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その他の地名の歌  【淡路】 【備中】 【安芸】 【九州】


【淡路】  淡路の国。瀬戸内海東端にある島。現在は兵庫県

   94  淡路がた磯わのちどり聲しげしせとの鹽風冴えまさる夜は
                                       (岩波・集成・全書・注解)

   94  あはぢ潟せとの汐干の夕ぐれに須磨よりかよふ千鳥なくなり
                                       (岩波・集成・全書・注解)

   95  千鳥なく繪嶋の浦にすむ月を波にうつして見る今宵かな
                                       (岩波・集成・全書・注解)

  168  あはぢ嶋せとのなごろは高くとも此汐わたにさし渡らばや
                                       (岩波・集成・全書・注解)

  116  小鯛ひく網のかけ繩よりめぐりうきしわざあるしほさきの浦
                                       (岩波・集成・全書・注解)

   「絵島の浦」 
         淡路島北端の津名郡岩屋町にある景勝地。明石の対岸に位置する。

   「しほさきの浦」  
         不明。和歌山県潮岬説がある。淡路島南端の潮崎説が有力。


【備前】  備前の国。現在の岡山県南東部に当たる。

    備前國小島と申す島に渡りたりけるに、あみと申すものをとる所は、おのおの
    われわれしめて、ながきさをに袋をつけてたてわたすなり。そのさをのたてはじめをば、
    一のさをとぞ名付けたる。なかに年高きあま人のたて初むるなり。たつるとて申すなる
    詞きき侍りしこそ、涙こぼれて、申すばかりなく覺えてよみける

  115  たて初むるあみとる浦の初さをはつみの中にもすぐれたるかな
                                       (岩波・集成・全書・注解)

    ひゝしぶかはと申す方へまかりて、四國の方へ渡らんとしけるに、風あしくて程へけり。
    しぶかはのうらたと申す所に、幼きものどもの、あまた物を拾ひけるを問ひければ、
    つみと申すもの拾ふなりと申しけるを聞きて

  115  おりたちてうらたに拾ふ海人の子はつみよりつみを習ふなりけり
                                       (岩波・集成・全書・注解)

    まなべと申す島に、京よりあき人どものくだりて、やうやうのつみのものどもあきなひて、
    又しはくの島に渡りてあきなはんずるよし申しけるを聞きて

  115  まなべよりしはくへ通ふあき人はつみをかひにて渡るなりけり
                                       (岩波・集成・全書・注解)

    串にさしたる物をあきなひけるを、何ぞと問ひければ、はまぐりを干して侍るなりと
    申しけるを聞きて

  116  同じくはかきをぞさして干しもすべきはまぐりよりは名もたよりあり
                                       (岩波・集成・全書・注解)

    うしまどの迫門に、海士の出で入りて、さだえと申すものをとりて、船に入れ入れ
    しけるを見て

  116  さだえすむ迫門の岩つぼもとめ出ていそぎし海人の気色なるかな
                                       (岩波・集成・全書・注解)

    沖なる岩につきて、海士どもの鮑とりける所にて

  116  岩のねにかたおもむきに波うきてあはびをかづく海人のむらぎみ
                                       (岩波・集成・全書・注解)

    西國へ修行してまかりける折、小嶋と申す所に、八幡のいははれ給ひたりけるに
    こもりたりけり。年へて又その社を見けるに、松どものふる木になりたりけるを見て

  117  昔みし松は老木になりにけり我がとしへたる程も知られて
                                       (岩波・集成・全書・注解)

  【ひひ】 
          日比。岡山県玉野市日比のこと。
  【しぶかは】 
          渋川。岡山県玉野市渋川。日比の少し西にある地名。 
  【しぶかはのうらた】
          渋川の浦か渋川の浦田か不明。どちらにしても渋川にある村のこと。
  【小島】
          児島。岡山県南部にある地名。もともと島でしたが、17世紀に陸地とつながりました。
  【まなべ】 
          真鍋。岡山県笠岡市に属する瀬戸内海の小さな島。
  【しはく】 
          塩飽。岡山県と香川県にはさまれた瀬戸内海の島々のことです。
  【うしまど】
          牛窓。岡山県邑久郡牛窓町のこと。海上交通の要衝として栄えました。

【備中】  備中の国。現在の岡山県西部に当たる。

  102  さえ渡る浦風いかに寒からむ千鳥むれゐるゆふさきの浦
                                      (岩波・集成・全書・注解)

   「ゆふさきの浦」 
          現在の岡山県倉敷市玉島勇崎

【安芸】 国名。現在の広島県の西部。
    
     志することありて、あき一宮へ詣でけるに、たかとみの浦と申す所に、
     風に吹きとめられてほど經けり。苫ふきたる庵より月のもるを見て

  117  波のおとを心にかけてあかすかな苫もる月の影を友にて
                                      (岩波・集成・全書・注解)

   「あき」 
          安芸の国のこと。
   「一宮」 
          宮島の厳島神社のこと。
   「たかとみの浦」 
          不明。

【九州】

 【筑紫】 筑前、筑後のこと。現在の福岡県と佐賀県にあたる。

    筑紫に、はらかと申すいをの釣をば、十月一日におろすなり。しはすにひきあげて、
    京へはのぼせ侍る。その釣の繩はるかに遠く曳きわたして、通る船のその繩にあたり
    ぬるをばかこちかかりて、がうけがましく申してむつかしく侍るなり。その心をよめる
 
  118  はらか釣るおほわたさきのうけ繩に心かけつつ過ぎむとぞ思ふ
                                     (岩波・集成・全書・注解)

  118  いせじまいるゝつきてすまうなみにけことおぼゆるいりとりのあま
                                     (岩波・集成・全書・注解)

  224  めづらしなあさくら山の雲井よりしたひ出でたるあか星の影
                                     (岩波・集成・全書・注解)

  242  こがれけむ松浦の舟のこころをばそでにかかれる泪にぞしる
                                     (岩波・全書・注解)

  「おおわたさき」
          固有名詞としては築紫のどこか不明。普通名詞で湾口にある岬の意味。
  「いせじま」 
          不明。筑紫にある島か?歌そのものが意味不明。伊勢の島との説あり。
  「あさくら山」
          舞楽の題名。福岡県朝倉郡にある山との説がある。
  「松浦」 
          佐賀県にある地名。松浦佐用姫の名は万葉集にも見える。 

  「淡路島・淡路潟・絵島の浦・しほさきの浦・備前・児島・日比・渋川・真鍋・塩飽・牛窓・
   ゆうさきの浦・安芸・一宮・たかとみの浦、筑紫・おおわたさき・いせじま・あさくら山・松浦」

2005年2月6日入力
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参考文献
        岩波=岩波文庫山家集(佐佐木信綱氏校訂
        集成=新潮日本古典集成山家集(後藤重郎氏校註)
        全書=日本古典全書山家集(伊藤嘉夫氏校註)
        注解=西行山家集全注解(渡部保氏著)