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 地名の歌  【出羽】 【陸奥】 

【出羽】  出羽の国。現在の山形県と秋田県の大部分をさす国名。

      
     遠く修行し侍りけるに、象潟と申所にて

   73  松島雄島の磯も何ならずただきさがたの秋の夜の月
                                     (岩波・全書)

     遥かなる所にこもりて、都なりける人のもとへ、月のころ遣しける

   76  月のみやうはの空なるかたみにて思ひも出でば心通はむ
                                 (岩波・集成・全書・注解)

     又の年の三月に、出羽の國に越えて、たきの山と申す山寺に侍りける、櫻の常
     よりも薄紅の色こき花にて、なみたてりけるを、寺の人々も見興じければ

  132  たぐひなき思ひいではの櫻かな薄紅の花のにほひは
                                 (岩波・集成・全書・注解)
     おなじ旅にて
 
  132  風あらき柴のいほりは常よりも寢覺ぞものはかなしかりける
                                 (岩波・集成・全書・注解)

  183  最上川つなでひくともいな舟のしばしがほどはいかりおろさむ(崇徳院)
                                  (岩波・集成・全書・注解)

  183  つよくひく綱手と見せよもがみ川その稻舟のいかりをさめて
                                   (岩波・集成・全書・注解)

  243  あはれいかにゆたかに月をながむらむ八十島めぐるあまの釣舟
                                      (岩波・全書・注解)

    「たきの山」
    山形市。医王山瀧山寺があったという。蔵王の西北に位置する。行基創建。
    慈覚大師の再興。桜の種類は「香山桜」というそうです。
     
    「最上川」
    山形県を貫流する川。急流として有名。

    「象潟」
    秋田県由利郡象潟町。「奥の細道」によって有名になった名所。能因が住んだという
    島は1804年の地震によって地続きになったようです。この歌は西行作ではないと
    みられています。
  
    「松島」 「雄島」
    松島は日本三景の一つ。宮城県松島町。雄島は松島湾にあり、「松島や雄島の磯・・・」
    という詠みかたをされている。

    「八十島」
     八十島は出羽の歌枕。ただし、陸奥の歌枕と書かれた書物もあります。
     この歌の場合は単なる「多くの島々」という意味か?。        

    「出でば」 
    76ページ歌は「出羽」の掛詞とも見られていますが確証はありません。

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【陸奥】  陸奥の国。現在の福島県、宮城県、岩手県、青森県の全域と秋田県の
      北東部を指す国名。みちのく。むつのく。

   58  あはれいかに草葉の露のこぼるらむ秋風立ちぬ宮城野の原
                                     (岩波・集成・全書・注解)

   68  萩が枝の露ためず吹く秋風にをじか鳴くなり宮城野の原
                                     (岩波・集成・全書・注解)

  233  春になればところどころはみどりにて雪の波こす末の松山
                                        (岩波・全書・注解)

  159  たのめおきし其いひごとやあだになりし波こえぬべき末の松山
                                     (岩波・集成・全書・注解)

  244  思はずば信夫のおくへこましやはこえがたかりし白河の關
                                        (岩波・全書・注解)

  272  白河の關路の櫻さきにけりあづまより來る人のまれなる
                                        (岩波・全書・注解)

  280  東路やしのぶの里にやすらひてなこその關をこえぞわづらふ
                                       (岩波・全書・注解)
                             
  173  むつのくのおくゆかしくぞ思ほゆるつぼのいしぶみそとの濱
                                       (岩波・集成・全書・注解)

      雙輪寺にて、松河に近しといふことを人々のよみけるに

  260  衣川みぎはによりてたつ波はきしの松が根あらふなりけり
                                        (岩波・全書・注解)

   *   おさふれど涙ぞさらにとどまらぬ衣の関にあらぬ袂は
                                        (全書・注解)

     みちのくににまかりたりけるに、野中に、常よりもとおぼしき塚の見えけるを、
     人に問ひければ、中將の御墓と申すはこれが事なりと申しければ、中將とは
     誰がことぞと又問ひければ、實方の御ことなりと申しける、いと悲しかりけり。
     さらぬだにものあはれにおぼえけるに、霜がれの薄ほのぼの見え渡りて、後に
     かたらむも、詞なきやうにおぼえて

  129  朽ちもせぬ其名ばかりをとどめ置きて枯野の薄かたみにぞ見る
                                       (岩波・集成・全書・注解)

     みちのくにへ修行してまかりけるに、白川の關にとまりて、所がらにや常よりも
     月おもしろくあはれにて、能因が、秋風ぞ吹くと申しけむ折、いつなりけむと思ひ
     出でられて、名殘おほくおぼえければ、關屋の柱に書き付けける

  129  白川の關屋を月のもる影は人のこころをとむるなりけり
                                       (岩波・集成・全書・注解)

     さきにいりて、しのぶと申すわたり、あらぬ世のことにおぼえてあはれなり。都出でし
     日數思ひつづくれば、霞とともにと侍ることのあとたどるまで来にける、心ひとつに
     思ひ知られてよみける

  128  都出でてあふ坂越えし折までは心かすめし白川の關
                                       (岩波・集成・全書・注解)

     たけくまの松は昔になりたりけれども、跡をだにとて見にまかりてよめる

  130  枯れにける松なき宿のたけくまはみきと云ひてもかひなからまし
                                       (岩波・集成・全書・注解)

     あづまへまかりけるに、しのぶの奥にはべりける社の紅葉を

  130  ときはなる松の緑も神さびて紅葉ぞ秋はあけの玉垣
                                       (岩波・集成・全書・注解)

     ふりたるたな橋を、紅葉のうづみたりける、渡りにくくてやすらはれて、人に尋ねければ、
     おもはくの橋と申すはこれなりと申しけるを聞きて

  130  ふままうき紅葉の錦散りしきて人も通はぬおもはくの橋
                                       (岩波・集成・全書・注解)

     しのぶの里より奥に、二日ばかり入りてある橋なり

 
     名取川をわたりけるに、岸の紅葉の影を見て

  130  なとり川きしの紅葉のうつる影は同じ錦を底にさへ敷く
                                  (岩波・集成・全書・注解)

     十月十二日、平泉にまかりつきたりけるに、雪ふり嵐はげしく、ことの外に荒れ
     たりけり。いつしか衣川見まほしくてまかりむかひて見けり。河の岸につきて、
     衣川の城しまはしたる、ことがらやうかはりて、ものを見るここちしけり。汀氷りて
     とりわけさびしければ

  131  とりわきて心もしみてさえぞ渡る衣川見にきたる今日しも
                                  (岩波・集成・全書・注解)

     陸奥國にて、年の暮によめる

  131  常よりも心ぼそくぞおもほゆる旅の空にて年の暮れぬる
                                  (岩波・集成・全書・注解

     奈良の僧、とがのことによりて、あまた陸奥國へ遣はされしに、中尊寺と申す所に
     まかりあひて、都の物語すれば、涙ながす、いとあはれなり。かかることは、かたき
     ことなり、命あらば物がたりにもせむと申して、遠國述懐と申すことをよみ侍りしに

  131  涙をば衣川にぞ流しつるふるき都をおもひ出でつつ
                                     (岩波・全書・注解)

     みちのくにに、平泉にむかひて、たはしねと申す山の侍るに、こと木は少なきやうに、
     櫻のかぎり見えて、花の咲きたるを見てよめる

  132  聞きもせずたはしね山の櫻ばな吉野の外にかかるべしとは
                                  (岩波・集成・全書・注解)

  132  奥に猶人みぬ花の散らぬあれや尋ねを入らむ山ほととぎす
                                   (岩波・集成・全書・注解)

      あひ知りたりける人の、みちのくにへまかりけるに、別の歌よむとて

  105  君いなば月待つとてもながめやらむあづまのかたの夕暮の空
                                  
(岩波・集成・全書・注解)


「宮城野」
        陸奥の歌枕。宮城県仙台市東方に広がる平地を指します。(萩)(露)などの
        言葉が多く詠みこまれています。

「末の松山」
       
 陸奥の歌枕。宮城県多賀城市にある。ほかに岩手県一戸町にもあるという。
        「末の松山」は古今集初出。
      
「しのぶ」 
        陸奥の歌枕。福島県福島市。「信夫ずり」で有名。「信夫の摺り衣、もじずり」
        の言葉を入れて詠まれている歌も多い。

「白川の關」
       
 陸奥の歌枕。陸奥の入り口にあたる。福島県白河市。

「なこその關」 
        陸奥の歌枕。福島県いわき市。白河・念珠の關とともに奥州三關。

「つぼのいしぶみ」 
        壷の石碑のこと。宮城県多賀城の多賀城址にある。

「そとの濱」     
        外の濱。青森県東津軽郡の海辺にある。  
          
「衣川」 
        陸奥の歌枕。岩手県衣川村のこと。岩手県の南西部にあり、平泉町と接している。
        川としての衣川は衣川村を流れて北上川に注いでいる。この川の上流に藤原氏の
        衣川館があった。

「衣の關」 
        衣川の關のこと。前九年の役(1051〜1062)のときに安倍頼時の拠点となる。

「たけくまの松」
        陸奥の歌枕。宮城県岩沼市の竹駒神社の側にある。松の木なのに何度も
        老いたり枯れたりするという不思議さがある。

「おもはくの橋」
        どこにあるか不明。欄干がなく、ただ板をさし渡しただけの橋。紅葉が散り積もって
        いて踏み渡ることをはばかるという思い・・・という意味。

「名取川」
        奥羽山脈を源流として宮城県中部を東に流れて仙台湾に注いでいる川。

「平泉」
        岩手県西磐井郡平泉町。中尊寺や毛越寺がある。源義経終焉の地。

「中尊寺」
        藤原清衡の創建。山号は関山。金色堂が有名。堂内に藤原三代、清衡、基衡、
        秀衡の遺体と四代泰衡の首級が安置されている。

「たはしね山」
        束稲山。平泉の北上川の東方にある山。
   
  「出羽の國・たきの山・最上川・宮城野・末の松山・信夫の里・白河の關・なこその關・
   むつのく・月のみや・つぼのいしぶみ・衣川・衣の關・たけくま・おもはくの橋・名取川・
   平泉・中尊寺・たはしね山」

2005年2月13日入力
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参考文献
        岩波=岩波文庫山家集(佐佐木信綱氏校訂
        集成=新潮日本古典集成山家集(後藤重郎氏校註)
        全書=日本古典全書山家集(伊藤嘉夫氏校註)
        注解=西行山家集全注解(渡部保氏著)