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   地名の歌 「摂津」


 「摂津」 (国名。現在の大阪府北部と兵庫県南東部にあたる。「津の国」ともいう。)
 

【津ノ国・難波・難波潟・難波江・難波津】 現在の大阪市一帯の古い名称

  
     難波わたりに年超えに侍りけるに、春立つこころをよみける

  14   いつしかも春きにけりと津の國難波の浦を霞こめたり
                                          「岩波・集成・全書・注解」

  50   水わくる難波ほり江のなかりせばいかにかせまし五月雨のころ
                                          「岩波・集成・全書・注解」

  51   露のぼる蘆の若葉に月さえて秋をあらそふ難波江の浦
                                          「岩波・集成・全書・注解」

  73   難波がた月の光にうらさえて波のおもてに氷をぞしく
                                          「岩波・集成・全書・注解」

  92   難波江の入江の蘆に霜さえて浦風寒きあさぼらけかな
                                          「岩波・集成・全書・注解」

  93   津の國難波の春は夢なれや蘆の枯葉に風わたるなり
                                          「岩波・全書・注解」

  93   霜にあひて色あらたむる蘆の穗の寂しくみゆる難波江の浦
                                          「岩波・集成・全書・注解」

  102  津の國の芦の丸屋のさびしさは冬こそわきて訪ふべかりけれ
                                          「岩波・集成・全書・注解」

  153  難波潟波のみいとど數そひて恨のひまや袖のかわかむ
                                          「岩波・集成・全書・注解」

  171  難波潟しほひにむれて出でたたむしらすのさきの小貝ひろひに 
                                          「岩波・集成・全書・注解」

  243  千鳥なくふけゐのかたを見わたせば月かげさびし難波津のうら 
                                          「岩波・全書・注解」

  247  難波江の岸に磯馴れてはふ松をおとせであらふ月のしら波
                                          「岩波・全書・注解」

     明石に人を待ちて日數へにけるに (岩波の詞書) 

     津の国やまもとと申す所にて人を待ちて日数経ければ (新潮の詞書)

  108  何となく都のかたと聞く空はむつまじくてぞながめられぬる
                                          「岩波・集成・全書・注解」

【わた】 和田。現在の神戸市兵庫区和田か?

     六波羅太政入道、持經者千人あつめて、津の國わたと申す所にて供養侍りける、
     やがてそのついでに萬燈會しけり。夜更くるままに灯の消えけるを、おのおの
     ともしつきけるを見て、

  108  消えぬべき法の光のともし火をかかぐるわたのみさきなりけり
                                        「岩波・集成・全書・注解」

【ながら】 長柄。淀川河口近くの地名。歌枕として名高い。

    長柄を過ぎ侍りしに

  197  津の國ながらの橋のかたもなし名はとどまりてきこえわたれど
                                          「岩波・全書・注解」

【天王寺】  摂津の国の地名。近くに四天王寺がある。

     同行に侍りける上人、月の頃天王寺にこもりたりと聞きて、いひ遣しける

  174  いとどいかに西にかたぶく月影を常よりもけに君したふらむ
                                        「岩波・集成・全書・注解」

     天王寺へまゐりけるに、片野など申すわたり過ぎて、見はるかされたる所の
     侍りけるを問ひければ、天の川と申すを聞きて、宿からむといひけむこと思ひ
     出だされてよみける

  107  あくがれしあまのがはらと聞くからにむかしの波の袖にかかれる
                                        「岩波・集成・全書・注解」

     天王寺にまゐりけるに、雨のふりければ、江口と申す所に宿を借りけるに、
     かさざりければ

  107  世の中をいとふまでこそかたからめかりのやどりを惜しむ君かな
                                        「岩波・集成・全書・注解」

     天王寺へまゐりたりけるに、松に鷺の居たりけるを、月の光に見て
                                       
  108  庭よりも鷺居る松のこずゑにぞ雪はつもれる夏のよの月
                                        「岩波・集成・全書・注解」

     天王寺へまゐりて、龜井の水を見てよめる

  108  あさからぬ契の程ぞくまれぬる龜井の水に影うつしつつ
                                        「岩波・集成・全書・注解」

     中納言家成、渚の院したてて、ほどなくこぼたれぬと聞きて、天王寺より下向しける
     ついでに、西住、淨蓮など申す上人どもして見けるに、いとあはれにて、各述懐しけるに

  187  折につけて人の心のかはりつつ世にあるかひもなぎさなりけり
                                        「岩波・全書・注解」

     俊惠天王寺にこもりて、人々具して住吉にまゐり歌よみけるに具して

  223  住よしの松が根あらふ浪のおとを梢にかくる沖つしら波
                                        「岩波・集成・全書・注解」

【住吉・住之江】 大阪市住吉区及び住江区。大和川沿いにあり、住吉神社は和歌の神様。

  142  かずかくる波にしづ枝の色染めて神さびまさる住の江の松
                                      「岩波・集成・全書・注解」

   76  波にやどる月を汀にゆりよせて鏡にかくるすみよしの岸
                                      「岩波・集成・全書・注解」
 
    人々住吉にまゐりて月を翫びけるに

   76  片そぎの行あはぬ間よりもる月やさして御袖の霜におくらむ
                                       「岩波・集成・全書・注解」

     俊惠天王寺にこもりて、人々具して住吉にまゐり歌よみけるに具して

  223  住よしの松が根あらふ浪のおとを梢にかくる沖つしら波
                                       「岩波・集成・全書・注解」

【塩湯】 神戸市北区の有馬温泉のこと

    しほ湯にまかりたりけるに、具したりける人、九月晦日にさきへのぼりければ、
    つかはしける。人にかはりて

  140  秋は暮れ君は都へ歸りなばあはれなるべき旅のそらかな
                                        「岩波・集成・全書・注解」

    しほ湯出でてへ歸りまうで來て、古郷の花霜がれにける、あはれなりけり。
    いそぎ歸りし人のもとへ又かはりて

  141  露おきし庭の小萩も枯れにけりいづち都に秋とまるらむ
                                        「岩波・集成・全書・注解」

【三島】 大阪府高槻市三島江のこと。

   156  我が戀は三島が沖にこぎいでてなごろわづらふあまの釣舟
                                        「岩波・集成・全書・注解」

   171  風吹けば花咲く波のをるたびに櫻貝よるみしまえの浦
                                        「岩波・集成・全書・注解」

【御津】 難波の津の美称。40ページ歌は山城の「美豆」説あり。

  40   かり殘すみづの眞菰にかくろひてかけもちがほに鳴く蛙かな
                                          「岩波・集成・全書・注解」

  50   みな底にしかれにけりなさみだれての眞菰をかりにきたれば
                                          「岩波・集成・全書・注解」

【須磨】 神戸市須磨区。当時、須磨に海の関所があった。 

   94   あはぢ潟せとの汐干の夕ぐれに須磨よりかよふ千鳥なくなり
                                        (岩波・集成・全書・注解)

  276   月すみてふくる千鳥のこゑすなりこころくだくや須磨の關守
                                        (岩波・全書・注解)

【みなと川】 湊川。 兵庫県神戸市兵庫区。

  100  みなと川苫に雪ふく友舟はむやひつつこそ夜をあかしけれ
                                         「岩波・集成・全書・注解」

   *   河にながす涙たたはむみなと河葭分なして舟を通さむ
                                         「全書・注解」

【水無瀬川】 大阪府三島群を流れる川。水のない川という意味もある。

   49   水無瀬河をちのかよひぢ水みちて船わたりする五月雨の頃
                                         「岩波・集成・全書・注解」

【なるを】 鳴尾。 兵庫県西宮市鳴尾町。
  
    初秋の頃、なるをと申す所にて、松風の音を聞きて
 
   56   つねよりも秋になるをの松風はわきて身にしむ心地こそすれ
                                         「岩波・集成・全書・注解」

【こや】 昆陽 現在の伊丹市昆陽。池は行基が開削した人造池。

  102   さゆる夜はよその空にぞをしも鳴くこほりにけりなこやの池水
                                         「岩波・集成・全書・注解」

【真野】 神戸市長田区真野町。近江の真野説もある。

   93   分けかねし袖に露をばとめ置きて霜に朽ちぬる眞野の萩原
                                         「岩波・集成・全書・注解」

【桜井】 現在の大阪府三島郡島本町桜井。

   16   小ぜりつむ澤の氷のひまたえて春めきそむる櫻井のさと
                                         「岩波・集成・全書・注解」

【夢野】 武庫郡。現在の神戸市兵庫区。湊川の西あたり。

   67   夜を残す寢ざめに聞くぞあはれなる夢野の鹿もかくや鳴きけむ
                                         「岩波・集成・全書・注解」

【芦屋】 武庫郡。兵庫県芦屋市。

  172   波たかき芦やの沖をかへる舟のことなくて世を過ぎんとぞ思ふ
                                         「岩波・集成・全書・注解」


 「津ノ国・難波・難波江・難波潟・白州崎・長柄・天王寺・天の川・交野・江口・
  住吉・住之江・桜井・三島・三島江・水無瀬川・御津・ふけゐ」

 「芦屋・鳴尾・須磨・湊川・和田・夢野・真野・昆陽・塩湯(有馬)・やまもと」

2005年1月28日入力   番号は岩波文庫のページ番号です。
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参考文献
        岩波=岩波文庫山家集(佐佐木信綱氏校訂
        集成=新潮日本古典集成山家集(後藤重郎氏校註)
        全書=日本古典全書山家集(伊藤嘉夫氏校註)
        注解=西行山家集全注解(渡部保氏著)