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  山の歌 「固有名詞」

   青根山・秋篠山・朝日山・浅間山・足柄山・東屋の峰・天野山・嵐山・新乳山・
   糸鹿山・逢坂山・小倉山・男山・音羽山・小野山・姥捨山・風越の嶺・笠取山・
   葛城山・神路山・亀山・雲鳥山・黒姫山・越の中山・小夜の中山・書写山・白山・
   鈴鹿山・高石の山・高師の山・高間山・たきの山・立田山・束稲山・鳥部山・
   七越の嶺・にしふく山・箱根山・初瀬山・花園山・氷室山・比良山・富士山・
   二上山・二村山・筆の山・船岡山・松尾山・三笠山・三上山・霊山・我拝師山

    
吉野山のページ   高野山のページ

   「その他」
 
   大峰・那智の高嶺・ひはらの嶺・甲斐の白嶺・くま山嶽・転法輪のたけ・
   あひの中山・熊野御山・松山・末の松山・東山・西山・くらぶ山・志賀の山・
   ほつの山・菩提山・あしひきの山・常盤山・あさくら山・はこやが嶺・鷲の山・
   死出の山
                 
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【あをね山=青根山】 奈良県吉野。

   99  
あをね山苔のむしろの上にして雪はしとねの心地こそすれ
 
【秋しの秋篠山】 奈良市。

   90  秋しのや外山の里や時雨るらむ生駒のたけに雲のかかれる

   247  初雪は冬のしるしにふりにけり
秋しの山の杉のこずゑに

【朝日山】 京都府宇治市。

   80  天の原
朝日山より出づればや月の光の晝にまがへる

【浅間山】 長野県。

  154  いつとなく思ひにもゆる我身かな
浅間の煙しめる世もなく

【あしがら山=足柄山】 相模。箱根の足柄山。

   16  雪とくるしみみにしだくから崎の道行きにくき
あしがらの山

【東屋の峰】
 奈良県。大峰山中にある峰。

   
あづまやと申す所にて、時雨ののち月を見て

  122  神無月時雨はるれば
東屋の峰にぞ月はむねとすみける

【天野と申す山=天野山】 和歌山県伊都郡天野。女人高野。
                 金剛寺がある。

   小倉をすてて高野の麓に
天野と申す山に住まれけり。おなじ院の帥の局、
   都の外の栖とひ申さではいかがとて、分けおはしたりける、ありがたくなむ。
   歸るさに粉河へまゐられけるに、御山よりいであひたりけるを、しるべせよと
   ありければ、ぐし申して粉河へまゐりたりける、かかるついでは今はあるまじき
   ことなり、吹上みんといふこと、具せられたりける人々申し出でて、吹上へ
   おはしけり。道より大雨風吹きて、興なくなりにけり。さりとてはとて、吹上に
   行きつきたりけれども、見所なきやうにて、社にこしかきすゑて、思ふにも
   似ざりけり。能因が苗代水にせきくだせとよみていひ傳へられたるものをと
   思ひて、社にかきつけける

  136  あまくだる名を吹上の神ならば雲晴れのきて光あらはせ

【嵐の山=嵐山】 京都市。

  102  よもすがら
嵐の山は風さえて大井のよどに氷をぞしく

  268  いつか又めぐり逢ふべき
法の輪嵐の山を君しいでなば

【あらち山=新乳山】 福井県敦賀市。愛発(あらち)山と当て字。正確な場所は
              不明とのこと。


   
99  あらち山さかしく下る谷もなくかじきの道をつくる白雪

【いとと山=糸鹿山】 和歌山県有田郡。

   
87  いとと山時雨に色を染めさせてかつがつ織れる錦なりけり

【あふさか山=逢坂山】 滋賀県大津市。

    春になりける方たがへに、志賀の里へまかりける人に具してまかりけるに、
    逢坂山の霞みたりけるを見て

   14  わきて今日
あふさか山の霞めるは立ちおくれたる春や越ゆらむ

  130  都出でて
あふ坂越えし折りまでは心かすめし白川の關  


【小倉山】 京都市右京区。

   45  大井河
をぐらの山の子規ゐせぎに聲のとまらましかば

   68  をじか鳴く小倉の山の裙ちかみただひとりすむ我が心かな

   88  限あればいかがは色もまさるべきをあかずしぐるる小倉山かな

   89  をぐら山麓に秋の色はあれや梢のにしき風にたたれて

   95  
小倉山ふもとの里に木葉ちれば梢にはるる月を見るかな

   276  をぐら山ふもとをこむる秋霧にたちもらさるるさを鹿の聲

   40  躑躅咲く山の岩かげ夕ばえて
をぐらはよその名のみなりけり

   89  わがものと秋の梢を思ふかな
小倉の里に家ゐせしより

   「ほかに詞書に三回書かれています。」

【男山】 京都府八幡市。

    
男山二首

  225  今日の駒はみつのさうぶをおひてこそかたきをらちにかけて通らめ 


【音羽山】 京都市。

   14  春たつと思ひもあへぬ朝とでにいつしか霞む
音羽山かな

【小野山】 京都市。

  277  
小野山のうへより落つる瀧の名のおとなしにのみぬるる袖かな

  102  宿ごとにさびしからじとはげむべし煙こめたる小野の山里

【姥捨の山=姨捨山】 長野県
     
  81  くまもなき月のひかりをながむればまづ姨捨の山ぞ戀しき
                                       
  84  あらはさぬ我が心をぞうらむべき月やはうときをばすての山
                                        
  219  天雲のはるるみ空の月かげに恨なぐさむをばすての山

【をばすて=姨捨山】 奈良県川上村の伯母が峰。

    をばすての嶺と申す所の見渡されて、思ひなしにや、月ことに見えければ

  121  をば捨は信濃ならねどいづくにも月すむ嶺の名にこそありけれ

【かざこしの嶺=風越山」 長野県にある風越山。信濃の歌枕。

   31  
かざこしの嶺のつづきに咲く花はいつ盛ともなくや散るらむ

【かさどりの山=笠取山】 京都府宇治市。

  166  まさきわる飛騨のたくみや出でぬらむ村雨過ぎぬ
かさどりの山

【葛城山】
 奈良県。大阪府との府県堺の山。

    
かつらぎを尋ね侍りけるに、折にもあらぬ紅葉の見えけるを、
    何ぞと問ひければ、正木なりと申すを聞きて

  119  
かつらぎや正木の色は秋に似てよその梢のみどりなるかな
                              (岩波・集成・全書・注解)

     
高野へまゐりけるに、葛城の山に虹の立ちけるを見て

  270  さらにまたそり橋わたす心地してをぶさかかれる
かつらぎの嶺 
                             (岩波・全書・注解)  
 
  237  よる鳴くに思ひ知られぬほととぎすかたらひてけり
葛城の~
                              (岩波・全書・注解)

   *   麓まで唐紅に見ゆるかなさかりしぐるる
葛城の峯
                              (近年発見歌) 

【神路山】 三重県伊勢市。

   高野山を住みうかれてのち、伊勢國二見浦の山寺に侍りけるに、太神宮の
   御山をば
神路山と申す、大日の垂跡をおもひて、よみ侍りける

  124  ふかく入りて
神路のおくを尋ぬれば又うへもなき峰の松かぜ

   
神路山にて

  125  
神路山月さやかなる誓ひありて天の下をばてらすなりけり

  280  
~路山みしめにこもる花ざかりこらいかばかり嬉しかるらむ

  280  
~路山岩ねのつつじ咲きにけりこらがまそでの色にふりつつ

  125  
~路山松のこずゑにかかる藤の花のさかえを思ひこそやれ(定家)

  282  
かみじ山君がこころの色を見む下葉の藤の花しひらけば   


【亀山】
 京都市。

  142  萬代のためしにひかむ
龜山の裾野の原にしげる小松を

【雲鳥】
 和歌山県那智の北方にある大雲鳥山。

  166  
雲鳥やしこき山路はさておきてをくちるはらのさびしからぬか

【黒髪山】 奈良市の歌枕。

  235  ながむながむ散りなむことを君もおもへ黒髪山に花さきにけり

【越の中山】
 越後の国、妙高山といわれます。

   24  かりがねは歸る道にやまどふらむ
越の中山かすみへだてて

  166  ねわたしにしるしの竿や立ちつらむこひのまちつる越の中山
 
  258  月はみやこ花のにほひは
越の山とおもふよ雁のゆきかへりつつ

【さやの中山】 静岡県掛川市。

   あづまの方へ、相知りたる人のもとへまかりけるに、
さやの中山見しことの、
   昔になりたりける、思ひ出でられて

  128  年たけて又こゆべしと思ひきや命なりけり
さやの中山

【書写=書写山】 兵庫県姫路市書写。

   播磨書寫へまゐるとて、野中の清水を見けること、一むかしになりにける、
   年へて後修行すとて通りけるに、同じさまにてかはらざりければ

  109  昔見し野中の清水かはらねば我が影をもや思ひ出づらむ

【しら山=白山】 越前加賀の国。

  142  わけ入ればやがてさとりぞ現はるる月のかげしく雪のしら山

【鈴鹿山】
 三重県鈴鹿市。

   世をのがれて伊勢の方へまかりけるに、
鈴鹿山にて
   
  124  
鈴鹿山うき世をよそにふりすてていかになり行く我身なるらむ
 
  250  ふりず名を
鈴鹿になるる山賊は聞えたかきもとりどころかな

【高石の山】 大阪府高石市。高師の山と同義か?

  
234  こぎいでて高石の山を見わたせばまだ一むらもさかぬ白雲

【高師の山】
 大阪府高石市。高師浜はあるが山は?。遠江の歌枕。

  276  朝風にみなとをいづるとも舟は
高師の山のもみぢなりけり

【たかまの山=高間山】 奈良県御所市。金剛山中の山。

  45  聞きおくる心を具して時鳥
たかまの山の嶺こえぬなり

【たきの山】 山形県。蔵王山の西麓。
 
   又の年の三月に、出羽の國に越えて、
たきの山と申す山寺に侍りける、
   櫻の常よりも薄紅の色こき花にて、なみたてりけるを、寺の人々も見興じければ

  132  たぐひなき思ひいではの櫻かな薄紅の花のにほひは


【立田山】 奈良市。

  72  
立田山月すむ嶺のかひぞなきふもとに霧の晴れぬかぎりは
                             (岩波・集成・全書・注解)

  90  
立田やま時雨しぬべく曇る空に心の色をそめはじめつる
                             (岩波・全書・注解)

【たばしね山=束稲山】 岩手県。平泉町を流れる北上川の東方の山。
 
   みちのくにに、平泉にむかひて、
たはしねと申す山の侍るに、こと木は
   少なきやうに、櫻のかぎり見えて、花の咲きたるを見てよめる

  132  聞きもせず
たはしね山の櫻ばな吉野の外にかかるべしとは

【鳥部山】 京都市。

   ゆかりありける人はかなくなりにける、とかくのわざに鳥部山
   まかりて、歸るに

  204  かぎりなく悲しかりけり
とりべ山なきを送りて歸る心は

  211  
鳥部山わしの高嶺のすゑならむ煙を分けて出づる月かげ

  212  なき跡を誰としらねど
鳥部山おのおのすごき塚の夕ぐれ


【ななこしの嶺=七越嶺】 七越の嶺。大阪と和歌山と奈良の府県界にある。
                 下の歌の場合は熊野山中。

   熊野へまゐりけるに、ななこしの嶺の月を見てよみける

  120  立ちのぼる月のあたりに雲消えて光重ぬる
ななこしの嶺

【にしふく山】 伊勢市。伊勢に「にしふく山」は3箇所あるとのこと。特定不可
         新潮版では「もりやま」と表記。

   伊勢の
にしふく山と申す所に侍りけるに、庵の梅かうばしくにほひけるを

   21  柴の庵によるよる梅の匂い來てやさしき方もあるすまひかな

【箱根山】 神奈川県。最高峰の神山は1439メータ。

  233  
箱根山こずゑもまだや冬ならむ二見は松のゆきのむらぎえ

【初瀬の山=初瀬山】 奈良県。長谷寺のある山をいう。

  44  郭公ききにとてしもこもらねど
初瀬の山はたよりありけり

【花ぞの山=花園山 京都市。ただし京都の花園に花園山はない。

   88  しぐれそむる花ぞの山に秋くれて錦の色もあらたむるかな

【氷室の山=氷室山】 京都市。

  194  さえもさえこほるもことに寒からむ
氷室の山の冬のけしきは

【比良の山=比良山】 滋賀県。比叡山北側の連山をいう。

  100  晴れやらでニむら山に立つ雲は
比良のふぶきの名殘なりけり

  101  大原は
比良の高嶺の近ければ雪ふるほどを思ひこそやれ

  101  思へただ都にてだに袖さえし
ひらの高嶺の雪のけしきは(寂然)

  246  
比良の山春も消えせぬ雪とてや花をも人のたづねざるらむ


【富士の山=富士山】 
駿河の歌枕。静岡県と山梨県にまたがる日本最高峰。

   73  清見潟月すむ夜半のうき雲は
富士の高嶺の烟なりけり

   
あづまの方へ修行し侍りけるに、富士の山を見て

  128  風になびく
富士の煙の空にきえて行方も知らぬ我が思ひかな

  153  けぶり立つ
富士に思ひのあらそひてよだけき戀をするがへぞ行く

  161  いつとなき思ひは
富士の烟にておきふす床やうき島が原 

【ふたかみ山=二上山】
 大和か越中か不明。二上山は越中の歌枕。

  245  雲おほふ
ふたかみ山の月かげは心にすむや見るにはあるらむ

【二むら山=二村山】 三河の歌枕。100ページ歌は近江のものと解釈できる。

   70  出でながら雲にかくるる月かげをかさねて待つや
二むらの山

  100  晴れやらで
ニむら山に立つ雲は比良のふぶきの名殘なりけり

【筆の山】 香川県善通寺市。我拝師山のこと。

   やがてそれが上は、大師の御師にあひまゐらせさせおはしましたる嶺なり。
   
わかはいしさと、その山をば申すなり。その邊の人はわかいしとぞ申しならひ
   たる。山もじをばすてて申さず。また
筆の山ともなづけたり。遠くて見れば筆に
   似て、まろまろと山の嶺のさきのとがりたるやうなるを申しならはしたるなめり。
   行道所より、かまへてかきつき登りて、嶺にまゐりたれば、師に遇はせおはし
   ましたる所のしるしに、塔を建ておはしましたりけり。塔の石ずゑ、はかりなく
   大きなり。高野の大塔ばかりなりける塔の跡と見ゆ。苔は深くうづみたれども、
   石おほきにしてあらはに見ゆ。
筆の山と申す名につきて

  114  
筆の山にかきのぼりても見つるかな苔の下なる岩のけしきを

【船岡山】 京都市。

  212  波高き世をこぎこぎて人はみな舟岡山をとまりにぞする

  208  
船岡のすそ野の塚の數そへて昔の人に君をなしつる


【松の尾の山=松尾山】
 京都市。

  99  玉がきはあけも緑も埋もれて雪おもしろき松の尾の山


【三笠山】 
奈良市。

  
15  三笠山春はこゑにて知られけり氷をたたく鶯のたき

     
春日にまゐりたりけるに、常よりも月あかくあはれなりければ

  76   ふりさけし人の心ぞ知られける今宵
三笠の山をながめて
                             (岩波・集成・全書・注解)

  142  光さす三笠の山の朝日こそげに萬代のためしなりけれ

  262  
三笠山春を音にて知らせけりこほりをたたくうぐひすの瀧(重出歌)

  275  
三笠山月さしのぼるかげさえて鹿なきそむる春日野のはら

【三上が嶽】 滋賀県の三上山のこと。近江富士。俵藤太のムカデ伝説で有名。
        二首あり。

   97  しの原や
三上の嶽を見渡せば一夜の程に雪は降りけり

  261  篠村や
三上が嶽をみわたせばひとよのほどに雪のつもれる

【霊山】 京都市。

   雪の朝、靈山と申す所にて眺望を人々よみけるに

   98  たけのぼる朝日の影のさすままに都の雪は消えみ消えずみ


【我拝師山】
 筆の山の別名。【筆の山】の項、参照。

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【大峯】  奈良県から和歌山県にいたる大峰山のこと。

   大峯のしんせんと申す所にて、月を見てよみける

  121  深き山にすみける月を見ざりせば思ひ出もなき我が身ならまし


【那智の高嶺】  和歌山県那智にある山。

   奈智に籠りて、瀧に入堂し侍りけるに、此上に一二の瀧おはします。それへまゐ
   るなりと申す住僧の侍りけるに、ぐしてまゐりけり。花や咲きぬらむと尋ねまほし
   かりける折ふしにて、たよりある心地して分けまゐりたり。二の瀧のもとへまゐり
   つきたり。如意輪の瀧となむ申すと聞きてをがみければ、まことに少しうちかた
   ぶきたるやうに流れくだりて、尊くおぼえけり。花山院の御庵室の跡の侍りける
   前に、年ふりたる櫻の木の侍りけるを見て、栖とすればとよませ給ひけむこと
   思ひ出でられて

  120  木のもとに住みけむ跡をみつるかな
那智の高嶺の花を尋ねて

【ひはらの嶺=?】
 ヒノキの原の嶺か?。夫木抄では「たはらのみね」で、
            京都府宇治田原説もある。

  167  夕されや
ひはらの嶺を越え行けば凄くきこゆる山鳩の聲

【甲斐の白嶺】 冠雪している甲斐の山をいう。
 
  120  君すまば
甲斐の白嶺のおくなりと雪ふみわけてゆかざらめやは

【くま山嶽】 紀伊にあるという山。

  168  ふもと行く舟人いかに寒からむ
くま山嶽をおろすあらしに
 
轉法輪のたけ】 大峰山中の山。どこか不明。

    轉法輪のたけと申す所にて、釋迦の説法の座の石と申す所ををがみて

  124  此處こそは法とかれたる所よと聞くさとりをも得つる今日かな

【あひの中山】 不明。伊勢市宇治の近くを指すという。他にも駿府にあるといわれる。
          相模の国の歌枕。

  154  東路や
あひの中山ほどせばみ心のおくの見えばこそあらめ

【熊野御山】 和歌山県。熊野にある山の意味。

    
熊野御山にて兩人を戀ふと申すことをよみけるに、人にかはりて

  122  流れてはいづれの瀬にかとまるべきなみだをわくるふた川の水 

【松山】 松山の津。現在の香川県坂出市の港のこと。
 
   讃岐にまうでて、
松山と申す所に、院おはしましけむ御跡尋ねけれども、
   かたもなかりければ

  110  
松山の波に流れてこし舟のやがてむなしくなりにけるかな

  111  
まつ山の波のけしきはかはらじをかたなく君はなりましにけり

  183  
松山の涙は海に深くなりてはちすの池に入れよとぞ思ふ(女房)

【末の松山】 陸奥の歌枕。多賀城市。

  159  たのめおきし其いひごとやあだになりし波こえぬべき
末の松山
 
  233  春になればところどころはみどりにて雪の波こす
末の松山

【東山】
 京都市の東山区一帯を指す。

    世にあらじと思いける頃、
東山にて、人々霞によせて思ひをのべけるに

   19  そらになる心は春の霞にてよにあらじとも思ひたつかな

    世をのがれて東山に侍る頃、白川の花ざかりに人さそひければ、
    まかり歸りけるに、昔おもひ出でて

  28  ちるを見て歸る心や櫻花むかしにかはるしるしなるらむ


    
東山にて人々年の暮に思ひをのべけるに

 104  年暮れしそのいとなみは忘られてあらぬさまなるいそぎをぞする


    いにしへごろ、
東山にあみだ房と申しける上人の庵室にまかりて見けるに、
    あはれとおぼえてよみける

 165  柴の庵ときくはいやしき名なれども世に好もしきすまひなりけり

    
東山にC水谷と申す山寺に、世遁れて籠りゐたりける人の、れいならぬ
    こと大事なりと聞きて、とぶらひにまかりたりけるに、あとのことなど思ひ
    捨てぬやうに申しおきけるを聞きてよみ侍りける


  241  いとへただつゆのことをも思ひおかで草の庵のかりそめの世ぞ


【西山】 京都市の西方の地域及び山。

    忍西入道、
西山の麓に住みけるに、秋の花いかにおもしろからんと
    ゆかしうと申し遣しける返事に、いろいろの花を折りあつめて

  60  鹿の音や心ならねばとまるらんさらでは野邊をみな見するかな

    ある所の女房、世をのがれて
西山に住むと聞きて尋ねければ、住み
    あらしたるさまして、人の影もせざりけり。あたりの人にかくと申し置き
    たりけるを聞きて、いひ送りける

  178  しほなれし苫屋もあれてうき波に寄るかたもなきあまと知らずや

【くらぶ山】 不明。京都の鞍馬山、貴船山のどちらかのようです。暗い山の意味。

  229  くらぶ山かこふしば屋のうちまでに心をさめぬところやはある

【志賀の山】
 京都市北白川の山中越えのこと。

   36  春風の花のふぶきにうづもれて行きもやられぬ
志賀の山道

   38  ちりそむる花の初雪ふりぬればふみ分けまうき
志賀の山越

【ほつの山】 
亀岡市から京都市右京区にかかる山のこと。

   94  氷わる筏のさをのたゆるればもちやこさまし
ほつの山

【菩提山】 伊勢の朝熊山山麓にある神宮寺の山号。上人は良仁を指す。

    伊勢にて、菩提山上人、對月述懐し侍りしに

   77  めぐりあはで雲のよそにはなりぬとも月になり行くむつび忘るな
 
【あしひきの山】 山の枕言葉。特定の山を指さない。

  149  
あしびきの山のあなたに君すまば入るとも月を惜しまざらまし

  242  ふかみどり人にしられぬ
あしひきの山たちばなにしげるわが戀

  238  
あしひきのおなじ山よりいづれども秋の名を得てすめる月かな

  274  
あしひきの山陰なればと思ふまに梢に告ぐるひぐらしの聲

【常盤山】 京都の常盤を指しますが常盤には山はありません。樹勢の盛んな
       山の象徴として用いられます。いつも緑の山という意味。

  151  
ときは山しひの下柴かり捨てむかくれて思ふかひのなきかと

【あさくら山】 舞楽の題名。特定の山としては福岡県朝倉郡にある。

  224  めづらしな
あさくら山の雲井よりしたひ出でたるあか星の影

【はこやが嶺】 仙洞御所のこと。ここでは鳥羽離宮のこと。

  190  いざさらば盛おもふも程もあらじはこやが嶺の春にむつれて

【鷲の山】 釈迦が説法したというインドの霊鷲山のこと。比叡山を鷲の山とも言う。
        東山にも霊鷲山がある。

  125  さやかなる
鷲の高嶺の雲井より影やはらぐる月よみの森

  219  さとりえし心の月のあらはれて
鷲の高嶺にすむにぞありける

  219  
わしの山月を入りぬと見る人はくらきにまよふ心なりけり

  219  
鷲の山くもる心のなかりせば誰も見るべき有明の月
 
  219  
鷲の山誰かは月を見ざるべき心にかかる雲しなければ
 
  220  
わしの山上くらからぬ嶺なればあたりをはらふ有明の月

  227  思ひあれやもちにひと夜のかげをそへて
鷲のみ山に月の入りける
 
  244  をしみおきしかかる御法はきかざりき鷲の高嶺の月はみしかど

  283  
わしの山くもる心のなかりせば誰もみるべき有明の月(重出歌)    
 
  283  
鷲の山思ひやるこそ遠けれど心にすむはありあけの月

死出の山

  106  さりともと猶あふことを頼むかな死出の山路をこえぬ別は

  137  此世にてかたらひおかむ郭公しでの山路のしるべともなれ(堀川)

  137  時鳥なくなくこそは語らはめ
死出の山路に君しかからば

  191  いかでわれこよひの月を身にそへて
しでの山路の人を照らさむ

  193  越えぬれば又もこの世に歸りこぬ
死出の山こそ悲しかりけれ

  204  今宵君しでの山路の月をみて雲の上をや思ひいづらむ

  208  あとをとふ道にや君は入りぬらむ苦しき死出の山へかからで

  251  つみ人は死出の山邊の杣木かな斧のつるぎに身をわられつつ
 
  255  
死出の山越ゆるたえまはあらじかしなくなる人のかずつづきつつ

     武者のかぎり群れて
死出の山こゆらむ。山だちと申すおそれはあらじ
     かしと、この世ならば頼もしくもや。宇治のいくさかとよ、馬いかだとかや
     にてわたりたりけりと聞こえしこと思ひいでられて

  255   しづむなる
死出の山がはみなぎりて馬筏もやかなはざるらむ

  256  木曾人は海のいかりをしづめかねて
死出の山にも入りにけるかな

  258  ほととぎす
死出の山路へかへりゆきてわが越えゆかむ友にならなむ

2005年3月2日入力

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参考文献
        岩波=岩波文庫山家集(佐佐木信綱氏校訂
        集成=新潮日本古典集成山家集(後藤重郎氏校註)
        全書=日本古典全書山家集(伊藤嘉夫氏校註)
        注解=西行山家集全注解(渡部保氏著)