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         も み の 木 歌 集   
                  2 0 0 4 年 度 
                   第一部


01  1/02
   よき年になると思へりなにとなく
          去年
(こぞ)の桜の年賀を見れば

春爛漫の醍醐の桜の年賀葉書をいただきました。桜にはやっぱり生命力があります。 

02
   幾年かぶりにあなたの写真見る
          新しき年も同じ年の差 


友人が知人の写真を見て、「年をとったねえ」と言われました。おたがいさまですが---         
03  1/03
   我もまた業平の道歩きたり
           実像越えし大和の春に  


以前、奈良にハイキングへ行ったとき、「業平の道」を歩いたことがあります。
「何故、業平の道か?」その時はわからなかったのですが、「高安の女」に通った
道だったようです。業平の実像を越えた虚構の産物と言われる伊勢物語ですが、
大和の春には、実像以上のものがありました。

04            
   悲しいと言わない分だけ悲しみが
            胸を衝くなり白鳥の歌


菅原道真の白鳥の歌となった「謫居春雪」は、あくまでも理知的に構成されている
詩です。
「白鳥の歌」を辞書でひいてみると、下記の通りです。
〔(ドイツ) Schwanengesang〕
(1)死のまぎわの白鳥が歌うという歌。
(2)転じて、最後の歌。最後の作歌・作曲・演奏などをいう。シューベルトの歌曲集が有名。

私は、これまで知らなかったのですが、「白鳥の歌」とは、「最後の歌」ということだったようです。

05  1/05
   出ておいで蝸牛さんと呼びかければ
            顔を出すなりかくれんぼの子


机の下に隠れた4歳児に、「出てきなさい!」とまともに呼びかけても、なかなか
出てこないのですが---

06
   能煩野
(のぼの)より白鳥来たりしこの土地を
            鳳
(大鳥)と呼ぶ戦士の眠る

初詣は、堺市にある大鳥神社へ行きます。
この神社は、伊勢の能煩野(のぼの)で亡くなった日本武尊が白鳥になって飛び立ち、
最終、この神社に降り立ったと言われているところです。

07  1/14
   赤緑紫黄の蝶が飛ぶ
            背景は白私のハンカチ 
              

08

   さくら坂の友が言ふなり

            弘川に一番桜もう咲いてたと

河南町に住む友人が、初詣に弘川寺へ行かれたそうです。西行塚もある山の上には、
もう一本の桜が咲いていたよと伝えてくれました。

09
   待ち人は必ず来
(きた)るというみくじ
            指きりしている神々の手と 


10
   自転車も人も歩道に立ち止まり
            傘広げ行く俄か雨の朝      


11
   限定の青空一枚付いている
            露天風呂あり隣の街に


12
   和泉より和泉式部を聴きに行く
            遥かな京(みやこ)へ今1時間


わざわざ説明しなくてもいいのですが、この「遥かな」という詞と、「JR関空特急はるか」
(京都から関空まで)の「はるか」を掛詞にしました。和泉の国から京都まで現在約1時間で
行けます。恋の歌の多い和泉式部ですが、恋の絶唱歌(逢わない恋)です。

        夢にだに見であかしつるあかつきの恋こそ恋のかぎりなりけれ 
                       和泉式部

13  1/19
   来世は親子でいたいあなたとは
            離れていても同じ脈打つ


14
   新雪が畑の畝をトッピング
            こんなケーキを見たことがある


15
   上代のテスト近づき我が家まで
            家持憶良図書館より来る


16
   「磐姫眠れる佐保路へ行きますよ」と
            仁徳陵まで御用聞きに行く 
    

    ありつつも君をば待たむうちなびくわが黒髪に霜の置くまで 
             磐姫皇后 万葉集2−87

この歌は、夫である仁徳天皇に対して詠まれた歌です。
磐姫皇后の御陵は奈良の佐保路にあります。
仁徳御陵は、通勤途上近くにありますので、今朝も通りました

17  1/22
   手袋の温かきこと感じつつ
          雪のホームに水仙を見る
 

今朝は9時前の外気温は零下3度でした。

18           
   木枯らしに背中押されて帰る道
          雲の切れ間にオリオン輝く  


19  1/24
   熊野へはいつかいつかと思ひつつ
          小栗街道日々に横切る       
  

小栗判官で有名な小栗街道(熊野街道)を毎朝横切って駅に行きます。

20
   西行と百人一首の助けあり
          平安・中世認定試験 


放送大学の単位認定試験を受けました。

21  1/29
   世間
(よのなか)を詠い続けた憶良なら
          話してみたい仕事のことなど     


中西進先生の山上憶良の講座を聴かせていただきました。
憶良が歌の中でよく使う言葉に、「世・世間(よのなか)・世のこと等」があります。
憶良の「世」は、一区切りの「世(人間関係)」だそうです。
 
   世間(よのなか)を憂しとやさしと思へども飛び立ちかねつ鳥にしあらねば
                     巻第五 893
22
   士
(おのこ)にはなれなかったと言うけれど
             今も優しき憶良の歌は 


憶良は、どのように自分のモラルを追及したか?
自ら士(おのこ)であるべきだと考えた。(お話の中より)

山上憶良の病に沈みし時の歌一首
    士(おのこ)やも空しくあるべき万代に語り続くべき名は立てずして
                     巻第六 978     

23  2/01
   嬰児
(みどりご)は顔の綻びキャッチして
              嬉嬉
(きき)と笑って光に泳ぐ  

生後6ケ月の無表情に遊んでいる赤ちゃんに、にこっと微笑みかけると、初めはじーっと
見ていますが、しばらくして輝くばかりの笑顔でにーっと返してくれます。また、微笑み返すと、
今度は手足を空中に泳がせて喜びます。笑顔のキャッチボールです。

24
   保育所は親子の成長看る所
              「特殊レポート」読みて思へり 
    

子どもの家庭も様々な複雑なケースが増えてきました。子どもと一緒に親も成長していくのだと
思います。16年1月号の「保育と保健」を読んでいます。

25
   仕事終え口紅ひきて夕闇に
             出れば独りの人となるなり       

26 2/6

   ぜんざいかおはぎになるか未決定の
             アズキ煮るなり冬の夜長は

     
27

   場所変へて月を見るのもまたいいと
             転勤に思ふ立春過ぎて


28

   また行こうリュックに詰めた山辺は
             面白かったとあなたは言ふなり  

29 2/08
   小さき手で祈り始めた木蓮に
             まだ雪が舞う秋篠の寺             

佐保・佐紀路を歩いてきました。秋篠寺の伎芸天の微笑みは、見る人の心を
深く受け入れてくれるような優しさがあります。

30

   南天の実の紅くあり
             生駒山遥かに望み佐保・佐紀路行く           

31
   モーニング・アフタヌーン・グッドナイト・
             ポットのハーブは案外お喋り   

32  2/11
   肩張らず流れのままに歩いてく
             冬陽
(ふゆひ)やはらか新宿のまち 

33
   陽だまりに遊ぶふっくら雀たち
             高層館上見知らぬ鳥ゆく

11日(祝)、日帰りで新宿まで行ってきました。大阪の自宅から往復7時間、東京にいた
時間7時間、夜の8時過ぎには家に帰って来ました。


34

   深々と雲の帳の中にあり
             富士見席より山裾野見る              

35

   今日独りまた死を選ぶ人あれど
             われ等は生きる他人事
(ひとごと)として   

人身事故があり帰りの電車が遅れました。

36

   駐在所と都庁の壁に見守られ
             青きテントはひしめきて在り  

37 2/13
   最期まで残ってしまった動く海老
             白き衣の天麩羅揚げる


近海で採れた小海老を天麩羅にしました。

38
   木々の芽はまだ春知らず巡り来る
             華やぐ宴や出会いと別れも 


39
   春になればまた来るからねと声かける
             土手の桜と私の未来に


昨日の午後、行基がつくったという久米田池(周囲2.6Km)までミニハイキングで
行ってきました。隣町にあります。久米田寺には、行基の墓、光明皇后塚、
橘諸兄塚などあり、大きなお寺でした。

40  2/21
   やや多しまだ少なしと速度告ぐ
             花粉情報春は躊躇
(たゆと)

41
   どれくらい涙流せば春鏡
             瞳は桜の色を映さむ


鏡違いですが、今「大鏡」を読んでいます。
                
42
   電線の五線に並ぶ雀たち
            夜明けの歌は朝日背にして

朝日に向かってではなく、背中を向けて電線にとまっていました。

             
43 2/23
   大極殿基盤に立ちて振り返る
            天守閣もあり難波の空には 


府立図書館からの帰り道、難波宮跡へ行ってきました。宮跡には大極殿基盤が作られて
いました。その上に登って後ろを振り返ると、NHKの建物、大阪歴史博物館、
そして大阪城が見えます。時空を超えた歴史が入り混じった空間です。

44
   遥かなる難波の宮と同じ風
            山茶花揺らして通り往きたり

中西進先生が「万葉集」の講座の中で、「五風十雨」という言葉を知っていますか?と
言われました。そう言えば、春一番が吹いたり雨が降ったりの最近のお天気です。
「五風十雨」を辞書で見ますと、
〔五日に一度風が吹き、十日に一度雨が降る意〕気候が順調なこと。また、
天下が穏やかに治まっていること。
と書かれていました。

45   2/29

    鶯の初音聞こえし夕暮れに
            木の間に崇く月影はあり
                 

夕方、公園の木の上から確かに鶯の鳴き声が聞こえてきました。
でも、完全なホーホケキョなのです。本当に本物なのかなあと思いました。

46

    大阪は日の下
(もと)にあり古より
            大和の国から日々陽は昇る

2月29日(日)は、中之島図書館100周年記念式典で
中西進先生の記念講演「汽水圏と日本文化〜大阪をめぐって〜」を聴かせていただきました。
「大阪は川と海の水が混ざった場所(汽水圏)に栄えた地帯であること。また、大阪は、生駒山
から昇る太陽の下にある・日下(くさか)にある・日の本にある。日本という言葉の元は大阪の
ことである。」等等、興味深いお話がありました。 

47
   天底にたったひとつの月沈み 
           昼間の煩事の終わりを告げる
              
  
48
   剪定という名のもとに枝を切る
           蕾の枝にも感傷持たずに 

              
49
   麦の穂に空より白き雪が降る
           春は絶間に歩みはじめる


50
   夢路より訪う人は春ごとに
           生駒の山に桜咲かせる 


   おしてる、難波(なには)を過ぎて、うち靡(なび)く、
   草香(くさか)の山を、夕(ゆふ)暮(ぐ)れに、
   我(わ)が越(こ)え来れば、山も狭(せ)に、
   咲(さ)ける馬酔木(あしび)の、
   悪(あ)しからぬ、君をいつしか、
   行(ゆ)きて早(はや)見む   (万葉集)

「おしてる」は、難波にかかる枕詞です。「おしてる 照りわたる。オシは接頭語。
光が空一面に照るさまを強めていったもの。 オシテテラスの表現もある。」
「草香(くさか)の山」は、生駒山(いこまやま)の南西側を呼ぶようです。中西先生の
お話の中にありました。                 


          以上、2004年3月23日まで

  2003年(5)   2004年(2)


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