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地名の歌 「高野山」 (和歌山県にある山。弘法大師空海が開く)
寂然紅葉のさかりに高野にまうでて、出でにける又の年の花の折に、
申し遣しける
29 紅葉みし高野の峯の花ざかりたのめし人の待たるるやなぞ
高野に中院と申す所に、菖蒲ふきたる坊の侍りけるに、櫻のちりけるが珍しく
おぼえてよみける
48 櫻ちるやどにかさなるあやめをば花あやめとやいふべかるらむ
寂然高野にまうでて、立ち歸りて大原より遣しける
70 へだて來しその年月もあるものを名殘多かる嶺の朝霧 (寂然)
高野より出でたりけると、覺堅阿闍梨きかぬさまなりければ、菊をつかはすとて
87 汲みてなど心かよはばとはざらむ出でたるものを菊の下水
寂蓮高野にまうでて、深き山の紅葉といふことをよみける
88 さまざまに錦ありけるみ山かな花見し嶺を時雨そめつつ
秋の末に寂然高野にまゐりて、暮の秋によせておもひをのべけるに
90 なれきにし都もうとくなり果てて悲しさ添ふる秋の暮かな
秋の頃高野へまゐるべきよしたのめて、まゐらざりける人のもとへ、
雪ふりてのち申し遣しける
101 雪深くうづめてけりな君くやと紅葉の錦しきし山路を
やがてそれが上は、大師の御師にあひまゐらせさせおはしましたる嶺なり。
わかはいしさと、その山をば申すなり。その邊の人はわかいしとぞ申しならひたる。
山もじをばすてて申さず。また筆の山ともなづけたり。遠くて見れば筆に似て、
まろまろと山の嶺のさきのとがりたるやうなるを申しならはしたるなめり。行道所より、
かまへてかきつき登りて、嶺にまゐりたれば、師に遇はせおはしましたる所の
しるしに、塔を建ておはしましたりけり。塔の石ずゑ、はかりなく大きなり。高野の
大塔ばかりなりける塔の跡と見ゆ。苔は深くうづみたれども、石おほきにして
あらはに見ゆ。筆の山と申す名につきて
114 筆の山にかきのぼりても見つるかな苔の下なる岩のけしきを
高野山を住みうかれてのち、伊勢國二見浦の山寺に侍りけるに、太神宮の
御山をば神路山と申す、大日の垂跡をおもひて、よみ侍りける
124 ふかく入りて神路のおくを尋ぬれば又うへもなき峰の松かぜ
みやだてと申しけるはしたものの、年たかくなりて、さまかへなどして、ゆかりにつきて
吉野に住み侍りけり。思ひかけぬやうなれども、供養をのべむ料にとて、くだ物を
高野の御山へつかはしたりけるに、花と申すくだ物侍りけるを見て、申しつかはしける
133 をりびつに花のくだ物つみてけり吉野の人のみやだてにして
常よりも道たどらるるほどに、雪ふかかりける頃、高野へまゐると聞きて、
中宮大夫のもとより、いつか都へは出づべき、かかる雪にはいかにと申し
たりければ、返りごとに
134 雪分けて深き山路にこもりなば年かへりてや君にあふべき
ことの外に荒れ寒かりける頃、宮法印高野にこもらせ給ひて、此ほどの寒さは
いかがするとて、小袖はせたりける又の朝申しける
134 今宵こそあはれみあつき心地して嵐の音をよそに聞きつれ
宮の法印高野にこもらせ給ひて、おぼろけにては出でじと思ふに、修行せま
ほしきよし、語らせ給ひけり。千日果てて御嶽にまゐらせ給ひて、いひつかはしける
135 あくがれし心を道のしるべにて雲にともなふ身とぞ成りぬる
小倉をすてて高野の麓に天野と申す山に住まれけり。おなじ院の帥の局、都の
外の栖とひ申さではいかがとて、分けおはしたりける、ありがたくなむ。歸るさに
粉河へまゐられけるに、御山よりいであひたりけるを、しるべせよとありければ、
ぐし申して粉河へまゐりたりける、かかるついでは今はあるまじきことなり、吹上
みんといふこと、具せられたりける人々申し出でて、吹上へおはしけり。道より
大雨風吹きて、興なくなりにけり。さりとてはとて、吹上に行きつきたりけれども、
見所なきやうにて、社にこしかきすゑて、思ふにも似ざりけり。能因が苗代水に
せきくだせとよみていひ傳へられたるものをと思ひて、社にかきつけける
136 あまくだる名を吹上の神ならば雲晴れのきて光あらはせ
深夜水聲といふことを、高野にて人々よみけるに
137 まぎれつる窓の嵐の聲とめてふくると告ぐる水の音かな
高野の奥の院の橋の上にて、月あかかりければ、もろともに眺めあかして、その頃
西住上人京へ出でにけり。その夜の月忘れがたくて、又おなじ橋の月の頃、
西住上人のもとへいひ遣しける
137 こととなく君こひ渡る橋の上にあらそふものは月の影のみ
入道寂然大原に住み侍りけるに、高野より遣しける
138 山ふかみさこそあらめときこえつつ音あはれなる谷川の水
138 あはれさはかうやと君も思ひ知れ秋暮れがたの大原の里 (寂然)
高野に籠りたりける頃、草の庵に花の散りつみければ
139 ちる花のいほりの上を吹くならば風入るまじくめぐりかこはむ
高野より、京なる人のもとへいひつかはしける
139 住むことは所がらぞといひながらかうやは物のあはれなるべき
思はずなること思ひ立つよしきこえける人のもとへ、高野より云ひつかはしける
140 しをりせで猶山深く分け入らむうきこと聞かぬ所ありやと
高野にこもりたる人を、京より、何ごとか、又いつか出づべきと申したるよし聞きて、
その人にかはりて
140 山水のいつ出づべしと思はねば心細くてすむと知らずや
阿闍梨兼堅、世をのがれて高野に住み侍りけり。あからさまに仁和寺に出でて
歸りもまゐらぬことにて、僧綱になりぬと聞きて、いひつかはしける
178 けさの色やわか紫に染めてける苔の袂を思ひかへして
美福門院の御骨、高野の菩提心院へわたされけるを見たてまつりて
201 今日や君おほふ五つの雲はれて心の月をみがき出づらむ
一院かくれさせおはしまして、やがて御所へ渡しまゐらせける夜、高野より出で
あひて參りたりける、いと悲しかりけり。此後おはしますべき所御覽じはじめける
そのかみの御ともに、右大臣さねよし、大納言と申しけるさぶらはれける、しのばせ
おはしますことにて、又人さぶらはざりけり。其をりの御ともにさぶらひけることの思ひ
出でられて、折しもこよひに参りあひたる、昔今のこと思ひつづけられてよみける
202 今宵こそ思ひしらるれ淺からぬ君に契のある身なりけり
右大將きんよし、父の服のうちに、母なくなりぬと聞きて、高野よりとぶらひ申しける
203 かさねきる藤の衣をたよりにて心の色を染めよとぞ思ふ
とかくのわざ果てて、跡のことどもひろひて、高野へ参りて歸りたりけるに
206 いるさにはひろふかたみも殘りけり歸る山路の友は涙か (寂然)
忠盛の八條の泉にて、高野の人々佛かきたてまつることの侍りけるにまかりて、
月あかかりけるに池に蛙の鳴きけるをききて
270 さ夜ふけて月にかはづの聲きけばみぎはもすずし池のうきくさ
高野へまゐりけるに、葛城の山に虹の立ちけるを見て
270 さらにまたそり橋わたす心地してをぶさかかれるかつらぎの嶺
2005年1月14日入力
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