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               もみの木歌集 
                     2002年度
                   第六部 (251〜276)             



251
   牡丹餅もお萩も仏の供え物
          春と秋との彼岸の花なり  


卒業祝いにいただいた浄土宗「自分に気づき、仏に出会う」を今読んでいます。
新しい発見があります。    

252
   幾たびも鏡に顔を映すのは
          形を持たない心を見ている 


253
   方丈は何もなきゆえ広がりて
          小宇宙なり逆転発想


254
   鉄柵を一本一本握りしめ
          冷たさ確かめ行く青年を見る 


11月27日で公開講座は終わりました。鞍馬の近くなので夜は特に冷えます。
夕方、スクールバスを待っていると、一人の青年が冷たい風の中、冷たい
鉄柵を一つ一つ握りしめて去っていきました。人の幸せってなんなんだろうと、
一生懸命生に生きている人を見るとそう思います。 

255
   おさな児に自律神経の話する
          厚着をすると働かないこと  


年間を通して季節に応じた身体づくりをしようと取り組んでいますが、
乾布まさつ、うすぎ、かけっこ等は、交感神経、副交感神経を鍛える
ものです。子どもたちに何故するのかを説明しました。

256
   画用紙の風邪のウィルス無くなりぬ
          壁に貼りいし保健教材  


風邪予防のための手洗いや、うがいの大切さを話しました。よくわかるように、
紙でウィルスを作って、人体図の喉や手に貼り付けておいたのですが、
ウィルスは掲示した翌朝には無くなっていました。

257
   来季また受講希望と書いておく
          経営事情ある公開講座に  


講座が終わったあと、講座についてのアンケートがありました。
来春もぜひ受講したいと書いておきました。

258
   初めての老眼鏡の友に言ふ
         「ハリーポッターもそんなんかけてた。」
 

同僚の中で一番若いと自分で言っていた人が、とうとう老眼鏡を作りました。
ハリーポッターのメガネによく似たまん丸いメガネでした。

259
   約束をするから来ないしなければ
          来られますよという用件もあり 


「約束をしているのに、なかなか来てくれないことがある。」という話をある方が
されたとき、上司が「約束をするから来ないんですよ。来られた時につかまえて
お話したらいいんですよ。」と言われたそうです。
   
260
   衣(ころも)打つ砧(きぬた)の音はなけれども
          ふるさと思う秋の訪れ


西行は何を着ていたのだろうという話題から、「衣を打つ」という話題になりました。
西行と同じ時代の藤原雅経(1170〜1222)の歌です。

     み吉野の山の秋風さ夜ふけてふるさと寒く衣うつなり 
             百人一首(九拾四)                   

(この歌碑は吉野の竹林院の小高い丘の上にたっています。)
冬支度として、家族のため夫のために麻を砧で打ってやわらかくします。
里に響く砧の音。しみじみとした哀歓があります。         

261
   鼓膜から震動伝える耳小骨 
          槌・砧・鐙 衣打たねど 


昔、解剖生理で、中耳にある三つの耳小骨を習いました。鼓膜の響きを、
三つの骨が伝導させて内耳に伝えていくのです。その骨の名前は、
「つち・きぬた・あぶみ」。「きぬたって、何だろう」と思っていましたが、今回、
「衣を打つ」という話題をきっかけに調べていくと、やっとわかりました。
槌と砧(きぬた)に似た骨が、槌で砧を打つように音を伝えていくということで、
名前がつけられたのだろうと一人で納得しました。

262
   精霊の誘(いざな)われたる贈り物 
          雪を解かせしクリスマス・キャロル

クリスマス・キャロルのビデオを見ました。「心が豊であることの大切さ」に
気づくというストーリーです。もうすぐクリスマスです。

263
   「歌枕見てまいれ」という左遷ありき
          実方塚へ西行訪なふ      


   かくとだにえはやいぶきのさしも草さしも知らじなもゆる思ひを 
          百人一首51藤原実方朝臣

「古事談」によれば藤原行成(三蹟の一人)と争った様子を一条天皇が
見られて裁量され、実方に「歌枕見て参れ」と言われた。実際は陸奥への
左遷である。実方は任地で没したが、亡くなって百数十年後、西行は
初度陸奥の旅の時、この実方の塚を弔った。
この時、西行が詠んだ歌

  くちもせぬその名ばかりをとどめ置きてかれ野のすすき形見にぞみる
                 西行

264
   鬼一人残されいたり佇めば
        夕暮れの幕下りし街あり   
    

265
   寂しさも適量なれば快適と
        ブレンドしつつ生きる現代 


先日、NHK歌壇にゲストで出られたK.H先生がこのような意味の
ことを話されていました。「ちょっと寂しいくらいが気持ちよく過ごせる。」     

266
   ルミナリエの一灯一灯の呟きは
        祈りに似たりガレリアを行く   


神戸ルミナリエが12月12日より開催されました。ガレリア=光の回廊 

267
   腕時計で遊ばせている二分間 
        進めおきたるわが時間なり

 
腕時計をいつも少し進めておくのが好きです。同じことなのに、
何故かゆとりがあるように感じるのです。

268
   「また来るわ」と帰って行く子
        「元気なら来なくていいよ」保健室には


一瞬、返事に困りますが、気持はそうでも、「またおいでね」と言います。

269
   発熱の園児迎える祖母の手の
         買い物袋にリリーの桃缶   


園児が発熱したので、お迎えをお願いする電話をかけると、大分時間が経過して、
園児の祖母がお迎えに来られました。「孫に食べさせようと思って先に買い物を
してきました」と買い物袋を持っておられました。缶詰があったかどうかは
わかりませんが--。
リリーの桃の缶詰については、「痴呆」の本の中でも、むら山豊氏も書かれて
いました。「たらちねの」が母の枕詞なら、小さい頃、病気の時に出てきた缶詰は
病気の枕詞にならないものかと、無理だと思いながら、ふと思いました。

270
   代々に受け継がれたる余興と言ふ
          本音こぼして年を忘れる   


職場の忘年会がありました。今年転勤してきたところなので知らなかった
のですが、グループ毎の余興は、熱が入っていました。半端ではない余興には、
職場の伝統があるようです。私たちのグループは採れたての大根に編みタイツ
などをはかせて、セクシーな(?)ラインダンスをしたのですが、他のグループは、
20年後のオニャンコクラブとか一日ディケアーサービスなどの出し物をして、
大いに受けていました。新鮮な大根は、もらって帰って、翌日は大根サラダに
なりました。

271
   一瞬の闇塗られたる夕景色
         山上にありし雲も幻影 


高速道路から遠くの山を見ていると、一瞬の内に山の上の雲が見えなく
なってしまいました。今日は冬至です。

272
   横雲は東の空にひろがりて
         光重たく冬至迎える 


「横雲」を辞書でひくと「なびく雲」とあります。冬至の朝の雲も横雲ですが、
なびいてはいない停滞しているような横雲でした。

      春の夜の夢の浮橋とだえして峰にわかるる横雲の空  定家 

273
   故郷の光と土と潮風の
         蜜柑香りて掌にあり   
 
 
274
   竹ノ内の旧き峠に来てみれば
         難波の風と飛鳥の風吹く 


シルクロードの東の端と言われる竹ノ内街道へ行ってきました。
日本官道第一号と言われる街道です。その峠まで登って、左右を見わたすと、
大阪の町と奈良の町の両方が見えました。  

275
     二上(ふたかみ)の山より望む大和には
          波静かにて三山浮ぶ


二上山の上から見る大和平野は静かです。耳成、香具山、畝傍山の三山は、
平野に浮ぶ舟のように見えます。
                      
276
   ただごとの山ではないと思いけり
         二上山には太陽道あり


二上山の雄岳の上には天武天皇の皇子、大津皇子の御陵があります。
春分、秋分にはこの山の上を太陽が通り、太陽道(伊勢神宮―長谷寺―
二上山―大鳥神社 を結ぶ線)があるそうです。

   うつそみの人にあるわれや明日よりは二上山を兄弟とわが見む 
 
大伯皇女が大津皇子のことをうたった歌です。


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         以上、2002年12.29まで

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