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         も み の 木 歌 集   
                  2 0 0 3 年 度 
                  第四部


151  7/14
   多分手に届かんばかりに二上山
            太子廟にも霧雨が降る

太子町から竹之内街道を通って当麻寺、葛城古道の高鴨神社、一言主神社、
西吉野へ行ってきました。二上山の側に来ているはずなのに、霧雨に煙って
山は見えませんでした。

152
   カモ・カミと氣をカモスといふ高鴨の
            縁起見るなり鴨池の側


葛城古道にある高鴨神社は全国の鴨神社の総社にあたる明神大社です。
神社の池には鴨が金網に囲われて大事に飼われていました。神社の縁起を
見ると、上記の歌の通りです。
氣をカモスということで、この辺りに住む人は長生きをされる方が多いとのことでした。

153
   来る度に一言主
(ひとことぬし)に祈願する
           一言だけでは済まぬ思いを


欲張りですので、願い事を数えると一言ではすみません。

154
   お茶の葉にみどりの吉野入れて飲む
           霧立ちのぼる夏の山々


吉野にある古い温泉に時々行くのですが、山と川のせせらぎとお湯以外には
何もないところです。それがいいところです。

155
   カビ臭と蜘蛛アブラムシ住む宿に
           馳走もあるなりお湯とせせらぎ


こういう宿は、好き嫌いがあるかもしれませんが、静かに万葉集などを読むのも
いいものです。

156  7/19
   品質を由緒製法で謡うなり
           今昔変わらぬ生産叙事詩


古代歌謡の表現法の一つに生産過程をうたい、そうして作られたものが最高に
すばらしいということを表現する類型があります。生産叙事です。
一例ですが

橿の生に横臼を作り
横臼に醸みし大御酒
うまらにきこしもち飲せ
まろがち

現代のコマーシャルを見ていても「そのものが採れたところは景色がいいところだった」
「何年の歴史のある処だ」「それをこのようにして丁寧に作ったものだ」等、
その生産過程を謡い、だからすばらしい物なんだと宣伝しているものをよく見かけます。
昔も今も変わらない方法です。

157
   「信号の赤は進めということですか?」
            友不意に聞く自覚なき我に


職場の友人にそう言われて、「んっ?」と思いました。
「えっ?そんなことしていないと思います。」
「でも、ちゃんと見ました。駅の近くでです。」
そう言われれば、そうでした。幹線道路で、車はちゃんと止まっているのですが、
横切る車は一台もなかったので、自転車で信号無視をしました。車の中からちゃん
と見られていました。

158  7/25
   ヒイラギの小枝に掛けた殻衣
          その主追えば蝉しぐれ降る 


159
   熟田津
(にきたつ)の月は憑(つ)きと言ふ西行は
          蓮の浮き葉に宿る月詠む


    熟田津に船乗りせむと月待てば潮もかなひぬ今は漕ぎ出でな 
                   額田王 
(月の出を待つのも、月の光の呪力を身に浴びるためだった。月(つき)は憑きに
通じておりその光には強い呪力があると信じられていた。)多田一臣氏解説  
                   
    夕立の晴るれば月ぞ宿りける玉ゆり据うる蓮の浮葉に 
                    西行

万葉集の月と西行の月 月の形はどのように変わってきているのでしょうか。

160
   曇り日は「するかしないか」思案する
          笑顔がかかるプールの決断 


保育所はプール遊びのシーズンですが、梅雨が明けるまでは水温がまだ低く、お湯を
ひいてきて最低26℃にしています。水は調節できるのですが、外気温が問題です。

161
   悔しさに泣く子の瞳その奥に
          耀くものあり果てしなきもの


子ども達のエネルギー、未来の力を感じます。  

162
   子ども等が消えてしまった朝の町
          夏休みといふイベント始まる


通勤途上の街には子どもの姿は見えません。

163  7/28
   他人
(ひと)ごとの歌であるなら人麿の
      石見
(いはみ)の山は靡(なび)きしものかは

中西進先生の万葉集の講座
卷二 131〜 柿本朝臣人麿の石見国より妻に別れて上り来し時の歌二首併せて短歌
のお話を聞かせていただきました。
柿本人麿は宮廷歌人であり、必ずしも自分の経験を歌うのではなく、このような歌を
依頼されて作ったとも考えられるということで、人麿は石見へは行っていない可能性が
ある、というお話でした。石見の歌といえば、「〜妹が門見む 靡けこの山」が印象に
残っています。山々に靡けと命令しています。でも、創作歌なら、その迫力は失われて
しまいます。
石見(いはみ)=現在の島根県西半分 

164  7/29
   楽しみは受からなくてもいい試験
           勉強しては受けてみること  


橘曙覧(たちばなのあけみ)という人が詠んだ歌の一つに独楽吟があります。
独楽吟は、「楽しみは〜とき」形式で詠まれた短歌です。
今日は、放送大学の一つの教科(上代の日本文学)を受けてきました。受かれば
単位がもらえるのですが、特に目的はありません。試験が始まる前に、教科書を
資料として見てもいいことがわかりました。試験官の方が、私が初めて試験を
受ける人だとわかったためか、間違いなく答案用紙に書けているかどうかを
見てくれていました。択一回答でしたが、間違いやすいように上手に問題を
作られていました。

165  8/02
   十本の爪に銀河を描きたる
         その娘
(こ)の持てる時間の深さよ

久しぶりに娘に会ったのですが、銀河色のマニュキアでした。
暇なんだと思いました。私は職業柄、マニュキアはしたことがないのですが、
気分転換にはいいなあと思いました。

166
   人生は苦さもあるけど味もあると
         教えてくれそうなゴーヤチャンプル


最近、ゴーヤの料理をよく作ります。

167  8/8  
   偶然に席を並べて必然に
         お喋交はす予期せぬ午後もあり
      

168
   わが胸にも絡むひばりの「みだれ髪」
         投げて届かぬ思いの糸とは


テレビで美空ひばりの歌の特集を見ました。歌が上手いと言葉も生きてきます。

169
   夏の夕べフィルターに残る蝉の声
         真昼の陽射は過去の幻想


170
   ちぇんちぇと愛想ふりまく一歳児
         天使の笑顔は油断大敵


かわいいけれど目が離せない。

171  8/13
   生垣に蝉の亡骸見る朝
(あした)
         盛夏は夏の終わりと知るなり 


172
   山辺の裸足の皇女
(ひめみこ)思ふとき
         忘れた何かを探しに行きたし


「裸足の皇女」永井路子著 文春文庫 を友人が貸してくれました。

173
   子ども等の歓声ひびくプールサイド
         蜻蛉一匹夏連れに来る


水温も外気温もプールが出来る適温ですが、夏の終わりを感じます。

174  8/20
   ぐずる児を抱
(いだ)きて庭に出てみれば
         風の節間を蜻蛉飛び行く


曇り空に蜻蛉が数十匹飛んでいました。季節の流れ節目を感じます。

175
   争いも泣き声もまた虫採りに
         起因するなら虫は鳴くなり


「すみません、この虫預かっておいてください」と、トラブルの原因になる虫を預けに
きます。振り返ってみれば、子ども達の腕の噛み傷も突いた押したのトラブルも
虫採り闘争に起因しています。現場検証は雑草畑。虫ずきの子どもが、とうとう
蜂に刺されてしまいました。

176
   ポスターに蜻蛉の飾り貼り付けて
           完成さすなり九月の行事の


9月の園庭開放のポスターは、最後に蜻蛉の絵を貼るのだそうです。

177
   行く道を焼き尽くすといふ天の火を
            望みし人の燃やしたきもの


    君が行く道の長手を繰り畳ね焼き滅ぼさむ天の火もがも  万葉集 

(あなたの行く道を畳んで火をつけて焼いてしまいたい。そんな天の火がないか―)
狭野弟上娘子が越前の国へ行く恋人に贈った歌
焼き尽くしたいのは道だけではなく、世の中のすべてだったのかもしれない。

178  8/23
   言えば尚虚しきものと我は知る
           遠き昔に君は知りおり


179
   綱をかけ国引き寄せた「くにびき」と
           いふ名のバスで娘は帰る


出雲の国はヤツカミズオミズノという神が海の彼方の国の余りの部分を切り取り、
綱を掛けて引き寄せ、小さかった元のイズモに縫い付けて、大きな国にしたという
壮大な国作り神話になっている。松江行き高速バスの名前が くにびき という名に
なっています。

180
   一枚のはがきが届く明日香から
          万葉フォーラム古代の風待つ


9月に奈良県立万葉文化館で万葉フォーラムがあります。
今年は里中満知子さんと中西進館長さんの対談があります。

181  8/30
   バス停の草むらの中雑踏に
          混じりて虫の小
(ち)さき声する

JRの踏切を高架にするために駅前付近は現在工事の準備中です。電車・車・
行き交う人の雑踏に混じって空き地の草むらから虫の声が聞こえてきます。

182
   姫神の姫は愛媛の中にある
           その名が語る古代の歴史


中西進先生から額田王の熟田津(にぎたづ)の歌のお話を聞かせていただきました。
斉明天皇が難波から熟田津(松山)を通り娜大津(福岡)へ行ったコースは、新羅系
渡来人の秦氏一族が、娜大津(福岡)→下関→宇佐→高浜→姫路→難波の津→
京都(ついの住処を得た太秦)と辿った反対のコースでした。秦氏のこのコースは、
養蚕・織物の技術を日本に伝え、姫神をまつった秦氏の足跡であり、そのコースに
ある愛媛という名前の中にも残っていました。

183
   蝉が鳴く線香花火の終りのような
           晩夏に秋の夕暮れを見て


184  9/02
   博多港は那の大津なり二上
(ふたがみ)
           大津の皇子が生
(あ)れし故郷

185
   古は遣唐使往きし那の津には
           今は国際会議場あり


保育園保健学会が今年は福岡国際会議場であります。
博多港は歴史ある娜大津。行くのが楽しみです。

186  9/07
   願いごと数多並べて顔あげば
        「それで終わり?」と地蔵の眼が言ふ


いつも欲張り過ぎています。

187
   公園に夏の雑草息づいて
           遺跡の眠る大地を起こす


188
   石鹸の花の香りが飛び交って
           手洗い勧奨小さき子どもに


保育所の子どもの手洗い石鹸を液体石鹸に替えました。衛生面からの配慮です。
ベビー用のボディシャンプーにしました。子どもの手の大きさにあわせて希釈し、
花の香も楽しんでいます。

189  9/12
   振り向いた牡鹿の眼には風があり
           埴輪に残る見返りの鹿


9月7、8日と出雲、因幡へ行ってきました。
島根県立八雲立つ風土記の丘資料館には、鹿埴輪
<重要文化財・平所遺跡埴輪窯跡出土>
がありました。「見返りの鹿」です。

190
   銅剣と銅矛同時に出たといふ
           興奮伝わる解説を聞く


資料館では、ボランティアのガイドの方が、詳しく説明をしてくださいました。
「これがここの目玉の品です。」「また、これもそうです。」と次々と興奮した口調で
説明してくださり、その出土品の貴重さが伝わってきました。

191
   今もなお出雲の国の八重垣に
          稲田姫像ほほえみて待つ


スサノウノミコトと御妃、イナダヒメの御夫婦がおまつりされています。大国主命の
親神様です。スサノウノミコトが八岐大蛇を退治して稲田姫を救われました。

192
   宍道湖の千鳥見下ろす松江城
          その名は千鳥城と言ふらし


松江城は質実剛健、実践的なお城です。
ボランティアのガイドの方が説明をしてくださいました。

193
   町中に枕詞の八雲見る
          蕎麦とシジミの定食の名も


島根の街を車で走っていると、八雲という字が眼に飛び込んできます。
八雲は出雲の枕詞です。
194
   砂のなか砂粒のような人が行く
          鳥取砂丘大景の中


砂丘の大きさは、砂粒のように見える人々の影で実感できます。

195
   家持の万葉最後の歌訪ね
          コスモスが咲く因幡の国行く


因幡の雪―万葉集最後の歌
新(あらた)しき年の初めの初春の今日降る雪のいや重け吉事
                     大伴家持
759年左遷先の因幡の地で詠まれた歌です。
いつか因幡国庁跡に訪ねてみたいと思っていました。地図を見ながら訪ねて行きましたが、やっとたどり着いたのは夕闇迫る頃でした。

196
   家持の因幡の国庁夕ぐれて
            稲穂がゆれるやすらぎの中


黄金の稲穂がゆれる稲田の中にありました。

197  9/17
   秋風で衣更えした飛鳥路は
           稲穂の波に香具山浮ぶ


9月15日は、友人と奈良県立万葉文化館で開催された「万葉の日」記念フォーラムへ
行ってきました。漫画家の里中満知子さんと中西進館長さんの対談がありました。
中西先生の「万葉集の歌人の中で一番好きな男性は?」の問いに、里中さんは
「高市皇子」と答えられました。天武天皇と額田王との間に生まれた十市皇女が
亡くなった時に詠まれた歌が、十市皇女を思う気持があふれていると言われました。
私も好きな歌です。

     山振の立ち儀ひたる山清水酌みに行かめど道の知らなく  
               高市皇子 卷2−158

198  9/26
   亀石が甲羅干しする飛鳥路を
           亀バスといふバスが行くなり


近鉄飛鳥駅、橿原神宮駅前から明日香周遊バスが運行されているそうです。
亀バスという名の由来は、亀石からなのだろうか?ゆったりと行くからなの
だろうか?と友と話し合いながら歩きました。

199
   紅き空に白き雲翔ぶ舞台には
           飛鳥の調べただごとでなし


9月23日(祝)橿原市で藤原万葉フォーラムがありました。
「万葉集と藤原京の風雅」です。中西進先生他 考古学者、歴史学者の皆様の
講演、「松本玲子音楽時空紀行コンサート」がありました。
松本氏作曲の♪「飛鳥」という曲は、飛鳥時代をイメージして作られた曲ですが、
聴いていると、大化の改新、壬申の乱の争乱を想い浮かべました。

200
   玉の緒のあくがれ出
(い)づるこの月を
          西行もまた玉振り見しかも

上野誠氏(奈良大学文学部助教授)の香具山に関する講演もありました。
「万葉にみる 男の裏切り・女の嫉妬」上野氏著 生活人新書を今、読んでいます。
この本の中にこのように書かれています。
恋をすると、タマ(魂)が体から抜け出て、相手のもとに行ってしまいます。だから
恋をしている人は、ボーっとしてしまうのです。これが「あこがれる」という
状態です。(略)
しかし、タマがいつも抜け出ているようでは困ります。(略)だから、体から抜けない
ように、タマには紐がついているのです。その紐が体とタマを結び付けていると、
古代の日本人は考えていました。(玉緒)
また、玉振りとは、元気を出すことだそうです。

   玉の緒よ絶えなば絶えねながらへば忍ぶることの弱りもぞする 
          式子内親王(新古今和歌集) 


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              以上、2003年09.26まで

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