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301 七道の飛鳥の願い道創り狂いの扉かく開かれぬ

302 すれ違う樹々草獣みななべて時の堆積背負いて息吹く

303 東山道魂こもれいる魂乗せて旅人に告げる魂のありかを

304 二十七の齢(よわい)に腹を切りたまふ幽冥分かつ蓮華の寺の

305 四百人共に終わりぬはらからの契がにじむ青空の秋

306 もろともに紅蓮の炎吹きたたせ蓮華の秋にあまずただよふ

307 仲時も露の雫の落ちる間に狂いの覚悟今生終わりて

308 鎮まれよ霊よ憤怒は幾万の夜をかずきて尖りあれども

309 秋の日は寡黙に晴れて小春なり秋色満ちて街道侘し

310 さて私魂も紅葉の空にして葬儀も墓も迷ひに惑ふ

311 我が身からはがれるようにまたひとつ年は抜け落つ波紋もたてず

312 師も走るうちに立つ春押し寄せてとまどひ走る六十路の我が身

313 西行の狂いを気取り花を見る狂えなき身を弥生にひとり

314 卯月なる卯の花雪の気高さと年ふりてある我が身の色と

315 降り続く皐月の雨のひとときのあかず眺めてしあわせの声

316 水無月に祭りの渦は高巻きて京の華やぎいやましおれり

317 一掬の希望のようなもの探し歩き続けて葉月は暑し

318 あかねさす宇佐の神々まろうどの我が内に来む62歳の年に

319 神も無く限りに染めてもみじ葉はまなうらしめて降り積もりある

320 逃げ水のごとくに年は過ぎ去りぬ四季みなすべておぼろにさせて

321 掌を皿に降り落つ雪を受け止める 時空を超えて幼に戻り

322 降り積もる雪に心を躍らせて 飽かず遊びし日々よみがえる

323 幼き日遊びを先途や雪の日に 時は返れとふと思ふらむ  

324 年月は雪のロマンを奪い去り 走り来たりて浦島の顔

325 雪埋みリセットのような朝まだき 翁が一人足跡見つめ

326 でき得ればもう一度だけ跡つけて 振り返りたしわが人生の

327 来し方のまるまる雪に閉じ込めて 新たな生を切に思いし

328 雪あかり空蝉飴の色にして ともにし枝に夏と冬あり

329 見上ぐれば愛宕の高嶺雪積みて 覚悟を迫る天の意志聞く

330 紅の色して南天は新玉を ツララ従えことほぎおれり

331 籠もりいて今日も見ておりパソコンの中に広がる時のうねりを

332 四月尽夏も来るらし白妙の池のさ波も風に織られて

333 さ緑の明るき五月我が内に風は薫るか熾火のあたり

334 ツツジ花赤赤赤と盛りあがる我がくすみ火の赤より強く

335 桜散り緑の風は吹きわたるきなくさき風世には満てども

336 窓際のベッドに座してあたたかき五月の陽を浴み君は輝く

337 車椅子押して親子の道行きに輪廻の風はやはらかに吹く

338 気持ちよきほどに伸びゆく今年竹苦悩も挫折も知らなきままに

339 新しき枝葉に雪を積もらせてなんじゃもんじゃは青空穿つ

340 なんとなく若葉の色にあてられて世過ぎのつらき歳となりおり

341 夜が過ぎ明るい朝がまた来ても晴らせぬ闇はかの地覆いし

342 待たれおり燭光いまだ見えざりき原発の闇日の本乱し

343 無期の闇知りつつ魑魅や魍魎は政治ゲームにうつつを抜かす
 
344 我が生を受けし邑にも原発の建屋は村を飲み込んであり

345 一瞬を生きる命の輝きのさらに小さき一瞬のひかり

346 一瞬のひかりのために人はあり悔悟激しき我が生き様の

347 衣類出し広げて畳みまた収め婦人のなした一生の仕事

348 痴呆症進めど母は思うのか箪笥の番を我が事として

349 時脚は年経るごとに早くなり涙も笑いも畳まれていく

350 一葉に私の生も畳まれて読経の内に過ぎ行くすぐに

351 暁闇に端座して見る我がうちのひそけく漏れる水の行方を

352 古りて知る意識を巡る水はまた我が劫初から受け継ぐ水と

353 思ふれば入りこむ水に驚きて嬰児の笑みは一面に満つ

354 川があり流れに生きて永らえて水はひたひた入りこむものを

355 いつからかあふれて漏れる穴探し長き年月重ねて過ぎる

356 罪障は我が一身か血脈かはたまた大和の民族なせるか

357 ほころびた小さき穴の伏し水の苦くも甘し過ぎ越し時は

358 水脈ひとつ湧き出る水は細くして我が血脈もまた細ほそし
 
359 水減りて声無き国にとらわれて長き年月やり過ごし来て

360 我が水脈は不器用蔓に取り巻かれ終の煙の果てまでも往く

361 時は秋やさしき風は吹き来れど禍事去らぬ日の本の国

362 赫々と溶かしに溶かす日々はまたメルトダウンの恐怖にも似て

363 見あぐれば秋は青空かなたからひそけく降りてあまねく包む

364 諾々と呆けたように閲す日々秋に誘われ郷里にまみえ

365 ふるさとは重なりあえる秋の日にやさしき風は我が身に吹けり

366 古里の山河も海も年ふりて天までいたる畑なけれど

367 山は降りイノシシ多き寒村は茫々として歳月こもる

368 全身に年まとわせて伯母たちは膝が痛いと誰彼嘆く

369 日の一つ母の命の裏表吹く風善くと祈りはすれど

370 紙魚泳ぐ様にて我も日を閲しこの年の秋過ぎ去りゆけり

371 いつよりか朝な朝なのまどろみに衣通姫を焦れつつ待つ

372 何事か求むる心脱ぎ捨てて海に戻すや海人族の裔

373 廃校となりし学び舎訪ね行く象嵌久しき子が立ちもどる

374 一人逝きまた一人逝く故郷に遊ぶ子ら無く過疎の風吹く 

375 積さん文や福さんみななべて喉のたるみに齢にじんで

376 還暦を過ぎてなおかつ乞い願う飢えたる我に荒き風吹け 

377 眼の底の深みに巣食う鬼共と獣なる身で斬り結びおり
 
378 五指をもて鷲掴みする頭蓋の焼き上げられた白き幻影

379 脇侍なる普賢と文殊現れぬ独り立ち往く我がことに非ず

380 永劫を姫は来たらず冬至来てイルミの道をうつむき進む

381 年波の早きを内に籠らせて いま歩み行けあらたまの路

382 騒ぎ立つ虎落の笛の新玉の 沍てつく襞を分けつつ歩き

383 吐く息はしらじら白しよるべなく 明かり乏しき日の本の民

384 毒素をばばら撒き進むつみ人の 退職金は5億円なりしか

385 世は進みバベルの塔は建ちあれど 不条理の中変らず歩む

386 ゆえもなくあまたの御霊漂える 寒の満月光さす下

387 歩みつつ焦れる春を待ちおれど 春待月は寒のさなかに

388 小走りの足跡しるす群れの中 風は吹き荒れ野にいるごとき

389 師や士なることばはやりの末の席 我も無職士道極めおり

390 時と呼ぶ道の上行く同伴の 守護なる君は我が眼に見えず

391 主治医言う「危機は脱した、大丈夫」半疑持ちつつ明るさ灯り

392 呼びかけに弱く頷く人に言う「今年の桜も一緒に見ようよ」

393 微笑んだ如くに見えて花時の予定を思い添う部屋離れ

394 離れおり五日の内に病む人は幽冥隔つ我のいぬまに

395 故郷に走る車中で責めを負う慙愧激しく怒りに怒り

396 逢う人は棺の中に静まれる人の行くべき道ではあれど

397 頬に掌を当てて無言で見詰めれど返り来るべき瞳は開かず

398 横たわることは同じでありながら棺の中は悲しすぎるよ

399 末期なる水を含ませ許し乞う旅立ちの朝見送れなくと

400 顔もなく骨だけになり横たわる八十五年の人の世脱いで