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         山家集の研究    (佐佐木信綱校訂、岩波文庫・山家集から)


     鹿 (鹿・しか・じか・すがる・かせぎ)

  1  52
      ともしするほぐしの松もかへなくに
しかめあはせで明す夏の夜

  2  52
      みまくさに原の小薄しがふとてふしどあせぬと
しか思ふらむ

  3  56 
      
すがるふすこぐれが下の葛まきを吹きうらがへす秋の初風  (注)

  4  57  
      を
じか伏す萩咲く野邊の夕露をしばしもためぬ萩の上風

  5  60 
      糸すすきぬはれて
鹿の伏す野べにほころびやすき藤袴かな

  6  61
     
 鹿の立つ野邊の錦のきりはしは殘り多かる心地こそすれ

  7  62
      晴れやらぬみ山の霧の絶えだえにほのかに
鹿の聲きこゆなり

  8  62
      
鹿の音をかき根にこめて聞くのみか月もすみけり秋の山里

  9  67
      夜を殘す寝ざめに聞くぞあはれなる夢野の
鹿もかくや鳴きけむ

 10  68
      篠原や霧にまがひて鳴く
鹿の聲かすかなる秋の夕ぐれ

 11  68
      小山田の庵近く鳴く
鹿の音におどろかされておどろかすかな

 12  68
      隣ゐぬ畑の假屋に明かす夜は
しか哀なるものにぞありける

 13  68
      
鹿の音を聞くにつけても住む人の心しらるる小野の山里

 14  68
      
をじか鳴く小倉の山の裙ちかみただひとりすむ我が心かな

 15  68
      しだり咲く萩のふる枝に風かけてすがひすがひにを
鹿なくなり

 16  68
      萩が枝の露ためず吹く秋風に
をじか鳴くなり宮城野の原

 17  68
      よもすがら妻こひかねて鳴く
鹿の涙や野邊のつゆとなるらむ

 18  69
      さらぬだに秋は物のみかなしきを涙もよほすさを
しかの聲

 19  69
      山おろしに
鹿の音たぐふ夕暮を物がなしとはいふにやあるらむ

 20  69
      
しかもわぶ空のけしきもしぐるめり悲しかれともなれる秋かな

 21  69
      何となく住ままほしくぞおもほゆる
鹿のね絶えぬ秋の山里

 22  74
      たぐひなき心地こそすれ秋の夜の月すむ嶺のさを
鹿の聲

 23  101
     人こばと思ひて雪をみる程に
しか跡つくることもありけり

 24  125
     ここも又都のたつみ
しかぞすむ山こそかはれ名は宇治の里

 25  138
     山ふかみなるる
かせぎのけぢかきに世に遠ざかる程ぞ知らる
     
 26  147
     つま戀ひて人目つつまぬ
鹿の音をうらやむ袖のみさをなるかな

 27  197
     あはれなりよりより知らぬ野の末に
かせぎを友になるるすみかは

 28  238
     秋の夜の月の光のかげふけてすそ野の原に
をじか鳴くなり

 29  238
     山ざとはあはれなりやと人とはば
鹿の鳴くねを聞けとこたへむ

 30  271 
     われ鳴きて
しか秋なりと思ひけり春をもさてやうぐひすの聲 

 31  275
     三笠山月さしのぼるかげさえて
鹿なきそむる春日野の原

 32  276
     かねてより心ぞいとどすみのぼる月待つ峰のさを
鹿の聲

 33  276
     をぐら山ふもとをこむる秋霧にたちもらさるるさを
鹿の聲

   他者詠歌


  60 
鹿の音や心ならねばとまるらんさらでは野邊をみな見するかな
                                      (忍西入道)
 
  139 もろともに秋も山路も深ければしかぞかなしき大原の里  
                                      (寂然)

 (注)2番56ページ歌の「すがる」は蜂の古名です。ですが、蜂が伏すとはあまりにも
    実際的ではありません。したがってここでは、新潮日本古典集成の後藤重郎氏の
    「すがる」は「鹿」という説に従います。
■ 入力   2002年02月08日
■ 入力者  阿部和雄
■ 校正   未校正 


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