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 地名の歌 【近江】


【志賀】 琵琶湖西岸の町。

   36  春風の花のふぶきにうづもれて行きもやられぬ志賀の山道
                                      (岩波・集成・全書・注解)
  
   38  ちりそむる花の初雪ふりぬればふみ分けまうき志賀の山越
                                      (岩波・集成・全書・注解)
   
  102  風さえてよすればやがて氷りつつかへる波なき志賀の唐崎
                                      (岩波・集成・全書・注解)

  165  思ひ出でよみつの濱松よそだつるしかの浦波たたむ袂を
                                      (岩波・集成・全書・注解)

  273  ほととぎすなきわたるなる波の上にこゑたたみおく志賀の浦風
                                      (岩波・全書・注解)


【比良】 比叡山北側の連山を指します。
 
  100  晴れやらでニむら山に立つ雲は比良のふぶきの名殘なりけり
                                      (岩波・集成・全書・注解)
   
    寂然入道大原に住みけるに遣しける

  101  大原は比良の高嶺の近ければ雪ふるほどを思ひこそやれ
                                      (岩波・集成・全書・注解)

    花雪に似たりといふことを、ある所にてよみけるに

  246  比良の山春も消えせぬ雪とてや花をも人のたづねざるらむ
                                      (岩波・全書・注解)

  101  思へただ都にてだに袖さえしひらの高嶺の雪のけしきは (寂然)
                                      (岩波・集成・全書・注解)   

【逢坂・あふさか・あふ阪】 近江と山城を隔てる山。三関のひとつ、逢坂の関があった。

    春になりける方たがへに、志賀の里へまかりける人に具してまかりけるに、
    逢坂山の霞みたりけるを見て

   14  わきて今日あふさか山の霞めるは立ちおくれたる春や越ゆらむ
                                      (岩波・集成・全書・注解)

  130  都出でてあふ坂越えし折までは心かすめし白川の關
                                      (岩波・集成・全書・注解)

【近江】 「近(ちか)つ江」で山城の東の国名。浜名湖のある遠江は「遠つ江」。
【野洲】 琵琶湖東岸にある地名。野洲川が流れる。

  124  近江路や野ぢの旅人急がなむやすかはらとて遠からぬかは
                                      (岩波・集成・全書・注解)

  278  ほのぼのと近江のうみをこぐ舟のあとなきかたにゆく心かな (慈鎮)
                                      (岩波・全書・注解)

【しがらき】 信楽。滋賀県南部の地名。聖武天皇の「信楽の宮」や信楽焼で有名。

   15  春あさみ篠(すず)のまがきに風さえてまだ雪消えぬしがらきの里
                                      (岩波・集成・全書・注解

  100  しがらきの杣のおほぢはとどめてよ初雪降りぬむこの山人
                                      (岩波・集成・全書・注解)

【から崎】 唐崎。大津市にある地名。琵琶湖に面している町。(から崎)と相模の
      (あしがらの山)では距離的にあわず、意味不明。松屋本では五句は
      (しがらきの山)とある。

   16  雪とくるしみゝにしだくから崎の道行きにくきあしがらの山
                                      (岩波・集成・全書・注解)

【伊吹】 伊吹山。近江、美濃の国境にある山。
【あさづま】 琵琶湖東岸にあった朝妻の港。

  169  おぼつかないぶきおろしの風さきにあさづま舟はあひやしぬらむ
                                      (岩波・集成・全書・注解)

  169  くれ舟よあさづまわたり今朝なせそ伊吹のたけに雪しまくなり
                                      (岩波・集成・全書・注解)

【余呉の湖】 余呉湖。琵琶湖の北にある。ここにある賤ヶ岳は古戦場として有名。

  248  余吾の湖の君をみしまにひく網のめにもかからぬあぢのむらまけ
                                      (岩波・全書・注解)

【篠むら】 不明。篠原の誤記の可能性あり。
【三上が嶽】 滋賀県野洲町にある三上山のこと。近江富士。俵藤太のムカデ退治伝説が
        ある。

  261  篠むら三上が嶽をみわたせばひとよのほどに雪のつもれる
                                      (岩波・全書・注解)

【つくまの沼】 筑摩の沼。滋賀県坂田郡にある沼。

   47  折におひて人に我身やひかれましつくまの沼の菖蒲なりせば
                                      (岩波・集成・全書・注解)

【篠原】 篠の生えている原という意味。滋賀県野洲郡に篠原の地名がある。

   68  篠原や霧にまがひて鳴く鹿の聲かすかなる秋の夕ぐれ
                                      (岩波・集成・全書・注解)

【あらち山】 有乳山。近江と越前の国境にある。越前の歌枕。

   99  あらち山さかしく下る谷もなくかじきの道をつくる白雪
                                      (岩波・全書・注解)

     「近江・志賀・比良・みつの浜・二むら山・逢坂・信楽・から崎・やす・伊吹・朝妻・
      余呉の海・篠村(篠原)・三上が嶽・つくまの沼・あらち山」

2005年1月22日入力

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参考文献
        岩波=岩波文庫山家集(佐佐木信綱氏校訂
        集成=新潮日本古典集成山家集(後藤重郎氏校註)
        全書=日本古典全書山家集(伊藤嘉夫氏校註)
        注解=西行山家集全注解(渡部保氏著)