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         山家集の研究    (佐佐木信綱校訂、岩波文庫・山家集から)
   
   更新 2021年06月01日

     鹿 (鹿・しか・じか・すがる・かせぎ)

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岩波文庫西行全歌集から 西行詠32首・存疑歌1首、他者詠2首

0236 夏野草

01 みまくさに原のをすゝきしがふとて臥し処あせぬと鹿思ふらん

0239 照射

02 ともしする火串の松もかへなくに鹿目合はせで明かす夏の夜

0266 草花得時と云事を

03 糸すゝき縫はれて鹿の臥す野辺にほころびやすき藤袴哉

0287 荻風払露

04 牡鹿臥す萩咲く野辺の夕露をしばしもためぬ荻の上風

0300

05 晴れやらぬ深山の霧のたえだえにほのかに鹿の声聞ゆなり

0302

06 鹿の音を垣根にこめて聞くのみか月も澄みけり秋の山里

0397 月前鹿

07 たぐひなき心地こそすれ秋の夜の月澄む峰のさを鹿の声

0429 鹿

08 しだり咲く萩の古枝に風かけてすがひすがひに牡鹿鳴くなり

0430

09 萩が枝の露ためず吹く秋風に牡鹿鳴くなり宮城野の原

0431

10 夜もすがら妻恋ひかねて鳴く鹿の涙や野辺の露と成らん

0432

11 さらぬだに秋はもののみかなしきを涙もよほす小牡鹿の声

0433

12 山おろしに鹿の音たぐふ夕暮にものがなしとはいふにや有らん

0434 

13 鹿もわぶ空のけしきもしぐるめりかなしかれともなれる秋哉

0435

14 何となく住ままほしくぞ思ほゆるしかあはれなる秋の山里

0436 小倉の麓に住み侍けるに、鹿の鳴きけるを聞きて

15 牡鹿鳴く小倉の山の裾近みたゞひとり住む我心かな

0437 暁鹿

16 夜を残す寝覚めに聞ぞあはれなる夢野の鹿もかくや鳴くらん

0438 夕聞鹿

17 篠原や霧にまがひて鳴く鹿の声かすかなる秋の夕暮

0439 幽居聞鹿

18 隣ゐぬ原の仮屋に明かす夜はしかあはれなるものにぞ有ける

0440 田庵鹿

19 小山田の庵近く鳴く鹿の音におどろかされておどろかす哉

0441 人を尋て小野にまかりたりけるに、鹿の鳴きければ

20 鹿の音を聞くにつけても住む人の心知らるゝ小野の山里

0533 雪に庵うづもれて、せんかたなく面白かりけり。今も來らばと
   よみけむことを思ひ出て見けるほどに、鹿の分けて通りけるを見て

21 人こばと思ひて雪をみる程にしか跡つくることもありけり

0602 寄鹿恋

22 妻恋ひて人目包まぬ鹿の音をうらやむ袖のみさをなるかは

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(すがる・かせぎ)

1013
23 すがる伏す木ぐれが下の葛巻を吹裏返す秋の初風

1149
24 あはれなりよもよも知らぬ野の末にかせぎを友に馴るゝすみかは

1207
25 山ふかみなるるかせぎのけぢかきに世に遠ざかる程ぞ知らるゝ
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西行上人集

(西行上人集003)
26 われ泣きてしか秋なりと思ひけり春をもさてや鶯ぞ知る

(西行上人集064)
27 三笠山月さしのぼる影さえて鹿鳴きそむる春日野の原

(西行上人集065)
28 かねてより心ぞいとゞ澄みのぼる月待つ嶺のさを鹿の声

(西行上人集066・宮河歌合36)
29 小倉山ふもとをこむる秋霧に立ちもらさるゝ棹鹿の声

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その他

(聞書集89)
30 秋の夜の月の光の影更けて裾野の原に牡鹿鳴くなり

(聞書集94・宮河35)
31 山ざとはあはれなりやと人とはば鹿の鳴くねを聞けとこたへむ

1160 歌し返

32 鹿の立つ野辺の錦の切り端は残り多かる心地こそすれ

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贈答歌(他者詠と存疑歌)

1159 忍西入道、吉野山の麓に住みける、秋の花いかにおも
   しろかるらんとゆかしうと申つかはしたりける返事
   に、色々の花を折り集めて

◎ 鹿の音や心ならねばとまるらんさらでは野辺をみな見する哉

1217 (寂然法師歌)

◎もろともに秋も山路も深ければしかぞかなしき大原の里

神祇100首(全歌集なし)存疑歌

  内宮のかたはらなる山陰に、庵むすびて侍りける頃

33 ここも又都のたつみしかぞすむ山こそかはれ名は宇治の里

以上西行詠31首・他者詠2首・存疑歌1首

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 佐佐木信綱博士校訂 岩波文庫山家集から

  1  52
      ともしするほぐしの松もかへなくに
しかめあはせで明す夏の夜

  2  52
      みまくさに原の小薄しがふとてふしどあせぬと
しか思ふらむ

  3  56 
      
すがるふすこぐれが下の葛まきを吹きうらがへす秋の初風  (注)

  4  57  
      を
じか伏す萩咲く野邊の夕露をしばしもためぬ萩の上風

  5  60 
      糸すすきぬはれて
鹿の伏す野べにほころびやすき藤袴かな

  6  61
     
 鹿の立つ野邊の錦のきりはしは殘り多かる心地こそすれ

  7  62
      晴れやらぬみ山の霧の絶えだえにほのかに
鹿の聲きこゆなり

  8  62
      
鹿の音をかき根にこめて聞くのみか月もすみけり秋の山里

  9  67
      夜を殘す寝ざめに聞くぞあはれなる夢野の
鹿もかくや鳴きけむ

 10  68
      篠原や霧にまがひて鳴く
鹿の聲かすかなる秋の夕ぐれ

 11  68
      小山田の庵近く鳴く
鹿の音におどろかされておどろかすかな

 12  68
      隣ゐぬ畑の假屋に明かす夜は
しか哀なるものにぞありける

 13  68
      
鹿の音を聞くにつけても住む人の心しらるる小野の山里

 14  68
      
をじか鳴く小倉の山の裙ちかみただひとりすむ我が心かな

 15  68
      しだり咲く萩のふる枝に風かけてすがひすがひにを
鹿なくなり

 16  68
      萩が枝の露ためず吹く秋風に
をじか鳴くなり宮城野の原

 17  68
      よもすがら妻こひかねて鳴く
鹿の涙や野邊のつゆとなるらむ

 18  69
      さらぬだに秋は物のみかなしきを涙もよほすさを
しかの聲

 19  69
      山おろしに
鹿の音たぐふ夕暮を物がなしとはいふにやあるらむ

 20  69
      
しかもわぶ空のけしきもしぐるめり悲しかれともなれる秋かな

 21  69
      何となく住ままほしくぞおもほゆる
鹿のね絶えぬ秋の山里

 22  74
      たぐひなき心地こそすれ秋の夜の月すむ嶺のさを
鹿の聲

 23  101
     人こばと思ひて雪をみる程に
しか跡つくることもありけり

 24  125
     ここも又都のたつみ
しかぞすむ山こそかはれ名は宇治の里

 25  138
     山ふかみなるる
かせぎのけぢかきに世に遠ざかる程ぞ知らる
     
 26  147
     つま戀ひて人目つつまぬ
鹿の音をうらやむ袖のみさをなるかな

 27  197
     あはれなりよりより知らぬ野の末に
かせぎを友になるるすみかは

 28  238
     秋の夜の月の光のかげふけてすそ野の原に
をじか鳴くなり

 29  238
     山ざとはあはれなりやと人とはば
鹿の鳴くねを聞けとこたへむ

 30  271 
     われ鳴きて
しか秋なりと思ひけり春をもさてやうぐひすの聲 

 31  275
     三笠山月さしのぼるかげさえて
鹿なきそむる春日野の原

 32  276
     かねてより心ぞいとどすみのぼる月待つ峰のさを
鹿の聲

 33  276
     をぐら山ふもとをこむる秋霧にたちもらさるるさを
鹿の聲

   他者詠歌


  60 
鹿の音や心ならねばとまるらんさらでは野邊をみな見するかな
                                      (忍西入道)
 
  139 もろともに秋も山路も深ければしかぞかなしき大原の里  
                                      (寂然)

 (注)2番56ページ歌の「すがる」は蜂の古名です。ですが、蜂が伏すとはあまりにも
    実際的ではありません。したがってここでは、新潮日本古典集成の後藤重郎氏の
    「すがる」は「鹿」という説に従います。
■ 入力   2002年02月08日
■ 入力者  阿部和雄
■ 校正   未校正 


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