (櫻にかかる「花」のある歌)
1 25
春といへば誰も吉野の花を思ふ心にふかきゆゑやあるらむ
2 25
今さらに春を忘るる花もあらじやすく待ちつつ今日も暮らさむ
3 25
おぼつかないづれの山の峯よりか待たるる花の咲きはじむらむ
4 25
空晴るる雲なりけりな吉野山花もてわたる風と見たれば
5 25
さらにまた霞にくるる山路かな花をたづぬる春のあけぼの
6 25
雲もかかれ花とを春は見て過ぎむいづれの山もあだに思はで
7 26
雲かかる山とは我も思ひ出でよ花ゆゑ馴れしむつび忘れず
8 26
誰かまた花を尋ねてよしの山苔ふみわくる岩つたふらむ
9 26
わきて見む老木は花もあはれなり今いくたびか春にあふべき
10 26
老づとに何をせかまし此春の花待ちつけぬわが身なりせば
11 26
おのづから花なき年の春もあらば何につけてか日をくらさまし
12 26
見る人に花も昔を思ひ出でて戀しかるべし雨にしをるる
13 27
あだに散る梢の花をながむれば庭には消えぬ雪ぞつもれる
14 27
風あらみこずゑの花のながれきて庭に波立つしら川の里
15 28
よしの山ほき路づたひに尋ね入りて花見みし春は一むかしかも
16 28
年を經ておなじ梢に匂へども花こそ人にあかれざりけれ
17 28
雲にまがふ花の下にてながむれば朧に月は見ゆるなりけり
18 28
花の色や聲に染むらむ鶯のなく音ことなる春のあけぼの
19 29
紅葉みし高野の峯の花ざかりたのめし人の待たるるやなぞ
20 29
ちらでまてと都の花をおもはまし春かへるべきわが身なりせば
21 29
花もちり人もこざらむ折は又山のかひにてのどかなるべし
22 30
花を見し昔の心あらためて吉野の里にすまむとぞ思ふ
23 30
空に出でていづくともなく尋ぬれば雪とは花の見ゆるなりけり
24 30
雪とぢし谷の古巣を思ひ出でて花にむつるる鶯の聲
25 30
よしの山雲をはかりに尋ね入りて心にかけし花を見るかな
26 30
おもひやる心や花にゆかざらむ霞こめたるみよしのの山
27 30
おしなべて花の盛に成にけり山の端ごとにかかる白雲
28 30
まがふ色に花咲きぬればよしの山春は晴れせぬ嶺の白雲
29 30
吉野山梢の花を見し日より心は身にも添はずなりにき
30 30
花みればそのいはれとはなけれども心のうちぞ苦しかりける
31 284
風かをる花の林に春來ればつもるつとめや雪の山みち
32 31
ひきかへて花見る春は夜はなく月みる秋は晝なかるらむ
33 31
花ちらで月はくもらぬ世なりせば物を思はぬわが身ならまし
34 31
身を分けて見ぬ梢なくつくさばやよろづの山の花の盛を
35 31
花にそむ心のいかで殘りけむ捨てはててきと思ふわが身に
36 31
白河の春の梢のうぐひすは花の言葉を聞くここちする
37 31
ねがはくは花の下にて春死なんそのきさらぎのもち月の頃
38 31
思ひやる高嶺の雲の花ならばちらぬ七日は晴れじとぞ思ふ
39 31
のどかなる心をきへに過しつつ花ゆゑにこそ春を待ちしか
40 31
かざこしの嶺のつづきに咲く花はいつ盛ともなくや散るらむ
41 32
すそ野やく烟ぞ春は吉野山花をへだつるかすみなりける
42 32
今よりは花見む人に傳へおかむ世をのがれつつ山に住まむと
43 32
吉野山やがて出でじと思ふ身を花ちりなばと人や待つらむ
44 32
人もこず心もちらで山里は花をみるにもたよりありけり
45 32
よしの山人に心をつけがほに花よりさきにかかる白雲
46 32
山寒み花咲くべくもなかりけりあまりかねても尋ね來にけり
47 32
かたばかりつぼむと花を思ふよりそらまた心ものになるらむ
48 32
花ときくは誰もさこそは嬉しけれ思ひしづめぬわが心かな
49 33
初花のひらけはじむる梢よりそばえて風のわたるなるかな
50 33
おぼつかな春は心の花にのみいづれの年かうかれそめけむ
51 33
風ふくと枝をはなれておつまじく花とぢつけよ青柳の糸
52 33
なにとなくあだなる花の色をしも心にふかく染めはじめけむ
53 33
同じ身の珍らしからず惜しめばや花もかはらず咲きは散るらむ
54 33
嶺にちる花は谷なる木にぞ咲くいたくいとはじ春の山風
55 33
山おろしに亂れて花の散りけるを岩はなれたる瀧とみたれば
56 33
花もちり人も都へ歸りなば山さびしくやならむとすらむ
57 33
君こずば霞に今日も暮れなまし花待ちかぬる物がたりせで
58 33
吉野山こぞのしをりの道かへてまだ見ぬかたの花を尋ねむ
59 34
さきやらぬものゆゑかねて物ぞ思ふ花に心の絶えぬならひに
60 34
花を待つ心こそなほ昔なれ春にはうとくなりにしものを
61 34
さきそむる花を一枝まづ折りて昔の人のためと思はむ
62 34
あはれわれおほくの春の花を見てそめおく心誰にゆづらむ
63 34
春をへて花のさかりにあひきつつ思ひ出おほき我が身なりけり
64 34
ちらぬまはさかりに人もかよひつつ花に春あるみよしのの山
65 34
よしの山花をのどかに見ましやはうきがうれしき我が身なりけり
66 34
山路わけ花をたづねて日は暮れぬ宿かし鳥の聲もかすみて
67 34
谷風の花の波をし吹きこせばゐせぎにたてる嶺のむら松
68 34
今の我も昔の人も花みてん心の色はかはらじものを
69 34
花いかに我をあはれと思ふらむ見て過ぎにける春をかぞへて
70 35
吉野山花の散りにし木のもとにとめし心は我を待つらむ
71 35
人はみな吉野の山へ入りぬめり都の花にわれはとまらむ
72 35
花の雪の庭につもると跡つけじかどなき宿といひちらさせて
73 35
ながめつるあしたの雨の庭の面に花の雪しく春の夕暮
74 35
吉野山ふもとの瀧にながす花や嶺につもりし雪の下水
75 35
ねにかへる花をおくりて吉野山夏のさかひに入りて出でぬる
76 35
勅とかやくだす御門のいませかしさらば恐れて花やちらぬと
77 36
波もなく風ををさめし白川の君のをりもや花は散りけむ
78 36
いかでわれ此世の外の思ひ出に風をいとはで花をながめむ
79 36
山おろしの木のもとうづむ花の雪は岩井にうくも氷とぞみる
80 36
春風の花のふぶきにうづもれて行きもやられぬ志賀の山道
81 36
たちまがふ嶺の雲をば拂ふとも花をちらさぬ嵐なりせば
82 36
よしの山花ふき具して峯こゆる嵐は雲とよそに見ゆらむ
83 36
惜しまれぬ身だにも世にはあるものをあなあやにくの花の心や
84 36
うき世にはとどめおかじと春風のちらすは花を惜しむなりけり
85 36
もろともに我をも具してちりね花うき世をいとふ心ある身ぞ
86 36
思へただ花のなからむ木のもとに何をかげにて我身住みなむ
87 36
ながむとて花にもいたく馴れぬれば散る別こそ悲しかりけれ
88 36
惜しめばと思ひげもなくあだにちる花は心ぞかしこかりける
89 37
梢ふく風の心はいかがせんしたがふ花のうらめしきかな
90 37
いかでかは散らであれとも思ふべき暫しと慕ふなさけ知れ花
91 37
木のもとの花に今宵は埋もれてあかぬ梢を思ひあかさむ
92 37
このもとの旅寐をすれば吉野山花のふすまを着する春風
93 37
ちる花を惜しむ心やとどまりて又こむ春の誰になるべき
94 37
春ふかみ枝もうごかでちる花は風のとがにはあらぬなるべし
95 37
あながちに庭をさへ吹く嵐かなさこそ心に花をまかせめ
96 37
あだにちるさこそ梢の花ならめすこしはのこせ春の山風
97 37
心えつただ一すぢに今よりは花を惜しまで風をいとはむ
98 37
花と見ばさすがなさけをかけましを雲とて風の拂ふなるべし
99 37
風さそふ花の行方は知らねども惜しむ心は身にとまりけり
100 37
花ざかり梢をさそふ風ならでのどかに散らむ春はあらばや
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101 38
風にちる花の行方は知らねども惜しむ心は身にとまりけり
102 38
世の中をおもへばなべて散る花の我身をさてもいづちかもせむ
103 38
風もよし花をもちらせいかがせむ思ひはつればあらまうき世ぞ
104 38
花もちり涙ももろき春なれや又やはとおもふ夕暮の空
105 38
花さへに世をうき草になしにけりちるを惜しめばさそふ山水
106 38
梢うつ雨にしをれてちる花の惜しき心を何にたとへむ
107 38
ちりそむる花の初雪ふりぬればふみ分けまうき志賀の山
108 38
春風の花をちらすと見る夢は覺めても胸のさわぐなりけり
109 39
青葉さへみれば心のとまるかな散りにし花の名殘と思へば
110 39
吹みだる風になびくと見しほどに花ぞ結べる青柳の糸
111 39
ちるとみれば又咲く花の匂ひにもおくれさきだつためしありけり
112 41
春くれて人ちりぬめり芳野山花のわかれを思ふのみかは
113 42
限あれば衣ばかりをぬぎかへて心は花をしたふなりけり
114 42
草しげる道かりあけて山ざとに花みし人の心をぞみる
115 44
時鳥きく折にこそ夏山の青葉は花におとらざりけり
116 45
時鳥きかぬものゆゑまよはまし花を尋ねぬ山路なりせば
117 45
なかん聲や散りぬる花の名殘なるやがて待たるる時鳥かな
118 48
ちる花を今日の菖蒲のねにかけてくすだまともやいふべかるらむ
119 88
さまざまに錦ありけるみ山かな花見し嶺を時雨そめつつ(寂蓮)
120 92
もみぢちる野原を分けて行く人は花ならぬまで錦きるべし
121 95
花におく露にやどりし影よりも枯野の月はあはれなりけり
122 96
ただは落ちで枝をつたへる霞かなつぼめる花の散るここちして
123 100
盛ならぬ木もなく花の咲きにけり思へば雪をわくる山道
124 101
花もかれもみぢも散らぬ山里はさびしさを又とふ人もがな
125 102
よしの山麓にふらぬ雪ならば花かと見てや尋ね入らまし
126 106
此春は君に別のをしきかな花のゆくへは思ひわすれて
127 112
花とみる梢の雪に月さえてたとへむ方もなき心地する
128 123
あはれとも花みし嶺に名をとめて紅葉ぞ今日はともに散りける
129 132
奥に猶人みぬ花の散らぬあれや尋ねを入らむ山ほととぎす
130 132
ながむるに花の名だての身ならずばこのもとにてや春を暮らさむ
131 139
ちる花のいほりの上を吹くならば風入るまじくめぐりかこはむ
132 146
花をみる心はよそにへだたりて身につきたるは君がおもかげ
133 147
葉がくれに散りとどまれる花のみぞ忍びし人にあふここちする
134 189
山人よ吉野の奥にしるべせよ花も尋ねむ又思ひあり
135 201
尋ぬとも風のつてにもきかじかし花と散りにし君が行方を
136 216
此春はえだえだごとにさかゆべし枯たる木だに花は咲くめり
133 219
散りしきし花の匂ひの名殘多みたたまうかりし法の庭かな
138 226
吉野山うれしかりけるしるべかなさらでは奥の花を見ましや
139 229
花をわくる峯の朝日のかげはやがて有明の月をみがくなりけり
140 231
花のいろに心をそめぬこの春やまことの法の果はむすぶべき
141 234
雪にまがふ花のさかりを思はせてかつがつかすむみよし野の山
142 234
君來ずば霞にけふも暮れなまし花まちかぬるものがたりせで
143 234
花を見てなごりくれぬる木のもとは散らぬさきにとたのめてぞたつ
144 234
花と見えて風にをられてちる波のさくら貝をばよするなりけり
145 235
ながむながむ散りなむことを君もおもへ黒髪山に花さきにけり
146 235
散りまさむかたをやぬしに定むべきみねをかぎれる花のむらだち
147 235
これや聞く雲の林の寺ならむ花をたづぬるこころやすめむ
148 235
花のいろの雪のみ山にかよへばや深きよし野の奥へいらるる
149 235
花さへに世をうき草になりにけり散るを惜しめばさそふ山水
150 235
花の色にかしらの髪しさきぬれば身は老木にぞなりはてにける
151 236
つれなきを花によそへて猶ぞまつさかでしもさてやまじと思へば
152 236
命をしむ人やこの世になからまし花にかはりて散る身と思はば
153 243
山人に花さきぬやとたづぬればいさしら雲とこたへてぞゆく
154 243
かすみしく吉野の里にすむ人はみねの花にやこころかくらむ
155 244
花よりはいのちをぞ猶をしむべき待ちつくべしと思ひやはせし
156 244
春ごとの花にこころをなぐさめて六十あまりのとしをへにける
157 244
ひとときに遅れさきだつこともなく木毎に花のさかりなるかな
158 244
吉野山雲と見えつる花なればちるも雪にはまがふなりけり
159 244
よしのやま雲もかからぬ高嶺かなさこそは花のねにかへりなめ
160 244
水上に花のゆふだちふりにけり吉野の川のなみのまされる
161 247
誰ならむ吉野の山のはつ花をわがものがほに折りてかへれる
162 249
とき花や人よりさきにたづぬると吉野にゆきて山まつりせむ
163 249
谷のまも峯のつづきも吉野山はなゆゑ踏まぬ岩根あらじを
164 249
いまもなしむかしも聞かずしきしまや吉野の花を雪のうづめる
165 249
くれなゐの雪はむかしのことと聞くに花のにほひにみつる春かな
166 249
花ざかり人も漕ぎ來ぬ深きたにに波をぞたつるはるの山かぜ
167 249
おもひいでに花の波にもながればや峯のしら雲瀧くだすめり
168 249
ときはなる花もやあると吉野山おくなく入りてなほたづねみむ
169 250
吉野山おくをもわれぞ知りぬべき花ゆゑふかく入りならひつつ
170 258
吉野山こぞのしをりの道かへてまだ見ぬかたの花をたづねむ
171 258
月はみやこ花のにほひは越の山とおもふよ雁のゆきかへりつつ
172 258
花ちりて雲はれぬれば吉野山こずゑのそらはみどりにぞなる
173 258
花ちりぬやがてたづねむほととぎす春をかぎらじみ吉野の山
174 259
比良の山春も消えせぬ雪とてや花をも人のたづねざるらむ
175 262
春雨に花のみぞれの散りけるを消えでつもれる雪とみたれば
176 271
いかでわれ常世の花のさかり見てことわりしらむ歸るかりがね
177 272
深く入ると花のさきなむをりこそあれともに尋ねむ山人もがな
178 272
思ひかえすさとりや今日はなからまし花にそめおく色なかりせば
179 272
なべてならぬ四方の山べの花はみな吉野よりこそ種は散りけめ
180 272
うぐひすの聲を山路のしるべにて花みてつたふ岩のかけ徑
181 272
風吹けば花の白波岩こえてわたりわづらふ山がはのみづ
182 272
いにしへの人の心のなさけをば老木の花のこずゑにぞ知る
183 272
あかつきと思はまほしき聲なれや花にくれぬるいりあひの鐘
184 272
花はいかに吾をあはれと思ふらむ見て過ぎにける春かぞへても
185 272
さかぬまの花には雲のまがふとも雲とは花の見えずもあらなむ
186 272
吉野山かぜこすくきにさく花はいつさかりともなくや散るらむ
187 273
惜しむ人のこころをさへにちらすかな花をさそへる春の山かぜ
188 273
ありとてもいでやさこそはあらめとて花ぞうき世を思ひしりぬる
189 278
花を惜しむ心のいろのにほひをば子をおもふ親の袖にかさねむ
190 279
この春は花を惜しまでよそならむこころを風の宮にまかせて
191 280
~路山みしめにこもる花ざかりこらいかばかり嬉しかるらむ
192 280
和らぐる光を花にかざされて名をあらはせるさきたまの宮
193 282
春秋を君おもひ出ば我はまた月と花とをながめおこさむ
194 283
ときはなるみ山に深く入りにしを花さきなばと思ひけるかな
「他者詠歌」
26
おのづから來る人あらばもろともにながめまほしき山櫻かな(としただ)
27
いにしへを忍ぶる雨と誰か見む花もその世の友しなければ(兵衛の局)
29
ともに見し峯の紅葉のかひなれや花の折にもおもひ出ける(寂然)
88
さまざまに錦ありけるみ山かな花見し嶺を時雨そめつつ(寂蓮)
106
君がいなんかたみにすべき櫻さへ名殘あらせず風さそふなり(女房六角局)
201
吹く風の行方しらするものならば花とちるにもおくれざらまし「堀川」
209
ちる花は又こん春も咲きぬべし別はいつかめぐりあふべき(少将ながのり)
「連歌」
259 あづさ弓はるのまとゐに花ぞみる
やさしことになほひかれつつ
以上
■ 入力 2002年01月27日
■ 入力者 阿部和雄
■ 校正 未校正
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