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もみの木歌集
2002年度
第三部 (101〜150)
101
花屋さんの荷台に揺れるスターチス
清しその青暑さ拭いぬ
102
約束のホームに向かふその時の
心懐かし大和路へ行く
秋にはまた行きたいです。
103
枝豆に冷たくひやしたトマト添え
グレープフルーツ夏の定番
最近の昼食の定番です。
104
青紫蘇と開いた鰯の数が合う
立秋なれど今日も夏空
今夕のテレビニュースでは、福岡のまだ青い栗の実が写っていました。
105
我に手をさしのべ外を指さす子
揺れる木の葉に光こぼれて
106
幼子の両の手握り目に語る
「たたくのはだめ。お口で言うのよ。」
107
我が前に来たりて痛き場所探す
それがいつもの帰りの挨拶
108
生活のリズムの要は挨拶と
講義ありけり難しきこと
「簡単なこと」としようかと思ったのですが、現状を考えて「難しきこと」としました。
109
タイトルにひかれて買いし週刊誌
子どもを育てる親の教育
週刊文春8月8日号 「三歳までに子供より親の教育を」
110
屋久島の野生のしっぽは定期券
アイロンかけて仕舞ったと言ふ
野生に返る定期券のようなものですね。
111
天平より何を見つめむ阿修羅像
我と違わぬ視線の高さで
天平時代に建てられた興福寺。1180年、平重衡に焼き打ちされたが、
藤原氏の権力と財力で直ぐに建てなおされた。守護神阿修羅は1300年間
この寺にある。高さは153cm。この阿修羅の表情は、釈迦の教えを聴こうと
決心した時の真摯な表情とのこと。8月10日のNHKの放送にて
112
麩は小麦もやしは豆と検討す
アレルギー除去転ばぬ先にと
アレルギーの除去食には、賛否両論がありますが、症状が出ていなくても
検査だけで、保護者の希望と医師の指示で除去する場合があります。
食物の三大アレルゲンは卵・牛乳・大豆ですが、それ以外にも小麦・米・
魚・野菜・果物等、体質によってはたくさんのアレルゲンを持っている
子どもがいます。小麦アレルゲンをもつ子どもは小麦で作られている麩や
カレーなどのルーもだめなのです。献立をみて、前もって食材の検討をします。
もやしも豆関係になります。
113
歌詠みは偽装といふなり西行の
金の調達陸奥出張の旅
<http://www.tekipaki.jp/~archive/saigyo/html/suigin.shtml>
新渡戸広明氏のこのHPに「邪説・西行のお仕事」について書かれています。
面白く読ませていただきました。そうかもしれないと思いました。
西行は、生涯に二度にわたって陸奥へ行っていますが、第二次陸奥行の
西行の役目は、東大寺再建の為の金を調達する為の勧進にあったと
言われていますが、その金を調達し、無事に運んで来るまでには、
いろいろな工作が必要だったのかもしれませんね。
114
子規嫌ふおきまどわせる白菊は
妙趣なりけり時代が違えば
心あてに折らばや折らむ初霜のおきまどはせる白菊の花
凡河内躬恒
正岡子規はこの歌を酷評されましたが、
古今集は理知によるひねりに妙趣があります。
115
伊尹(これただ)の恋人井殿は伊勢の孫
母中務歌の背景
ただの覚書の歌です。
あはれともいふべき人はおもほえで身のいたづらになりぬべきかな
百人一首45番 謙徳公(藤原伊尹)
116
浮き抱え皆でまーるくひたすらに
走れば出来るよリバープールが
保育所で、「さあ、皆でリバープールを作りましょう。」と言って、皆で走れば
渦巻状の流れのあるリバープールが出来ます。
117
お盆の今日も出勤だったのですが、やっぱり道行く人は少なく、
信号で止まると、檀家へ行かれるのか、自転車に乗った御住職に会いました。
いつも通る浄土宗のお寺の前を通りましたが、お寺の前には、
今日はこんな歌が毛筆で書かれてありました。
ホテルの灯 まぶしく仰ぎ 施餓鬼舟
西東三鬼
歌の意味がよくわかりませんが、このお寺の御住職はどんな方
なんだろうといつも思っています。
盂蘭盆会すれ違う袈裟軽やかに
急ぐ様なり静かなる朝
118
約束とは守るためのものなりと
我も聴きおり諭されし児と
若い保育士さんが、根気よく「約束とは守るためのもの〜」と子どもに
話しています。私も新鮮な気持で聞きました。
119
幽玄の世界を泳ぐ風の盆
おわら恋歌道連れに観る
石川さゆりの「風の盆恋歌」、菅原洋一の「風の盆」、どちらも好きな歌です。
120
京に行けど送り火見ずに帰り来ぬ
その名の和菓子お土産にして
14日に京都へ行きました。どら焼のような形で、その笠の上にそれぞれ
違った五山の送り火の模様が入っています。
121
一日(ひとひ)にて燃焼させた夏ありき
遠く遥かなりあの甲子園
大分前のことですが、高校野球大阪府予選試合を見に行きました。
初回戦の相手校は優勝候補。コールドゲームで無残に敗れました。
122
煩悩がゆらゆら浄化するような
京の五山の送り火を見る
http://isweb41.infoseek.co.jp/novel/kazu02aa/ara13.html
阿部さんのHPの写真やテレビのニュースで見ました。
123
立秋の街の景色はかはらねど
流れる季節肌に感じる
体感温度と言いますが、体感季節です。
124
幼児は放心の眼で空(くう)を追う
不意に現われ消え去るシャボンを
昨日、シャボン玉をしている子どもの側で8、9ケ月になる赤ちゃんが、
その飛ぶさまを、ホォーという顔で眺めていました。
この世でシャボン玉を見る初経験です。
123
新しいエプロン姿の六地蔵
蓮の模様で浄土案内
もうすぐ地蔵盆です。
124
アザラシが一頭アザラシが二頭
天の原行く秋へ向かって
アザラシの形の雲が山の上に浮かんでいました。
125
商売の企画と思ふ自己申請
風格あげむ商品登録
「商品登録申請中」という広告を見て、そういう意図もあるのではと思いました。
冷ややかな眼です。
126
店頭の梨やブドウが秋誘う
街の路地裏地蔵縁日
今日は大阪へ行きましたが、大きな街の風景はいつもと変わりませんでした。
地蔵盆は、個々の路地裏のお祭りですね。
127
乱世を生きた女性の証なり
「問わず語り」の封印をとく
「問わず語り」は鎌倉時代を代表する「女性日記文学」とされています。
昭和15年に宮内庁書陵部で発見される迄,長い間人の眼にふれることなく
眠りつづけてきました。
128
母子(おやこ)乗る自転車を追う少年は
三兄弟なり今日街で会う
五、三、〇歳児の三兄弟が保育所に通ってきています。自転車には前後二人の
子どもしか乗れません。家からはそんなに遠くない距離ですが、いつも五歳の男の
子は自転車の後ろを走っています。母親もゆっくり走っていますし、腕白な活動的な
男の子ですが、その様子を見ていますと、「お兄ちゃん! がんばってるなあ。」
と思います。
今朝、ちょうど出会って、短い距離ですが、私の自転車にお兄ちゃんを乗せました。
私の自己満足です。
129
五歳児は五歳児なれど眼の奥に
キラリと光る原石を持つ
まだ五歳児と思いがちですが、されど五歳児です。
それは、どの年齢にもいえることですが-----。
130
夏ばての予防は睡眠朝食と
子どもに話す風邪の声して
運動会の練習が始まりますので、生活リズムの話をしました。
話す本人は夏ばて気味です。
131
三歳児に解剖生理を考慮して
今しか出来ないトイレ指導をする
男の子、女の子のトイレの使い方の話をします。
今しかできないことだと思っています。
132
木漏れ日の降頻(ふりし)く大樹の子守唄
聞きしと言ふなり屋久島の夏
この夏は西行MLで、屋久島のレポートを見せていただいて、
自分も行ったかのように錯覚してしまっています。
133
料理にはリズムが大事とシェフが言ふ
我も感じおり離乳食摂取も
料理にも闘技においてもリズムが大事とテレビで話していました。
私も、料理を食べる側、「美味しいねえ、美味しいねえ」とあやしながら
スプーンを運ぶ離乳食摂取もリズムだと最近感じます。
昔々で始まる童話にも、物語においてもリズムは大切なものですね。
134
さみしさも模様ありけり若き日と
異なる彩度でコーディネートす
「最近は淋しさや孤独が心地いい時がある。年をとるということは相手との
距離のとり方がうまくなるということなのだろうか。」
とある方が言われました。それぞれに自分にあったさみしさとの
付き合い方を工夫しているのかもしれません。
135
我に課す三十一文字の容積に
心収める短歌というもの
136
三国(さんごく)を結ぶ七越峠には
西行歌碑に風が往き交う
「歌碑が語る西行」(岡田隆著 三弥井書店)に載っている大阪府和泉市
父鬼町にある西行歌碑を見てきました。
立ちのぼる月のあたりに雲消えてひかり重ぬる七越の峰
(西行法師 山家集)
七越峠は大阪、和歌山県境の和泉山脈の標高八百五十mの山上に
あります。ここは西国三番の粉川寺から四番の槙尾山へ越す遍路道
でもあり、生活のための交通の要衝でした。
昭和の初めまでは茶所もあったそうです。でも、この歌は熊野本宮の東に
ある七越峠にも建てられているそうです。
「山家集」の詞書には、
「熊野へまゐりけるに、ななこしの峯の月を見てよみける」
とあるので、やはりこの歌の詠まれたところはこの和泉葛城ではなく
熊野本宮の七越峠と考えるのが妥当と言われているようです。
137
夏休み明けて行く子の足どりが
重たく見える月曜日の朝
138
やたがらすの三本足の気分なり
同行二人で杖と澤行く
金剛山へ行ってきました。ロープウェイがある下の道から登ったのですが、
澤添いに登って行きました。頂上まで1時間半、杖が役に立ちました。
四国八十八ケ所の巡礼ではありませんが、杖と同行二人だと思いました。
1120mの金剛山の頂上は21℃、茜蜻蛉が飛んでいました。
139
金剛の茜蜻蛉飛ぶ草原より
遥かな雲とわが町を見る
140
世界中照らし終えたる太陽は
疲れた顔なり電線に停まる
帰路、電車から見た太陽です。
141
さよならを受ける言葉もさようなら
あしたもまたねと未来へつなぐ
後ろから大きな声で「さよーうならー」と声が聞こえてきました。
「さよーうなら。またあしたねー。」と返しました。
142
鱗雲(りんうん)は秋の大気で解(ほぐ)された
夏の雲なり泳いで浮ぶ
143
大工方遣りまわしする直前に
力抜くかに一呼吸する
144
耳ピアス数個付けたる青年も
集いて仲良き岸和田祭り
9月8日は岸和田だんじりの試験曳きでした。このお祭りは、1703年から
始まって今年は三百年祭です。相変わらず賑やかでした。
145
鳴り物が囃せば街に一本の
川が流れてやり回しする
街に白黒の半被の波が立っています。
146
救急の日にプラスアルファの話する
菊の節句ということもあり
子どもの前で救急の日のお話をしました。ケガをしないように、させないように!
でも9月9日は重陽の節句(菊の節句)でもありました。
147
哺乳瓶むし歯となりぬ驚きて
いたちごっこで予防啓発
1歳児が、思いもかけぬ哺乳瓶むし歯になりました。1歳を過ぎて、
寝る前に哺乳瓶で乳酸製品やジュースなどを与えていると、
上前歯と歯肉の部分に液が溜まって虫歯になります。
148
なにもないということがいいと感じる
快晴の空夾竹桃咲く
149
「ごめんね」と前横切れば学生の
「いいよ」の呟(つぶや)き心に残る
朝の通勤時、登校中の学生の自転車とニアミス状態になりました。
おばさんの方が前を横切ったのですが、少し突っ張っているような
学生からの一言が心に残りました。
150
座長といふ役目を終えて思ふこと
進行もまた歌かもしれない
「乳幼児健康支援一時預かり事業」の病児保育についての報告があり
進行をさせていただきました。あとで思ったのですが、研究発表の進行も
リズム、タイミングが大切だと思いました。
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