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   山家集の研究       (佐佐木信綱校訂・岩波文庫・山家集から)

  紅葉の歌      (紅葉・もみじ・紅・くれない・錦・にしき)

 紅葉

 1  29 
       紅葉みし高野の峯の花ざかりたのめし人の待たるるやなど
 2  74
      木の間もる有明の月のさやけきに紅葉をそへて詠めつるかな
 3  87
      いつよはる紅葉の色は染むべきと時雨にくもる空にとはばや
 4  89
      暮れ果つる秋のかたみにしばし見む紅葉散らすなこがらしの風
 5  90
      よもすがらをしげなく吹く嵐かなわざと時雨の染むる紅葉
 6  91
      こがらしに峯の紅葉やたぐふらむ村濃に見ゆる瀧の白糸
 7  92
      紅葉よるあじろの布の色染めてひをくるるとは見ゆるなりけり
 8 101
      雪深くうづめてけりな君くやと紅葉の錦しきし山路を
 9 123 
      あはれとも花みし嶺に名をとめて紅葉ぞ今日はともに散りける
10 126
      浪にしく紅葉の色をあらふゆゑにの嶋といふにやあるらむ
11 130

      ときはなる松の緑も~さびて紅葉ぞ秋はあけの玉垣
12 130
      ふままうき紅葉散りしきて人も通はぬおもはくの橋
13 130
      なとり川きしの紅葉のうつる影は同じを底にさへ敷く
14 147
      わが涙しぐれの雨にたぐへばや紅葉の色の袖にまがへる
15 194
      いにしへをこふる涙の色に似て袂にちるは紅葉なりけり
16 194 
      紅葉見て君がたもとやしぐるらむ昔の秋の色をしたひて
17 276

      名におひて紅葉の色の深き山を心にそむる秋にもあるかな


  もみぢ
  
 1  88
      染めてけりもみぢの色のくれなゐをしぐると見えしみ山べの里
 2  88
      もみぢ葉の散らで時雨の日數へばいかばかりなる色かあらまし
 3  88 
      思はずよよしある賎のすみかかな蔦のもみぢを軒にははせて
 4  92
      もみぢちる野原を分けて行く人は花ならぬまできるべし
 5 101 
      花もかれもみぢも散らぬ山里はさびしさを又とふ人もがな
 6 105
      心をば深きもみぢの色にそめて別れて行くやちるになるらむ
  
  紅・くれない

 1  53 
      くれなゐの色なりながら蓼の穂のからしや人のめにもたてぬは  
 2  88
      染めてけりもみぢの色のくれなゐをしぐると見えしみ山べの里
 3  92
      立田姫染めし梢のちるをりはくれなゐあらふ山川のみづ
 4 104 
      山里に家ゐをせずば見ましやはふかき秋のこずゑを
 5 154  
      くれなゐの色に袂のしぐれつつ袖に秋あるここちこそすれ
 6 161
      くれなゐにあらぬ袂のこき色はこがれてものを思ふ涙か
 7 164
      のよそなる色は知られねばふでにこそまづ染め初めけれ
 8 172
      の色こきむめを折る人の袖にはふかき香やとまるらむ
 9 242
      ふりほして袖のいろにはいでましやくれなゐ深き涙ならずば
10 249
      くれなゐの雪はむかしのことと聞くに花のにほひにみつる春かな
10 276
      くれなゐの木の葉の色をおろしつつあくまで人に見する山風

  錦・にしき 

 1  87
      いとと山時雨に色を染めさせてかつがつ織れるなりけり
 2  88
      はる秋の梢をみせぬかな隔つる霧のやどをつくりて
 3  88
      さまざまにありけるみ山かな花見し嶺を時雨そめつつ
 4  88
      しぐれそむる花ぞの山に秋くれての色もあらたむるかな
 5  89
      をぐら山麓に秋の色はあれや梢のにしき風にたたれて
 6  89
      をばいくのへこゆるからびつに収めて秋は行くにかあるらむ
 7  276
      瀬にたたむ岩のしがらみ波かけてにしきをながす山がはの水
  
  他者詠歌

    29  ともに見し嶺の紅葉のかひなれや花の折にもおもひ出ける(寂然)

                 以上
 
■  入力    2002年02月10日
■  入力者   阿部和雄
■  校正    未校正

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