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  地名の歌  【越の国】 【加賀】 【甲斐】 【下野】 【上野】 【武蔵】 【東】 【外国】


【越】 越前・越中・越後の国の総称。北陸道。

   24   かりがねは歸る道にやまどふらむ越の中山かすみへだてて
                                        (岩波・集成・全書・注解)

   99   たゆみつつそりのはや緒もつけなくに積りにけりなの白雪
                                        (岩波・集成・全書・注解)
   
   99   あらち山さかしく下る谷もなくかじきの道をつくる白雪
                                        (岩波・全書・注解)

  166   ねわたしにしるしの竿や立ちつらむこひのまちつる越の中山
                                        (岩波・集成・全書・注解)

  171   しほそむるますをのこ貝ひろふとて色の濱とはいふにやあるらむ
                                        (岩波・集成・全書・注解)

  245   わけ入ればやがてさとりぞ現はるる月のかげしく雪のしら山
                                        (岩波・全書・注解)

  258   月はみやこ花のにほひはの山とおもふよ雁のゆきかへりつつ
                                        (岩波・全書・注解)

       「越の中山」 
    越後の国の妙高山説が有力ですが、越前との説もあります。

       「あらち山」 
    有乳山。近江と越前の国境にある。越前の歌枕。愛発(あらち)山は当て字。

       「色の濱」 
    福井県敦賀市色浜。

       「しら山」 
    注解では「加賀」とあるも、越の白山だと思われます。石川県、富山県。福井県
    などにまたがる山で、越前の歌枕です。 

【加賀】  加賀の国、現在の石川県。

  171  波よする竹の泊のすずめ貝うれしき世にもあひにけるかな
                                        (岩波・集成・全書・注解)

  245   わけ入ればやがてさとりぞ現はるる月のかげしく雪のしら山
                                        (岩波・全書・注解)

       「竹の泊」  
     石川県江沼郡にあるといいます。

       「しら山」 
     「越」の項、参照。


【甲斐】 国名。甲斐の国。現在の山梨県。

   22  雨しのぐ身延の郷のかき柴に巣立はじむる鶯のこゑ
                                       (岩波・全書・注解)

  242  君すまば甲斐の白嶺のおくなりと雪ふみわけてゆかざらめやは
                                       (岩波・全書・注解)

       「身延」 
     山梨県南西部にある地名。山梨県南巨摩郡身延町。


【下野】  国名。現在の栃木県。

    下野武蔵のさかひ川に、舟わたりをしけるに、霧深かりければ

   70  霧ふかき古河のわたりのわたし守岸の船つき思ひさだめよ
                                        (岩波・全書・注解)

    下野の國にて、柴の煙を見てよみける

  128  都近き小野大原を思ひ出づる柴の煙のあはれなるかな
                                        (岩波・集成・全書・注解)

        「さかひ川」 
     利根川のことといいます。
        「古河」
     茨城県古川市のことか?。古河市は利根川流域にあり、栃木県と接している。


【上野】 国名。現在の群馬県。

   50  さみだれに佐野の舟橋うきぬればのりてぞ人はさしわたるらむ
                                        (岩波・集成・全書・注解)

        「佐野の舟橋」 
     上野の国の歌枕。群馬県高崎市上佐野。


【武蔵】 武蔵の国。現在の東京都、埼玉県と神奈川県の北東部。

   61  玉にぬく露はこぼれてむさし野の草の葉むすぶ秋の初風
                                        (岩波・集成・全書・注解)

  153  汲みてしる人もあらなむおのづからほりかねの井の底の心を
                                        (岩波・集成・全書・注解)

  280  むかしおもふ心ありてぞながめつる隅田河原のありあけの月
                                        (岩波・全書・注解)

  280  和らぐる光を花にかざされて名をあらはせるさきたまの宮
                                        (岩波・集成・全書・注解)

         「むさし野」
      武蔵野。現在の東京都、埼玉県及び神奈川県の一部を含めた広範な地域
      を指す。古来からたくさんの歌に詠まれてきた。 

         「ほりかねの井」
      堀兼の井。武蔵の歌枕。埼玉県狭山市堀兼にある井戸といいます。

         「隅田河原」
      武蔵の歌枕。隅田川は武蔵の国と下総の国の堺を流れる川。在原業平の歌が
      有名で(都鳥)とともに詠まれることが多い。

         「さきたまの宮」
      埼玉県行田市埼玉の前玉神社のこと。


【東路・あづま】

    *  春立つをより来る人さへに関の清水の音に知るかな
                                        (全書・注解)

     東國修行の時、ある山寺にしばらく侍りて

  128   山高み岩ねをしむる柴の戸にしばしもさらば世をのがればや
                                        (岩波・集成・全書・注解)

  154   東路あひの中山ほどせばみ心のおくの見えばこそあらめ
                                        (岩波・集成・全書・注解)

  280   東路しのぶの里にやすらひてなこその關をこえぞわづらふ
                                        (岩波・全書・注解)

   79  入りぬとやに人はをしむらむ都に出づる山の端の月
                                        (岩波・集成・全書・注解)

     白河の關路の櫻さきにけりあづまより來る人のまれなる
                                        (岩波・集成・全書・注解)

     北まつりの頃、賀茂に參りたりけるに、折うれしくて待たるる程に、使まゐりたり。
     はし殿につきてへいふしをがまるるまではさることにて、舞人のけしきふるまひ、
     見し世のことともおぼえず、あづま遊にことうつ、陪從もなかりけり。さこそ末の
     世ならめ、神いかに見給ふらむと、恥しきここちしてよみ侍りける

  224  神の代もかはりにけりと見ゆるかな其ことわざのあらずなるにて
                                        (岩波・集成・全書・注解)

    あづまへまかりけるに、しのぶの奥にはべりける社の紅葉を

  130  ときはなる松の緑も神さびて紅葉ぞ秋はあけの玉垣
                                        (岩波・集成・全書・注解)

     あづまの方へ修行し侍りけるに、富士の山を見て

  128  風になびく富士の煙の空にきえて行方も知らぬ我が思ひかな
                                        (岩波・集成・全書・注解)
 
     あづまの方へ、相知りたる人のもとへまかりけるに、さやの中山見しことの、
     昔になりたりける、思ひ出でられて

  128  年たけて又こゆべしと思ひきや命なりけりさやの中山
                                        (岩波・集成・全書・注解)

    あひ知りたりける人の、みちのくにへまかりけるに、別の歌よむとて

  105  君いなば月待つとてもながめやらむあづまのかたの夕暮の空
                                        (岩波・集成・全書・注解)

         「あひの中山」
      どこか不明。駿河、相模、伊勢にあるといいます。相模の歌枕です。

         「しのぶの里」
      陸奥の歌枕。福島県福島市。「信夫ずり」で有名。「信夫の摺り衣、もじずり」
      の言葉を入れて詠まれている歌も多い。

         「なこその關」
      陸奥の歌枕。福島県いわき市。白河・念珠の關とともに奥州三關。

         「白河」
      陸奥の歌枕。陸奥の入り口にあたる。福島県白河市。

         「あづま遊び」
      舞楽の題名。現在も八坂神社などで演じられている。  

         「富士」
      駿河の國の歌枕。富士山のこと。静岡県と山梨県にまたがる日本最高峰。

         「さやの中山」
      静岡県掛川市にある。遠江の歌枕。東海道の難所。

         「みちのく」
      陸奥の國のこと。 

【その他】

  224   めづらしなあさくら山の雲井よりしたひ出でたるあか星の影
                                        (岩波・集成・全書・注解)

  167   夕されやひはらの嶺を越え行けば凄くきこゆる山鳩の聲
                                        (岩波・集成・全書・注解)

  167   ふる畑のそばのたつ木にをる鳩の友よぶ聲の凄き夕暮
                                        (岩波・集成・全書・注解)

  173   いたけもるあまみか時になりにけりえぞが千島を煙こめたり
                                        (岩波・集成・全書・注解)

  261   いまもされなむかしのことを問ひてまし豐葦原の岩根このたち   
                                        (岩波・全書・注解)

   *   千鳥なくをりたる崎をめぐる舟の月を心にかけてすぐらむ
                                        (全書・注解)

         「あさくら山」
       舞楽の題名。九州の実在の朝倉山の説がある。

         「ひはらの嶺
       ヒノキの原の嶺のこと。夫木抄に「たはらのみね」とあり、山城の宇治田原の
       ことか・・・?

         「ふる畑
       不明。(古畑)として紀伊と大和の国境近くの地名という。

         「えぞが千島」
       不明。陸奥の海岸地方を指すか・・・?。それとも北海道の島々を指すか?

         「豊葦原」
       日本の国の古い別称。

         「をりたる崎」
       不明。

【外国】

   58  今日ぞ知るその江にあらふ唐錦萩さく野邊にありけるものを
                                        (岩波・集成・全書・注解)

  160  我ばかりもの思ふ人や又もあると唐土までも尋ねてしがな
                                        (岩波・集成・全書・注解)

  229  から國やヘへうれしきつちはしもそのままをこそたがへざりけめ
                                        (岩波・集成・全書・注解)

          「その江」
       中国四川省成都付近を流れている川。

          「唐土」  
       (もろこし)と読む。古代に中国をさしていた言葉。地の果てまでも、という意味が強い。

          「から國」
       枕詞。「辛く・・・」にかかる。 唐土のこと。

   「越・越の中山・しら山・あらち山・色の濱・竹の泊・身延・甲斐・下野・さかひ川・古川・
    佐野舟橋・むさし野・ほりかねの井・隅田河原・さきたまの宮・あひの中山・しのぶの里・
    なこその關・富士・さやの中山・みちのく・黒髪山・ひはらの嶺・ふる畑・えぞが千島・
    豊葦原・をりたる崎・その江・唐土・から國・賀茂」

    「あずま遊び・あさくら山」 
       
2005年2月9日入力
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参考文献
        岩波=岩波文庫山家集(佐佐木信綱氏校訂
        集成=新潮日本古典集成山家集(後藤重郎氏校註)
        全書=日本古典全書山家集(伊藤嘉夫氏校註)
        注解=西行山家集全注解(渡部保氏著)