山家集の研究 (佐佐木信綱校訂・岩波文庫・山家集から)
その他の鳥の歌
きぎす (きじの古語)
1 24
もえ出づる若菜あさるときこゆなりきぎす鳴く野の春の曙
2 24
生ひかはる春の若草まちわびて原の枯野にきぎす鳴くなり
3 24
片岡にしばうつりして鳴くきぎす立羽おとしてたかからぬかは
4 24
春霞いづち立ち出て行きにけむきぎす棲む野を焼きてけるかな
5 102
かきくらす雪にきぎすは見えねども忠ケに鈴をたぐへてぞやる
6 271
枯野うづむ雪に心をまかすればあたりの原にきぎす鳴くなり
鶴・たづ たづ(鶴の異称)
1 142
むれ立ちて雲井にたづの聲すなり君が千年や空にみゆらむ
2 142
澤べより巣立ちはじむる鶴の子は松の枝にやうつりそむらむ
3 167
みな鶴は澤の氷のかがみにて千年の影をもてやなすらむ
4 171
澤の面にふせたるたづの一聲におどろかされてちどり鳴くなり
5 185
夜の鶴の都のうちを出でであれなこのおもひにはまどはざらまし 註2
鴛鴦 (おしどり)
1 148
我が袖の涙かかるとぬれであれなうらやましきは池のをし鳥
2 167
つがはねどうつれる影を友として鴛住みけりな山川の水
3 277
山川にひとりはなれて住む鷺鴛のこころしらるる波の上かな
鷹 (たか)
1 102
あはせたる木ゐのはし鷹をきとらし犬かひ人の聲しきるなり
2 127
はし鷹のすずろかさでもふるさせてすゑたる人のありがたの世や
3 127
すたか渡るいらごが崎をうたがひてなほきにかくる山歸りかな
鷺 (さぎ)
1 108
庭よりも鷺居る松のこずゑにぞ雪はつもれる夏のよの月
2 126
あはせばやさぎを烏と碁をうたばたふしすがしま黒白のM
3 167
をりかくる波のたつかと見ゆるかな洲さきにきゐる鷺のむら鳥
水鶏 (くいな)
1 50
杣人の暮にやどかる心地していほりをたたく水鶏なりけり
2 260
竹の戸を夜ごとにたたく水鶏かなふしながら聞く人をいさめて
3 273
夜もすがらささで人待つ槇の戸をなぞしもたたく水鶏なるらむ
鴫 (しぎ)
1 67
心なき身にもあはれは知られけり鴫たつ澤の秋の夕ぐれ
2 158
草しげみ澤にぬはれてふす鴫のいかによそだつ人の心ぞ
雲雀 (ひばり)
1 52
雲雀あがるおほ野の茅原夏くれば涼む木かげをねがひてぞ行く
2 216
雲雀たつあら野におふる姫ゆりのなににつくともなき心かな
鶉 (うづら)
1 69
鶉なく折にしなれば霧こめてあはれさびしき深草の里
2 82
うづらふす苅田のひつぢ思ひ出でてほのかにてらす三日月の影
鳩 (はと)
1 167
夕されやひはらの嶺を越え行けば凄くきこゆる山鳩の聲
2 167
ふる畑のそばのたつ木にをる鳩の友よぶ聲の凄き夕暮
ぬえ 「トラツグミの異称の説あり」
1 192
さらぬだに世のはかなきを思ふ身にぬえ鳴き渡る明ぼのの空 註3
雀
1 98
雪埋むそのの呉竹折れふしてねぐら求むるむら雀かな
みさご 「鷲鷹目の鳥、海辺に住む」
1 168
あら磯の波にそなれてはふ松はみさごのゐるぞ便なりける
鳰 (にお) 「かいつぶりの古語」
1 278
鳰てるややなぎたる朝に見渡せばこぎゆくあとの波だにもなし
かささぎ 「燕雀目の鳥の一類」
1 57
ささがにのくもでにかけて引く糸やけふ棚機にかささぎの橋
烏 (からす)
1 126
あはせばやさぎを烏と碁をうたばたふしすがしま黒白のM
鴨 (かも) 味は鴨のこと
1 110
しきわたす月の氷をうたがひてひびのてまはる味のむら鳥
ふくろう
1 138
山ふかみけぢかき鳥のおとはせでもの恐しきふくろふの聲
水こひ鳥 「カワセミの例えの説があります」
1 167
山ざとは谷のかけひのたえだえに水こひ鳥の聲きこゆなり
ひわ 「燕雀目の小鳥の一類」
1 167
聲せずと色こくなると思はまし柳の芽はむひわのむら鳥
てりうそ 「燕雀目の小鳥の一類。雄はテリウソ、メスはアメウソという」
1 167
桃ぞのの花にまがへるてりうそのむれ立つ折はちるここちする
こがら 「燕雀目の小鳥の一類」
1 167
ならびゐて友をはなれぬこがらめのねぐらにたのむ椎の下枝
にわ鶏
1 154
物思ひはまだ夕ぐれのままなるに明けぬとつぐるには鳥の聲
雲鳥
1 166
雲鳥やしこき山路はさておきてをくちるはらのさびしからぬか 註4
くれは鳥
1 143
おぼつかないかにも人のくれは鳥あやむるまでにぬるる袖かな 註5
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註1 95
「風さむみいせの濱萩分けゆけば衣かりがね浪に鳴くなり」
この歌は 中納言許[ の歌との説があります。
註2 185
「夜の鶴の都のうちを出でであれなこのおもひにはまどはざらまし」
動物の名詞としてのものではありませんが、掲載しました。
註3 192
「さらぬだに世のはかなきを思ふ身にぬえ鳴き渡る明ぼのの空」
鳥の ぬえ はトラツグミのことと解釈されているようです。別名、
鵺子鳥とあって、鵺子鳥と喚子鳥は同種のようです。
註4 166
「雲鳥やしこき山路はさておきてをくちるはらのさびしからぬか」
鳥名前ではなく 雲取 という地名です。和歌山県那智の近くです。
註5 143
「おぼつかないかにも人のくれは鳥あやむるまでにぬるる袖かな」
これも鳥の名前ではなく、呉織という呉服のことです。「あや」にかかる
枕詞として くれはとり を用いるようです。
以上
■ 入力 2002年02月08日
■ 入力者 阿部和雄
■ 校正 未校正
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