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              もみの木歌集    
                      2001年度 (1)



001
2001年1月28日に友人と高雄・栂尾へ行ってきました。今は本当に訪れる
人も少なく静かな高山寺でした。一団体客と2、3組の人くらいでした。複製ですが、
明恵上人樹上座禅像や仏眼仏母像、そして、運慶作の木彫りの犬も見てきました。
明恵上人の御廟には、「あるべきやうわ」の碑と歌碑がありました。
 
    白き風栂尾樹上に吹き行きぬ
          「阿留辺幾夜宇和」命の声して

002
    子豚だと柴犬の子だと友が言う
          明恵遺愛の小犬ぽつんと


003
先日の土曜日には、W さんと2回目の詠草に行ってきました。皆さん、難しい
歌を作られます。ふり仮名を打ってくれていないと漢字も読めませんでした。
約15首(作者の名前はわからない)の中からそれぞれの人が5首づつ選んで、
感想を述べ合うのですが、「字が読めて理解できないと感想なんて言えない」
という状態です。まずは、わかりやすい歌を選びました。
私の歌はわかりやすいです。

    
現身うつせみの輝く視野の一点に
          
大和やまと背にする二上にじょうの山あり
 
大津皇子は二上山の上にまつられていますが、そのお墓は、大和を背にしています。
その二上山が、晴れた日には、泉州の方からよく見えるのです。

004 
先日は今年退職される方の送別会が大阪でありました。その帰る時、関空快速を
待つホームで作った歌です。

    
牡羊座無駄なエネルギーは丸注注を丸で囲んだ字
              
雨のビル間の電光掲示に

005
今日通勤途上、白い雪が風花のように舞っていました。その時、
坂のことも頭に浮かびました。
 
     これやこの行くも帰るもわかれてはしるもしらぬも逢坂の関
                         (百人一首 第十番  蝉 丸)

「坂」というのは、昔の人々にとっては神聖な場所であること。何かと何かの
境界線であること。この世とあの世も境目(坂)で区切られているということ。(?)

   待つ春の野辺より迷いし桜かな
           この世でふぶき雪となり散る


006
昨年の4月の下旬に光厳院が晩年過ごした京都京北町にある常照皇寺を
尋ねた時作った歌です。御陵もありました。光厳院は北朝第一代の帝で、
『風雅和歌集』を親撰しました。

    高雄より栂尾よりもなお遠く
           光厳院眠る風雅の里は


のどかないい所でした。また今年も行ければいいなと思っていますが、
いけるかどうか。桜を追いかけるのは忙しいですね。

007
    来る春は年々歳々されどなお
           心に残る山間の風


ハイキングでたくさん歩いた後、時折、フヮ―と通り過ぎる風にあたりながら
一休みして見る里の景色は言葉で説明しようが無いほど素敵です。

008
      茶髪かと見紛うほどの枝垂れ梅


通勤途上の梅の歌です。

009
前日まで一緒に勤務されていた職場の方が突然亡くなりました。その方の机の
中を整理されていた人が、机の引き出しの中から、生命保険会社の方から
いただいたお花の絵葉書を数枚見つけました。そして、形見にいただきましょうと
言われて、数人の女性達で一枚づついただいたのですが、私はその絵葉書の
中から、山吹の花の絵はがきを選びました。もらった後、そうだ、山吹の
花の色は、黄泉の国を意味するんだと思いました。

    人逝きて山吹咲きぬ絵葉書の
           机の中を片づけし時


   山吹の立ちよそひたる山清水汲みに行かめど道の知らなく 
                             (高市皇子)

  山吹の花が飾っている山の清水を汲みに行こうと思うが、道がわからないことだ。
  「山吹(=黄)」と「清水(=泉)」で黄泉の意味を含んでいる。
  
010
4月の初め、西行MLのメンバーが十数人、西行の終焉の場所といわれる
大阪河南町にある弘川寺に集まりました。その時、桜の散る様子について、
その様を見ながら、K さんと少しお話をしました。K さんが言われるには、
「そうですね。光に反射して '花光る' '風光る' '風に舞う' いろいろいいますね。」
と言われてました。

    散る様
(さま)はハラハラと散る光散る
            舞散る他にいかにか詠まむ

011
西行塚と似雲のお墓が両側にあるその真ん中の木陰に座って、
お弁当をいただき、皆でくつろぎました。

    西行と似雲の座する大広間
          花びら敷きて我らを迎えぬ

座って両側の光のあたる方を見ますと、花びらが光に輝きながら
止めどなく散っていました。

012
    西行の歌碑に花びら降り積もれ
          花への思慕に応えるように

013
    時間的経過があればつかの間に
          花びら模様の床が濃くなる

014
弘川寺から帰りに、Kさんが、車で少し遠回りをして、葛城山麓の
弘川寺の桜の全景を見せてくれました。

    葛城の西に桜の道ありて
          辿り登れば西行の待つ

015
K.Yさんの桜のシャンペンと、シェフT.Yさんのこだわりのお菓子を
詠みました。シャンペンとフランボワーズ(木イチゴ)入りの色鮮やかな春の
お菓子もご馳走になりました。

    あくまでも桜色なるシャンペンは
          春を抽出サクラという名

016
    シャンペンと木苺入りのサバイヨン
          酸っぱい味の春が萌えてる


017 
W さんと一緒に國枝先生のお葬式に行ってきました。生前中、病気で療養中の
先生に、時々お手紙を書かせていただくのが楽しみでした。お葬式の日は、
お天気もよく、先生を送らせていただくにはふさわしい日でした。

    生垣のさつきの花の花笠に
          まわり道する師を送りし日


018
先生が亡くなってしばらく後に、友人と食事をする時、先生は蕎麦が好きだった
という話になり、蕎麦を食べようということになりました。

    先生は蕎麦が好きだったと友が言い
          師の俊成を語りて食す  


019
今日は昨日に続いてW さんとフーガ研究会の詠草に行ったのですが、
今回出した歌も弔歌(?)でした。 先日職場の同僚が急死した時の歌です。

    街角に風が舞う時眼を閉じて
          今日逝きし友に忘れ物尋ぬ


この評価は、「街角に風が舞う時」これはよくないと言われました。ここはもっと
現実的な状況を書いた方がいいとのことでした。

020
    信号を待つひと時眼を閉じて今日
          逝きし友に忘れ物尋ぬ

021
吉野の宮滝へハイキングで行きました。近鉄吉野駅から宮滝へ向かって歩きました。
吉野駅前には、天武天皇の歌が書かれている碑がありました。

    天武天皇 吉野の宮に幸(いでま)しし時の御製歌

    よき人のよしとよく見てよしと言ひ芳野よく見よよき人よく見
                          (万葉集 巻一〜巻二)

木製の西行の歌碑は

    花を見し昔の心あらためてよしのの里に住まむとぞ思ふ
                            (西行法師)

如意輪寺を通り抜けて歩きました。この如意輪寺は、後醍醐天皇が、
足利氏との争いのため京都を逃れ吉野で過ごされましたが、病床に就かれ

    身はたとへ南山の苔に埋むるとも魂魄は常に北関の天を望まん
                               (後醍醐天皇)

と、都をあこがれ遂に崩御されました。遺骸はそのまま北向きに葬られています。

杉やヒノキの川ぞいの道を登って下りて、象(きさ)の小川で昼食。
(きさ)の小川というところには、大伴旅人の歌碑がありました。

    わが生命も常にあらぬか昔見し象の小川を行きて見むため
                             (大伴旅人)

60歳を越えた老境の旅人が九州の大宰府で詠んだ歌です。
宮滝という在所を通り、やっと大きな川吉野川に出ました。吉野の宮跡の近くです。
この辺りの河原で万葉の人たちは水遊びをしたのでしょうか。その日は、
たくさんの若人がキャンプを楽しんでいました。
柿本人麻呂の歌碑がありました。

  見れどあかぬ吉野の川の常滑の絶ゆることなくまた還り見む
                             (柿本人麻呂)
 
資料館を見て、帰りは吉野までタクシーで帰ってきました。
吉野が桜の名所になったのは西行が詠んだ桜の歌以来で、それまでは
「古代は川の吉野」、「平安は雪の吉野」、「中世以降の花の吉野」と変化して
いったとのことです。吉野宮跡のある宮滝は、吉野川、青根ケ峰など、
今もなお風光明媚なところでした。
最後に私の歌です。

    山を越え宮滝訪ぬ道端に
          讃良皇女
ささらひめ待つ名も知らぬ花 

鵜野讃良皇女(うののささらひめ)= 持統天皇 は、宮滝を愛し、
よく訪れたそうです。この花は後でわかったのですが、シャガでした。

022
    その昔天武歩きし道を行き
          同じ仰ぎし青根が峰見る

023
    夏浅くホケキョの声も幼くて
          緑の影に届かずおちる

024
    宮滝の常滑(
とこなめ)の絶ゆることなきも
          歴史留めぬ若人集う

宮滝の歴史に関心のなさそうなたくさんの若人がキャンプをしたり
水遊びをしていました。

通勤途上のお寺には、周期的にいろいろな歌が書かれてあります。
通勤途中の楽しみでもあります。

    ああ麗しい路離(デスタンス)つねに遠のいていく風景
                               (吉田一穂)
    悲しみの彼方母への捜り打つ夜半の最弱音(ピアニッシモ)
                               (吉田一穂)

025
団体旅行で初めて尾瀬へ行ってきました。5月の終わりでしたが、山道には
雪が残っていました。尾瀬は春のはじまりで、斜面にはほんとうにフキノトウが
一杯ありました。でも摘む人も無く、天然記念物の土地でもあるので守られています。

    尾瀬沼は春のはじまりフキノトウは
          天然記念に守られて咲く


026
本物のカッコウが鳴いているのですが、不思議なものです。 横断歩道で聞く
カッコウの声と同じなのです。実物の声の方が不思議に思われます。

    尾瀬沼のカッコウと鳴くカッコウは
          横断歩道のカッコウと同じ

027
水芭蕉は、ところどころに寄り添って恋人同士のように、家族のように咲いています。

    尾瀬沼の水芭蕉は寄り添って
          数万年の泥炭に咲く

028
燧ケ岳はまだ白く威厳をもってそびえています。

    白き峰の燧ケ岳は冬なれど
          水芭蕉には春の風の吹く


029
滑らないようにと真剣に歩いている背後より、演歌が聞こえてきます。
数珠繋ぎで歩いているのですが、誰か女の人がつぶやくように歌っています。
後ろを振り向こうにも足元が気になって振り向けません。

    背後より 「もとの十九にしておくれ」 
          悪戦苦闘の雪山で聞く

030
    待ちわびた五穀豊穣を期する雨 
          通勤急ぐアスファルトをたたく


031
矢田寺の紫陽花を見に行きました。

    矢田寺の8000株の紫陽花と
          1本の沙羅双樹無常を説きて咲く


032
    深海の藍き色なり十の字の
          ガク重なりぬガクアジサイは

033
5月のフーガの会の詠草に出した私の歌は、

    吾もかつて人に与えし痛みかと
          心編む日にフリージャすがしく


下の句は例えば「フリージャに水をやる」というような現実的な
内容の方がいいと言われました。

034
堺市博物館の側にある茶室には水琴窟があります。

    手の水を水琴窟に注ぐとき
           凍てし利休の声が聞こえる

035
日帰りで東京へ行ってきました。

    「僕はここ ここに居るよ」と気がつけば
           夕闇に富士 富士川より見る


036

バスツアーで伊吹山へ行きました。

    トラノオの繁る斜面は青空へ
           バベルの塔の道かとぞ思ふ

ルリトラノオというのは、虎の尻尾のような形で瑠璃色をしています。

037
西行の歌に

      夏の夜はしのの小竹のふし近みそよや程なく明くるなりけり
                               (西行法師)

という夏の歌があります。私が夏の夜の歌を作るとすれば、

    夏の夜はクーラーの風をタイマーに 
          そよや程なく切れて明くなり

038
晩夏、葛城山上へロープウェイで登りました。

    トンボとぶ葛城山の高原に 
          西行、小角の風を結びて 
    

039
    やはりまだ蝉は鳴いてると思いつつ 
          葛城褥に歴史夢見る    

040
    杉木立三角錐の空間を 
          臥して見上げる夏の日の空  


041
今年は桜の時期に数人の知人が亡くなりました。

    新緑は華やぐ宴の座を立ちて
          逝かれし人の桜忌と思ふ

042
鈴鹿サーキットへ、バスツアーの付き添いで行きました。時々小雨が降ったり
やんだりして、蒸し暑い空を眺めていたのですが、その空を背景にじわじわと
回る観覧車が印象的でした。

    結露ある重き空ゆく観覧車    
          過ぎ行く夏の余韻でまわる

043
    絶え間なくうなり響かすサーキット 
          ハイビスカスは空を見ている  

044
    サーキットも人の心もマイペース
          観覧車こそ則(
のり)を刻めよ

観覧車シリーズでした。

045  
    癒しとはやさしさといふ究極の
          ハーブは人のこころと思ふ

                                   

046
    秋篠という名の寺へ秋に行く 
          萩咲く秋も感じ入りたく 


赤と白の萩が咲いていました。 
  
047
    古寺には緑の木々に苔という
          天と地があり技芸天香る 

048
    山はだの胸元飾る彼岸花 
          棚田の縁を紅く連ねて


049
    秋草を刈り終え置きし帽子より
          迷子になった蟻が一匹


草刈をして家に入って帽子を机の上に置くと、蟻が1匹帽子の中から出てきました。

050
   君想ふ昨日今日明日合わせれば
          白となるなり光三原色 

 
            
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