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  地名の歌   【三河】 【駿河】 【遠江】 【相模】 【尾張】 【美濃」 【飛騨】


【三河】  国名。現在の愛知県東部。

  70   出でながら雲にかくるる月かげをかさねて待つや二むらの山
                                  (岩波・集成・全書・注解)
 
  234  こぎいでて高石の山を見わたせばまだ一むらもさかぬ白雲
                            (岩波山家集234P聞書集・夫木抄)

  273  さみだれは原野の澤に水みちていづく三河のぬまの八つ橋
                                      (岩波・全書・注解)

  276  朝風にみなとをいづるとも舟は高師の山のもみぢなりけり
                                        (岩波・全書・注解)

  280  波もなし伊良胡が崎にこぎいでてわれからつけるわかめかれ海士
                                      (岩波・全書・注解)

    いらごへ渡りたりけるに、ゐがひと申すはまぐりに、あこやのむねと侍るなり、
    それをとりたるからを、高く積みおきたりけるを見て

  127  あこやとるゐがひのからを積み置きて寶の跡を見するなりけり
                                      (岩波・集成・全書・注解)

  127  いらご崎にかつをつり舟ならび浮きてはかちの浪にうかびてぞよる
                                      (岩波・集成・全書・注解)

     二つありける鷹の、いらごわたりすると申しけるが、一つの鷹はとどまりて、
     木の末にかかりて侍ると申しけるを聞きて

  127  すたか渡るいらごが崎をうたがひてなほきにかくる山歸りかな
                                       (岩波・集成・全書・注解)

  127  はし鷹のすずろかさでもふるさせてすゑたる人のありがたの世や
                                       (岩波・集成・全書・注解)

    「二むら山」
        二村山。 三河の歌枕。尾張と三河の国境に位置するので尾張の歌枕ともいう。
        丹波にも同名の山があるという。また山家集では近江にもあったと解釈できる
        歌がある。

    「原野の澤」 「八つ橋」
        「八つ橋」は現在の愛知県知立市八橋。原野とともに伊勢物語からの
        名所といわれます。 
 
   「高師の山」       
        三河の歌枕。愛知県豊橋市にある高足山のこと。標高60メータという低い丘。
        
    「伊良湖」
        三河の歌枕。愛知県渥美半島の突端にあります。
 
 * しぐれそむる花ぞの山に秋くれて錦の色もあたらむるかな  

    この歌にある「花ぞの山」も一説には三河の歌といわれています。

【駿河】
       
  72  清見潟おきの岩こすしら波に光をかはす秋の夜の月
                                     (岩波・集成・全書・注解)

  73  清見潟月すむ夜半のうき雲は富士の高嶺の烟なりけり
                                     (岩波・集成・全書・注解)

   *   同じ月の来寄する浪にゆられ来て三保がさきにもやどるなりけり
                                     (全書・注解)

  153  けぶり立つ富士に思ひのあらそひてよだけき戀をするがへぞ行く
                                     (岩波・集成・全書・注解)

  154  東路やあひの中山ほどせばみ心のおくの見えばこそあらめ
                                     (岩波・集成・全書・注解)

  161  いつとなき思ひは富士の烟にておきふす床やうき島が原
                                     (岩波・集成・全書・注解)

     駿河の國久能の山寺にて、月を見てよみける

  128  涙のみかきくらさるる旅なれやさやかに見よと月はすめども
                                     (岩波・集成・全書・注解)
     あづまの方へ修行し侍りけるに、富士の山を見て

  128  風になびく富士の煙の空にきえて行方も知らぬ我が思ひかな
                                     (岩波・集成・全書・注解)

   「清見潟」
        駿河の歌枕。静岡県駿東郡清水町。清水港から駿河湾沿いに
        東にある地名。清見寺が現存。

   「三保が崎」
        駿河の歌枕。駿河湾に突き出た景勝地。三保の松原の羽衣伝説がある。

   「あひの中山」
        不明。伊勢、相模にもあるといいます。

   「富士」
        駿河の歌枕。富士山のこと。静岡県と山梨県にまたがる日本最高峰。

   (注) 
 
  73  清見潟月すむ夜半のうき雲は富士の高嶺の烟なりけり
                                     (岩波・集成・全書・注解)

   72ページのこの歌については西行作ではなかろうと思います。誤まって山家集に入った
   ものでしょう。続拾遺集311番に登蓮法師の詠歌としてあります。玄玉集、歌仙落書でも
   登蓮法師の作としているようです。

   登蓮法師の歌は以下です。

  清見潟月すむ夜半のむら雲は富士の高嶺の煙なりけり
                       (登蓮法師 続拾遺集)
   「玄玉集」
   撰者不詳。1192.3年頃の成立。現存部分の歌数733首。九条家、
   御子左家の歌人が多い。

   「歌仙落書」
   1170年代に成立した歌論書。編著者不明。俊恵、俊成、登蓮、隆信、清輔、寂然、
   小侍従など20人を選んでの同時代人による秀歌などの評釈書。

【遠江】  浜名湖のこと。転じて国名。現在の静岡県西部に当たる。

     あづまの方へ、相知りたる人のもとへまかりけるに、さやの中山見しことの、
     昔になりたりける、思ひ出でられて

  128  年たけて又こゆべしと思ひきや命なりけりさやの中山
                                     (岩波・全書・注解)

   「さやの中山」 
      静岡県掛川市にある。「さよの中山」ではなく「さやの中山」と呼ぶのが
      正しい。ただし「さよの中山」でも誤りではない。
      東海道の難所。遠江の歌枕。
 
【尾張】

  171  波あらふ衣のうらの袖貝をみぎはに風のたたみおくかな
                                     (岩波・集成・全書・注解) 

   *   思ひきやよそになるみのうらみして涙に袖を洗ふべしとは
                                      (全書・注解)

   「衣の浦」 
       愛知県知多郡にある入江。名古屋港の東に衣浦港があります。

   「なるみ」 
       尾張の歌枕。「鳴海の海」「鳴海潟」として詠まれる事が多い。また、
       「鳴海の浦」から「鳴海のうらみ」と詠むのがバターン化されたようです。  

【相模】  国名。現在の神奈川県の大部分。

  233  箱根山こずゑもまだや冬ならむ二見は松のゆきのむらぎえ
                                     (岩波・全書・注解)

    八嶋内府、鎌倉にむかへられて、へまた送られ給ひけり。武士の、母の
    ことのはさることにて、右衛門督のことを思ふにぞとて、泣き給ひけると聞きて

  185  夜の鶴の都のうちを出でであれなこのおもひにはまどはざらまし
                                     (岩波・集成・全書・注解)

   16  雪とくるしみゝにしだくから崎の道行きにくきあしがらの山
                                     (岩波・集成・全書・注解)

   「箱根山」
       相模の歌枕。神奈川、静岡県境にある大型の火山。火口原に芦ノ湖がある。

   「鎌倉」
       鎌倉山として歌枕。源頼朝が1192年に幕府を開府。鶴岡八幡宮や
       長谷大仏がある。

   「あしがらの山」
       足柄山。相模の歌枕。この歌の意味不明。近江の(から崎)と相模の
       (足柄山)では距離的にあわない。松屋本では五句は(しがらきの山)
       とあるから近江の歌と解釈するほうが自然。
 
【美濃】 美濃の国。現在の岐阜県南部にあたる。 

    美濃の國にて

   47  郭公都へゆかばことづてむ越えくらしたる山のあはれを
                                    (岩波・全書)

【飛騨】 飛騨の国。現在の岐阜県北部にあたる。
   
  166  まさきわる飛騨のたくみや出でぬらむ村雨すぎぬかさどりの山
                                    (岩波・集成・全書・注解)

  「二むら山・三河・原野の澤・伊良湖・駿河・清見潟・三保が崎・あひの中山・富士・
   さやの中山・衣の浦・なるみ・箱根山・鎌倉・あしがらの山・美濃・飛騨」
        

2005年2月6日入力
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参考文献
        岩波=岩波文庫山家集(佐佐木信綱氏校訂
        集成=新潮日本古典集成山家集(後藤重郎氏校註)
        全書=日本古典全書山家集(伊藤嘉夫氏校註)
        注解=西行山家集全注解(渡部保氏著)